第23話 振り出しに戻った闇の病みが流行った原因をさがせ!

「知ってるよ」


「リリィ?」


「お姉ちゃんがお兄ちゃんだってこと。でもそれが私の為っていうのはどういうこと?」


「そうか、もうわかっていたんだな。理由は覚えてないのか……」


「うん」


「リリィは昔、よく身体を壊していただろ? それで外遊びできなくて友達がほしいって泣いていたんだよ」


「だから苦肉の策で俺が女装して女の子のフリをして一緒にままごとしたんだよ。そうしたら機嫌がなおって……」


 そうか、リリィの友達となるためにロイドは女装を始めたのか。

 皮肉にもその女装が村で疎外される原因になって彼らはここに2人で暮らすことになったと、そういうわけか。


「そうだったんだ……おねぇ、いや、お兄ちゃん」


「兄としてリリィが喜んでくれるならなんだってするよ。この世でたった一人の大切な妹だよ。これでわかってもらえないかな」


 その言葉を聞いて、リリィは兄に飛びついた。


「試してごめん、お兄ちゃん」


「……俺もずっと子ども扱いしてごめんな、リリィ」


 ロイドとリリィの2人で抱きしめてる中、リリィは横目で俺を見てきた。目をウィンクしてきたから兄妹喧嘩をちゃんと終わらせたよの意味だと俺は捉えた。

 

「あの二人に感謝だね、お兄ちゃん」


「……そうだな」


「あ、じゃあ、すみません、私たちはこれで帰ります」


「え……もう帰っちゃうの、シュウくん」


 寂しそうな顔をするリリィにミヅキが俺の腕をぎゅっと掴んで「リリィさん、シュウは私の」と言う。


「私の?」


 途中で止まった言葉に疑問を持ったようでリリィは聞いた。

 

「……大切な人だから、気安く名前を呼ばないでほしいの」


 恥ずかしそうに下を向きながらミヅキは答えているので、顔が全然見えなかった。

 大切な相棒バディだって自覚してくれたようだ。

 

「そう、なんですね、ミヅキさんもシュウくんを大切だって思っているんですね」


 リリィが俺をまたちらっとみて微笑む。

 絶対に誤解されている気がするが……。

 俺は敢えてその話には触れずに言った。


「じゃあ、帰ります。短い時間でしたけど、ありがとうございました」


 ◇ ◇


 しょうがないので俺とミヅキは一度、村の宿に戻ることとした。

 戻りながら俺は頭の中でここまででわかったことを整理する。


 ・闇の病みは村の働き手の男性のみがかかっている。

 ・働き手ではない男性と女性にはかかっていない。

 ・働き手であるが、男性であるロイドはかかっていない。

 

 ロイドがかかっていないのは、物理的に距離が遠いから?

 それとも外部と一切連絡を取っていないから?

 

 なぜ村の働き手の男性だけが、闇の病みにかかるんだろう?

 違いは……。


「シュウ、前見てる?」


 ミヅキが言ったか言わないかの所で、目の前に木が現れた。もちろん俺は思いっきり木にぶつかってコケた。

 

「大丈夫?」


 差し伸べてくれた手を取って俺は立ち上がった。


「やっぱり……繋がってた方がよかった?」

 

「どうかな? 紐じゃあ、効果なさそう」


「じゃあ、こうする」


 ミヅキは俺の手を取って繋げた。


 前にリリィと走って帰った時に手を繋いだ感覚と違って、俺はめちゃくちゃ恥ずかしくなった。

 ミヅキも前を向いているので様子は伺えない。

 しかもその理由がちゃんと前を見て歩かないからって、俺は子供か。


「これからどう……す、るの? シュウ」


 恐る恐るミヅキは聞いた。

 ミヅキと俺、一緒にいる時間はずいぶん経ったのに会話をほとんどしないな、とふと思った。 

 俺はこの世界にも少し慣れてミヅキがいる日常にも慣れてきた気がする。もう話すことに抵抗はなくなった俺は考えてることをミヅキに言った。


「今、ちょうど考えてたんだけど、なんかひっかかる」


「何の話?」


「闇の病みにかかった人の話。ロイドは病気になってなくて他の若い男性だけがかかっているのは何でかなって」


「村にいないから?」


 そうだよな、村にいない。

 村にいなければ……、村にいなければ……。


 ”所定の年齢になった男性は村の仕事をするのがルール”

 

 そうだ、闇の病みにかかった人は皆、村で仕事していたんだ。

 しかも村の若者たちが働き手の中心で彼らが病気にかかったことでこの村の存続に危機が訪れてる。

 

「もしかして……」


 俺はに触れた気がした。

 考えてる俺にミヅキが覗き込んで聞く。

 長いサラサラの髪が無造作に横に落ちた。不覚にもその動作に可愛い、と思ってしまった。顔が火照る。

 ヤバい、これは確実に顔が赤くなってると思って顔に手を付けた。


「どうしたの? シュウ?」

 

 動悸が激しいぞ、俺。

 落ち着くためにも……。

 

 パンッ。

 自分の顔を思い切り、叩いた。

 

「痛っ」


 少し冷静になった。

 俺の突然の行動に、クスってミヅキが笑った。

 

「シュウ、何してるの」


 キョトンとして純粋に俺の行動について聞いてくる穏やかなミヅキ。

 綺麗だから泣くのも、怒るのも絵になるけど、俺はこのほんわかとしたミヅキの笑顔を見ていたい。


 ……その為には、まずこの村を救う必要がある。

 次、俺が確認すべきことは、もう一度、関係者に詳しいこの村の状況を聞くことだ。


 あのメンドクサイ闇の病みにかかった男性と親が素直に話してくれるだろうか?

 俺はこの先の前途多難な道筋を想像してゲッソリとした。


「あー、うん、自分で気合を入れたというか」


 ミヅキに言いながら、自分に言い聞かせる。

 そうだ、ここは気力だ!

 どうにかして話を聞き出そう。

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