第19話 頼み事は可能であれば断らない方タイプ
話を聞こうにも、しばらくの沈黙でなかなか話が進まない。
しびれを切らして俺は聞いた。
「その理由は人に言えないものなのですか?」
うーん、と考え込みながら、男性はゆっくりと話し出した。
「……今はもう村ではいない存在として扱っているんです。だから……いえ、それはこちらの話です。……役に立つかわかりませんが……話しましょう」
メンドクサイと暗い話、苦手なんだが……。
話最後まで聞けるだろうかと心配になってきて、横を見た。
隣のミヅキはなぜか俺より真剣な表情で聞いている。
うん、俺もちゃんと聞こう。
そうして目の前を向き、男性に向けて頷く。
俺の様子を見て男性も話を続けた。
「……彼は息子と同じ年、利発な男の子で昔は息子ともよく遊んでました。確か10歳ぐらいの時に急に女性の恰好をして家に閉じこもり始めたんです……。」
男性は一旦、言葉を止めた。どう伝えようか考えているようだ。そして一呼吸おいて、また話し出した。
「彼の様子に周りはびっくりしたんですが、それよりも所定の年齢になった男性は村の仕事をするのがルールでして、それを拒否して村の者たちと断絶したんです。それから誰も彼のことはわからない状況なのです……」
いろいろ突っ込みどころのある人物だな。
今は音信不通で誰もわからない、か。
それにしても、”村にいない存在”として扱っていると言ったが、男性の話し方からすると彼は闇の病みにかかっている息子の大切な友人のように見えた。
いちおう、頭にインプットして俺は次の行動を移すべく、聞いた。
「その人が住んでいる場所を教えてください」
「えっ……? 何のために?」
「病気になっているか確認しに行きます。手がかりがほしいんです」
一体この村で何が起こっているのか、何でそんなことが起きたのか、それを俺は知りたい。
俺には何の能力もないから地道に足で情報を稼ぐしかないんだと友達と一緒にやってたRPGを浮かべた。『人に話を聞く』を選択し、疑問を1つずつ潰していこう。
◇ ◇
ほんとに村はずれっていうか、ここはいちおう外壁の中なんだろうな?
そう思うぐらいの何もない場所をひたすら歩いている。
「ねぇ、シュウ。少し休みたい」
ミヅキが俺に言った。
「だいぶ歩いたからね。そこの花が咲いている場所で座ろう」
そこは一面、紫の花が咲き誇っている。
ここなら座っても痛くないだろうと、俺とミヅキはそこに腰を下ろした。
その途端に声が聞こえた。
「お花の上に座らないでほしいです」
振り返ると、そこには幼い顔をした少女がいた。
彼女はふんわりとした笑顔で言った。
「そこにあるお花を集めているから」
「あ……すみません。えっと、ちょっと休みたくて……」
「それなら少し先にベンチがあるからそこで休んでください」
そういって、彼女は持っているケースに紫の花を摘み始める。
俺ははっとして、ちゃんと休む場所を教えてくれた少女にお礼を言った。
「ありがとうございます。この花、集めて何をするんですか?」
つい、聞いてしまった。
「この花から取れる紫色……あっ」
話の途中で声を上げて、その後に「これは話しちゃいけないんだった……」と小さな声が聞こえた。
ここにも訳ありな理由があるんだろうかと思った俺は彼女にこう言った。
「あー、大丈夫ですよ。我々、ここらへんの人間ではないので」
少女は「?」という顔をしながら言った。
「……確かにここで人に会うなんて」
そして花のようにふんわりと笑って「花摘み手伝ってくれます?」と頼んだ。
俺はミヅキを見た。ミヅキはやや俺の後ろにいて、俺の腕をぎゅっと掴んで離さず、さらに俺の身体を支えにしている姿を見て、疲れていそうだと思った。
「休む?」
俺の声にミヅキは答えた。
「ううん、一緒に摘む」
え?
予想しない答えに俺は聞いた。
「無理してるよね?」
「……紫色が綺麗だから……」
そっか、この花が綺麗だから無理してでも摘みたいのか。
「じゃあさ、俺が取って後で持っていくのでもいいかな?」
ミヅキはコクリと頷いた。
ドキン。
なんだ? この鼓動は?
そう思ったちょうどに「手伝ってくれます?」と少女から声がかかった。
「あぁ、彼女は疲れてるから休ませたいんだ。俺が手伝うのでいいかな?」
「はい、助かります」
俺はミヅキをベンチまで連れて行った後に1人戻って、少女が持っているカゴ一杯になるまで花を無心に摘んだ。それは30分とかからなかった。
「ありがとうございます、おかげで少し早く取れました。もうすぐ雨がやってくるので、困っていたのです」
少女は俺にお礼を言った。俺は少女の言葉に「雨?」と繰り返し、頭上を見た。
確かに空は雲に覆われている。
「どちらまで行く予定でしょうか? 手伝っていただいたお礼にそちらまで案内しますよ?」
少女は俺に言う。
ここらへんの人間ではない、という俺の言ったことを覚えていたんだろう。
そのために手伝わせたのだろうかと思った、が俺はそのまま食いついた。
「ほんとですか? 実はこの先のロイドという方の家に向かう所でして」
「ロイド? この先の民家は私の家だけで、そこにロイドという人物はいませんけど?」
「ほんとですか?」
そう言い出した時、雨が降り出した。少女は言った。
「降り始めましたね。この様子だと強そうです。一旦、私の家で雨宿りください」
この時の俺は全く気が付かなかったが、この花摘みが意外な幸運をもたらしてくれたのだ。
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