第18話 唯一、村で病気になっていない若者

 男性と分かれてすぐに俺はミヅキの手当を男性の母親にお願いした。

 しかし、ミヅキの火傷はどうにも手首に巻いていた紐のように、跡が残ってしまった。


 俺とミヅキは紐がなくなったが、傷によってほぼ二日ほど落ち込んでいた。

 しょうがなく、俺はミヅキの部屋でミヅキのベッドの横にベッドを置いて、その二日間看病した。


 三日目の朝、ミヅキは俺より早く起きてシクシクと泣いている。

「ミヅキ……まだ痛い?」

 俺はミヅキに聞いた。


「……ううん……もう、痛みは大丈夫。でも……」

 ミヅキは言葉を詰まらせた。


「?」

 俺はミヅキの顔を疑問に満ちた目で見た。


「……欠けた気がする。完璧で入られたら……よかったのに」

 そのミヅキの言葉に今度は俺が言葉に詰まった。

 安易に『大丈夫だよ』なんて言ったら、前のように『大丈夫じゃない』と言われるのは目に見えているから言う言葉を考え込んだ。


「……そもそものそれが全てかわからないよ」


「……どういうこと? ……えっと……あの、……名前」


 名前?

 俺の?

 どうやら彼女は俺の名前をど忘れしたらしい。


「シュウだよ。ほんとの名前は柊太郎しゅうたろうだけども」


 俺は他の人に言わなかった本当の名前をミヅキに告げた。

 ミヅキは驚きもせずに、言葉を返した。


「……、シュウ、しゅうたろう、のシュウ」


「うん、そう」


「シュウ、全てかわからないって……」


「君が完璧だと思っている自分が全てだとどうして言える?」


「それは……シュウは……私がもともとから欠けていると言いたいの?」

 

 俺はミヅキに俺の言葉が伝わっていないんだなと理解した。


「ミヅキ、説明がうまくできてなかった。もう少し詳しく話すとね、そもそも完璧も欠けるというのも自分自身から見た自分だと思うんだよね。だから君がみている自分が全てじゃないって感じかな?」

 そう言ったら、ミヅキは不思議そうな顔で俺を見てくる。

 俺の解釈を頭の中で考えているようだ。


「しゅうは、不思議なことを言うのね。……そう、いうことを言われたことなかったから、まだ全部理解できてないけど、そういう考え……もあるのね」


 つまり彼女は完璧とか欠けているとか誰かに言われてきたわけなのか、と思ったが、過去の記憶がないミヅキに聞いてもそれはもっと混乱させそうなので俺は黙って頷いた。


「あのさ、ミヅキが紐ほどいてくれたんだろ?」


 少し悲しげな顔になり、ミヅキは目線を下げた。


「……ごめんね、わからないの」


 君の聖女の力で俺にケガをさせないようにしてくれたんだと俺は思っている。


「わかった。ミヅキ、その怪我だけどさ、俺は勲章だと思うよ」


「また不思議なことを……それはどうして……思うの?」


「きっと守ってくれたんだよ、俺をさ。わからないなら、そう思ってよ」

 俺は言い切った。


「……そう思えるかわからないけど……うん……」


「さぁ、もう痛みがないならそろそろ動こう、やることがたくさんあるんだ」


「何?」


「何でこの村で闇の病みが流行っているのか、しかも性別が男性の若者だけらしくて、その原因を調べたい」


 ミヅキが黙って聞いているので俺は続けた。


「記憶が正しければ、おそらく病気になっていない若者がいる。前に聞いたときは答えてくれなかった。そのもろもろ含めて何でだろうと疑問がある。だからその人の所に行こうと思って。ミヅキも一緒に行くんだよ?」

 俺の最後の言葉『一緒にいくんだよ?』を聞いて、ミヅキはキョトンとした様子で俺を見た。


「紐はなくなったけど、ミヅキ、俺と一緒に行こう。ミヅキが必要だよ」


 聖女の力がないと俺は何もできないわけで……という話は一切しないで、ミヅキが必要なんだと俺は訴えた。ミヅキは「うん」とぽつりと呟き、口角をほんの少しだけ上げたような表情で俺を見た。


 * *

 俺とミヅキは闇の病みにかかっている男性の父親の元を訪れた。


「この前、ほとんどの若者が闇の病みにかかっているというお話されてましたよね?」

 俺は疑問の1つを質問した。


「はい、それが何か?」


「ほとんどということは、かかってない方いらっしゃいますよね?」

 数日前に疑問に思ったことを聞いた。


「……」

 男性の父親は黙り、下を向いた。


「あの、……話してもらえませんか?」

 

「……すみません、秘密にしているわけではないんです。いや、かかってないと断定できるほどの情報を持っていないんです」


 申し訳なさそうに話す相手に俺は聞いた。

「どういうことですか?」


「実は生きているかどうかもわからないんですよ。村の誰とも連絡を取ってなくて……」


「……それは何か理由があるんですか?」


「……そう、ですよね。関係ないなら話したくなかったのですが……」

 はぁと男性の父親は大きくため息をついた。


 ためらってる場合じゃないだろ?

 

 訳アリな話をしようとする彼に俺も心の中でため息。闇の病みにかかった原因を言わない息子といい、いったい何があるんだよ!?

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