第13話 聖女の力、紐はなくても繋がっている
「あの、ミヅキさん? さすがに疲れているから寝たいのですけども、コレ取ってくれません?」
ミヅキと俺の手首に繋がる紐を指して、ミヅキにお伺いを立てて聞いた。
ミヅキはベッドに腰かけて「嫌」と言う。
これでやりとり3回目。
ほとほとに俺は疲れてしまい、「あのさ、君の部屋は別にあるでしょ? あっちのほうが広くて快適だと思うよ」と投げやりに言い放った。その言葉を受けて、「私、いなくなっていいの?」とミヅキが放った。
「どういう意味?」
どこにも行くあてなどないはずだ。
俺はミヅキを見ながら言う。
「意味の通りだよ、私が消えたらどうするの?」
「消えて、どこにいくんだよ?」
「知らないし、教えない」
ふふっとミヅキは不敵に笑う。
「これだと寝られないでしょ?」
俺は腕を上げて紐を見せた。それに対して「寝られるよ、ほら」とミヅキは俺にピタッと身体を付けた。
女性の柔らかい肌が布越しに感じて俺の心と身体は一瞬、注に浮きそうだった。が、それよりも疲れがやってきた。
セーフ。
「ベッドで一緒に寝よ」
ミヅキは腰かけていたベッドを手でとんとんと叩いた。
「無、無理」
この会話、男女逆転している気がするが、疲れすぎてる。
俺は一人で寝たい。
ゆっくり休ませてくれ。
俺の言葉にミヅキは少しだけ考えて、「そう、じゃあ、そこにいてね」と言った。
そう言って一人でベッドに潜りこみ、彼女は寝始めた。
ちょ、ちょっとまってよ。
彼女は俺と彼女を繋ぐ紐を引っ張ったようで、ベッドの上で寝る彼女の腰あたりにある白くて細い腕の近くまで俺の身体も引きづられた。俺はベッドの真横に座る形でおさまった。
マ、ジ……? そんなことある?
ゆっくり一人で寝たい……。
さすがにずっと動き続け、血も取られて、考えるよりも早く、身体はもう動かせないぐらい重い。
現実世界の俺には絶対に起きない可愛い子と喜ぶべきような状況(のハズ?)なのに、伝説の飲み物で元気が出た分の反動なのか、ひどい眠気と倦怠感が襲ってくる。
まぶたが重すぎて目を開けているのがしんどすぎる。俺はそのまま落ちていくまぶたに抵抗せず、ゆっくりと目を閉じて、泥のような眠りについた。
**
何時だろうか?
俺は尿意を感じて目を覚ました。
ベッドの上のミヅキからすうすうと寝息が聞こえる。
その姿を見て、俺は俺とミヅキを繋ぐ紐のつなぎ目に手を伸ばした。
この場合、しょうがあるまい。
紐はきつく固結びされているが、結び目を爪で広げてなんとか解いた。紐を腕から外し、ベッドで寝ているミヅキに繋がっている紐はそのまま垂らした状態にして、トイレに向かった。
そして事を終えて、部屋に戻ろうとした瞬間だった。
!?
腕に先ほど解いたはずの紐が急に現れたと思ったら、一気に引っ張られた。
俺は体勢を崩してその場に倒れた。そのまま部屋の扉に当たるまで引きずられた。
いってぇ。
扉がゆっくりと開き、中からミヅキが現れた。
「ずっと一緒だよって言ったよね?」
「ミヅキさん……」
「約束は絶対だよ。君と私はずっと繋がっているの。私を置いてどこに行ったの!?」
「……トイレ」
「……」
ミヅキは頬を赤く染めた。
俺はミヅキに言う。
「おい、聞いておいてその反応は何だよ!?」
「いや、思ってた答えと違うから……」
はぁ。
ため息が出た。
「あのね、ミヅキさんが寝ていたから外したんだけど。いや、起きてても外してって言ったよ。四六時中、紐で繋がっているとこういうことはこれからも起きるよ。どうする?」
「……私を一人にしないで、一人になりたくない」
「ミヅキ……」
今にも泣きだしそうなミヅキを見て、言葉が出てこなかった。
「……いきなりいなくなってごめん。俺にはミヅキが必要だよ。理由もなしに消えたりしないよ」
精一杯の思っていることをミヅキに伝えた。
ミヅキは顔をあげて「本当?」と聞いた。俺は頷いてこう答えた。
「俺はどこにも行かないし、できる限りそばにいる。……寝るときもなんとかミヅキが不安にならないように考えるよ。だから紐を外してくれないかな?」
ミヅキは俺の顔をじっと眺めている。
俺は言葉を続けた。
「……それに、この紐、解いても君には操作できるんだろ? 君が不安になったらいつでも復活させればいいんだからさ」
「……そう……そうね……イヤ、やっぱりダメ!」
「え゙」
良い感じで頷いてくれるかと思ったら、まさかの拒否。
マ、ジ!?
俺はここで紐を解いておけばよかったとこの後、後悔することになる。この紐によってミヅキの身体と心に、傷を残してしまったんだから。
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