第11話 聖女はここにいると言ってみた

 ぼんやりとした光は数メートルの木造でできた囲いの周りにある街灯ランプから放たれたものだった。


 この中には集落でもあるんだろうか?

 囲いの周りを歩き続け、入口らしき門をみつけた。

 扉の横に呼び鈴が付いている。


「ミヅキさん、横にある呼び鈴を押してもらいませんか?」

 俺は背中におぶっていたミヅキに声をかけた。

 しかし俺の背中にある彼女の身体は一向に動く気配はなかった。


 あ、もしかして寝てる?

 …はぁ、しょうがないな。


 俺は一言、毒づいた後に仕方なくそのままの状態で身体を横に動かし、肩で呼び鈴を押す。内部で鈍い音が鳴って、誰かがやってくる足音がする。


「何か御用でしょうか」


「すみません、道に迷ってしまいまして、光がある方向に向かって行ったらこちらに辿り着きました。中に入れてもらえませんか?」


「…」

 声の主は黙り込んでしまった。


 なぜ何も言わないのだろうかと俺が不思議に思っている所に、返事が返ってきた。


「では、あなたの血を頂戴したいのです」


「血!?」

 俺は驚いた声を出した。


「そうです、あなたが”闇の病み”にかかっていないか、確認しなければ中に入れることはできません」


 また闇の病みか…。

 確か暗闇の中で襲われるとかかるっていってたっけな。

 俺たちが外からきたから警戒されているってことなんだろうか?


「…わかりました。…今、おぶっている人がいて、その人、寝ているんですぐに調べられないんですけども…」


「…困りましたね…」


 何もかも不明な状態なわけで、とにかく情報収集が必要だ。

 それによくわからない所で野宿をするわけにもいかない。


 俺は粘って言葉を絞りだした。

「あの…我々二人とも、闇の病みにかかっていません。証明は彼女が起きればできます。それまでの間だけでいいので、一旦、中に入れてもらえませんか?もし…その病にかかっているのであれば、すぐに放り出してもらってかまいませんので」


 扉の向こうの相手は先ほどのように口を閉じて、話出すような空気はない。


 おんぶしている俺の手は痺れてきて、辛い。


 ――― ここはカードを切ろう。


 俺がを言った所でこの集落らしき人が知っているのかはわからない。

 正直、が何の役に立つのかもさっぱりわからないのに、もう使っていいのか、俺??

 ファイナルアンサー???

 しかし、ここは正念場だ。


 息を大きく吸って言った。

「聖女、ご存じですか? この世界を救うと言われている聖女の存在をご存じでしょうか?」


 俺の言葉に相手からは速攻、前のめりな返事が来た。

「もちろんですとも!! 聖女様の存在にみな、救いを求めています。…ところで、それが今のあなた方とどう繋がるのでしょう??」


 掴みにひっかかった。俺はよしきたとばかりに言う。

「それであれば話が早い、です。私がおぶっているのはあなた方が救いを求めている”聖女”様です。そして、私は聖女のお付…いや”聖女を守る者”です。」


「なんですと?」


 その途端、囲いに点々とついている街灯ランプが強く光を放った。


 え? 何この現象??

 俺が思ったことと同じことを扉の内側にいる人も感じたようで「こ、これは…まさか!? ほんとうに…!」と声を出した。


「……わかりました。それでも確認はさせてもらいます。確認が終わるまで中に入っていいです」

 そう言うや否や、扉がゆっくりと開いた。

 扉の先には自分の両親ぐらいの年齢の男性が立っていた。


「ありがとうございます」


 俺は会釈をし、お礼を言ったが、浮かない顔して男性は言った。


「いえ…聖女様であれば、我々の村の危機を救ってもらいたいのです」


「…それはどういうこと、でしょう?」


「我々の村の若者はほとんど”闇の病み”にかかっているんです。このままだと村は壊滅状態です、どうか、助けてほしいのです」


 そういうことか。

 街灯ひかりはあるけど、中は真っ暗か。


 聖女がいると明かしてしまったばっかりに、俺は逆にここで聖女とともにこの村を救わないといけないわけだ。

 救うって、”闇の病み”を治すってことだろ?

 一体何をしたらいいのか、皆目見当つかないが…どうにかしなくてはいけないことはわかった。

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