第10話 聖女と二人きりーようこそ、暗闇へ
「シュウ、それでどうやって聖女をみつけるの?」
ジョアンの『どこにいるのか』に対しての問いをユノーは不安気に俺に聞いた。
俺はあの屋敷にいる
あそこから彼女を連れだせれば、と俺は思う。
うん、でもそれが一番問題なような……。
腕を組み、悩んでいると、肩を叩かれた。
俺は振り返り、「誰?」と答えた先には…。
艶のある黒髪の女性と精悍な体型ではっきりとした顔立ちの男性。
俺は何かの間違いかと思った。
目から入ってきた視覚情報と頭の中で”自分が知っている人”の意識が一致するまで、数秒かかった。
そう、ミヅキとレオだ。
先ほど会った時の衣装と違ったからか、同一人物に見えない。
ミヅキは胸元が少し開いた、凹凸のある身体にフィットしている、ウエストから下が広がるような真っ黒いワンピースに身を包んでおり、その隣には、パッチワークのようなちぐはぐに様々な種類の布を繋ぎ合わせた柄シャツに、少しゆるっとしたジーンズみたいな素材のズボンを履いたレオが――美男美女カップルがそこにいた。
人って洋服でこんなに印象が変わるんだな。
見慣れない美しい顔、だからかもしれない。
ミヅキの顔と胸元の色気にクラっときたが、俺は目を閉じて煩悩を封じ込んで二人に向かって声をかけた。
「待ってたよ」
俺の様子にユノーが不思議そうな顔をした。
その横にいるジョアンも訝しげに二人を見上げた時だった。
この空間にいる人々の動作がピタリと止まった。
何が起きた?
俺は自分の身体を少し動かした後、周囲を見渡した。
そこで目の前の長いさらさらの黒髪が動いた様子を横目で捉え、ミヅキを見た。彼女も周りの様子を伺っている。
そう、ミヅキと俺だけがこの状況で動いているのだ。
「これはいったい…」
ミヅキはその場でしゃがんで手を目に当てて泣き出した。
「何で…どうして……こんなに人がいるなんて…何も見たくもないし、誰とも話したくないのに…」
「ミヅキ…さん?」
俺もミヅキの近くによって、膝を折ってしゃがんだ彼女に目線をあわせて声をかけた。
「…なんであなたなの? なんでレオじゃないの?…」
レオは隣で先ほどの状態のまま、固まっている。
ミヅキはどうもレオじゃなくて俺に声をかけられたことが不満だったようだ。
俺はそのミヅキの言葉には反応せずに、呟いた。
「この状態・・・何が起こってる??」
泣き続けながら彼女は答える。
「……私にわかるわけないじゃない、もう嫌、何もかも…」と彼女が言うか言わないかぐらいの状態で足元から暗闇に染まり始め、一瞬で何も見えなくなった。
「私がほしいのは暗闇じゃない、この世の終わり―――」
ズドンっ
床が抜けたような、揺れと音がした。
俺は膝立ちの状態で床に手をつけてその揺れに耐えた。
少しして暗闇に目が慣れてきたのか、うっすらと目の前に人が見える。
ミヅキだ。
周りをもう一度、見回す。
そこは先ほどの酒屋ではなかった。
俺とミヅキ以外いない、深い暗い森。
いつの間にか現れた目の前の木に1枚の紙が貼ってある。
『ようこそ、暗闇へ
これはゲーム。光を探すゲーム。
見つけられたら願いを1つ叶えてあげる。
見つけられなかったら、身体の一部をもらうね。
これはハンデであり、プレゼント。
そうでもしないと探すことすらしないだろうから。
光とそれが必要な理由をみせて。
それとも暗闇のままでいいと思うのか。』
―――ゲームだって?
一体、誰が、何のために?
森の先に小さな灯りが見えた。
そのメモを木から外してローブの内側に入れた。
「ミヅキ…さん?」
「……」
俺と話す様子は彼女から微塵も感じられない。
それでも俺は話を続けた。
「元気ないみたい…だけど、もう俺とあなただけしかいない、みたいだし…あの……ミヅキさん、歩かなくていいから、おぶっていくからあの灯りまで行きません?」
光を探せと言われて、あの遠くでぼわっと見える明かりの場所にいくしかない思った俺はそう言った。
やっとミヅキは顔を上げた。
綺麗な顔が涙でぐちゃぐちゃだ。
俺は背中を見せていった。
「はい、嫌だと思うけど……背中どうぞ。見たくないなら目をつぶってていいから」
彼女は考え込み様子を見せた。俺は言葉を発することを止めて彼女に背中を見せてじっと待った。服が擦れる音がする、彼女は動いているようだ。
俺は目を閉じて、五感に集中した。
音は少しずつ近づいてくる。
そして―――背中に何かが触れた。おそらく、手だろう。
その手らしきものは真ん中から腰に向けて、そうっと身体を撫でた。
背中がゾクっとする感覚に襲われた。
いきなり、どんな触り方するんだ!?
俺はびびったが、それを悟らせないようにぐっと身体に力を込めた。
俺の様子が伝わったのか、手は離れたと思ったら今後は両手が背中から首に延びてきた。そのままゆっくりと身体の接触部分と重さが増えていき、背中からぎゅっと抱きしめられるような形になり、ミヅキの体温が背中を通して感じられた。
「……オネガイ」
耳元で彼女の息遣いに交じって、小さな声が聞こえた。
俺は頷き、ミヅキを背負い、その灯りに向けて歩き出した。
彼女は思っていたよりずっと軽かった。
必死に自分にしがみつく姿をみて、大丈夫だろうかと心配になるほどだ。反対に俺といえば、あのエナジードリンクのおかげなのか、気力も体力も万全だ。
なぜか、ミヅキの言葉を思い出す。
なんでレオじゃなくて、俺なんだよ。
…まぁ、可愛いからいっか。
そう思ったのはすぐに誤りだったと気が付いた。
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