第9話 この世界を巣くう闇と、期待と
ジョアンの告白に、俺とユノーは固まった。
特にユノーは両手に口をあてて、どうしたらいいのかわからない表情だ。
ユノーは恐らくシイラに話したことが間違っていた事に気が付いて、後悔でもしているのだろう。その様子を受けて、俺は聞いた。
「それで、どういう理由なんですか?」
ジョアンは目を伏し目がちにしながら、ゆっくりと話し出した。
「……病気なんだ」
「だったら、シイラにいえばいいじゃない」
ユノーはつかさず、ジョアンに言った。
「君も知ってるだろう、闇の病み」
「ジョアン…まさか……なんで? 暗闇に行ったの!? そして襲われたっていうの!?」
「…そうだ」
真剣な表情でジョアンがユノーに言う。
”闇の病み”ってなんだ?
俺はこそっとユノーに耳打ちした。
「ユノー、その病気って何?」
ユノーは俺の目をじっとみて、あきらめたように話し出した。
「シュウ、暗闇で魔物に襲われた人が
「なんで、暗闇に…そんなことって…」
「そうだね、俺は馬鹿だった」
「ねぇ、どうしてそんなところに行ったの!?」
ユノーは責めるようにジョアンに聞く。
「…言えない。まぁ、外に行く理由なんて想像通りのものだよ」
「それって遊びに出ていったってこと?」
「……まぁ、そういうものだと思ってもらっていいよ」
「ジョアン、代償が大きすぎるよ」
「わかってる。もう時間によっては心がね、狂い始めてる。目の前にいる人を貶し続けてしまうから、人として終わりだ」
ユノーは目に涙を浮かべていった。
「嫌だよ…ジョアン…」
「俺だって…この病の最後は心が死ぬ上に周りへの影響がひどいんだ。そんな病に一緒にシイラを付き合わせたくない、せめて彼女には俺と別れて楽しい人生を歩んで笑っていてほしいんだよ…」
ユノーはそこで叫んだ。
「でもっっ! でもっ、ニュースでやってた。聖女がきたから、その病も治るんじゃないかって! 聖女はこの町にいるってみんなが騒いでるんだよ!!!」
え。
俺の身体は凍り付いた。
聖女…、俺はそのお付きだが、そんな能力ないだろ?
どこにそんなチート的な能力あるんだよ!!!!
そこらへんにいる19歳の大学生で、学校もさぼってるから勉強すらできない…。
誰だよ、そのガセネタ…。
「あのね、ジョアン。シイラには伝えてほしいの、伝えたくない気持ちはわかるんだけども」
「……」
「ジョアン…私、ごめんね、他に彼女ができたなんて言って…」
「…それでもいいと思ったんだ。それで彼女が諦めてくれれば。真実を言えば、彼女は献身的に世話してくれるだろうけど、それを望んでいない」
「ジョアン…ここで会えたのは、縁だと思うの。もう私は知ってしまったわ」
「そうだね…」
横にいたジョアンの知り合いの女性が口を開く。
「ユノーさん、ねぇ、私はね、彼にせめて少しの間、楽しんでほしいと思ってここに連れてきたの。ジョアンの時間は限られているの。もうすぐ病院に行かないといけない。ここで聞いたことは忘れてくれないかしら?」
ジョアンの沈んだ表情をしている。
その横にいる知り合いの女性はユノーと俺に顔を向けて、真剣な目で見つめている。
ユノーは俺の方を見る。
「ねぇ、シュウ、どう思う?」
そこで話を俺に振る、のか!?
俺は少し考える。
俺には能力がない。
が、あの聖女には何かの能力があるのかもしれない。
俺が話せない、あのなんだっけ名前、そうだ、ミヅキって言ってた。
彼女なら…何かできるかもしれない。
「……そうだね…この町にいるその聖女、その人に頼んでみるっていうのは…」
俺は考えをゆっくりと口にした。
「シュウ…そうだよね、そうだよ、この町にいるんなら頼んでみる価値あるよね!」
安易な俺の案にユノーは同意する。
「でも、どこにいるかも、それが本当なのかもわからないじゃないか」
ジョアンは不安気に言った。
それはそうだよな。
そんなほんとかどうかわからない話に乗れるわけない。
シイラとジョアン。
二人がそれぞれ想い合ってるのに…”闇の病み”か。
そんな病気に引き裂かれるなんてな、残酷だよ。
俺になんか力があればいいんだけどな。
そこで俺の身体がドクンと反応する。
何だ?
これ?
聖女がここに近づいていることに、そう、この時点では知らなかったのだ。
彼女の力、それがここで起動するのに一人ではできないってことも知らなかったんだ。俺にはチート能力はない、それだけは確かなはず、なんだ。
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連載を再開しました。
整合性が取れていない部分について、第8話のジョアンの言葉を修正しました。
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