第8話 聖女のお付き、彼氏のフリをする
今日のお店はいつもの静かな場所じゃない。店は満席の上、中央はダンスホールのような賑わい。
その中心に俺とユノーは戻り、シイラの元カレを探した。
ユノーが「あ、みつけた。あ…彼女と一緒ぽいけど…」
指さす方向を見ると中心からほんの少し外れたテーブルに先ほどの男性と隣に女性が立っていた。女性は楽しそうに話しかけているが、男性は浮かない顔だ。
俺たちはゆっくりと少しずつ近づいていく。そこで声が聞こえた。
「せっかく連れてきたのに、いつまで落ち込んでるの? ジョアン」
「君の気遣いには感謝してるよ。…もう失うものは何もないわけだから」
どういう意味だろう?と聞きながら考え始めた時に、ユノーが声を出した。
「こんばんは、ジョアン」
「……」
ジョアンがユノーと俺の方向を無言で向いた。
「さっきのことは…あなたもどうして言われたのか理解していると思うから、言い訳はしないわ。まだここにいるようだし……少し話でもとね……もちろん、私だけだと話すこと想像できちゃうと思うから、私の彼も一緒にね」
えっ!?
ユノーの彼、発言に俺は心の中で驚きの声を出した。
まぁ、赤の他人がシイラとの別れ話をきいたらおかしいといえばおかしい。
ユノーを眺めていた俺に対してユノーは肘でつついてくる。
挨拶しろってことかな?
俺は一息ついて言った。
「どうも、シュウと言います」
俺をさっと見て、ジョアンは口を開いた。
「……話って何?」
ユノーが勢いよく、「横の女は…」と言い出したので、俺が手で口をふさいだ。
俺を思いっきり睨むユノーに「ごめん、ユノー」と俺は言った。
「シュウ、が話したいことがあるんだって。ほら、どうぞ、シュウ?」
俺への目線は鋭いまま、ユノーは俺に煽ってきた。
「……あ、どうも。えっと……いや……ユノーとはどのくらい前からお知り合いで?」
もうちょっと俺は何を聞いているんだろう?
俺はユノーの方を見ると、ユノーは口元を抑えている。
どうも笑っているようだ。
「どうも。ユノーは言ってないんですか? 家が近所で子供の頃からの友人ですけど……」
「あ……長い付き合いなんですね。えーと、最近はあんまり話していない……ですよね?」
「最近というか、全然話してないよな、ユノー?」
ジョアンはユノーに向けて、砕けた口調で言った。
「言ってなかった? ごめんね、シュウ。私がシイラを紹介してジョアンとシイラが付き合ってからここ数年は挨拶ぐらいしかしてないよ」
ジョアンはユノーに少し困った顔した。
「……ユノー、彼氏にはそういう話をちゃんとしたほうがいいよ。…シュウさん、ユノーとの間に心配するようなことは何もないです」
ジョアンはユノーと俺にそれぞれ心配している様子で言った。
これは完全に勘違いされてる。
ユノーとジョアンの関係を怪しんで、確認しにきた彼氏、みたいな……。
会話からしてそう思われて全くおかしくないな。……ま、いっか。
それにしても、ジョアンの”そういう話をちゃんとしたほうがいいよ”のセリフ、どうにも引っかかるな。自分は
「あ……ありがとう、ございます。いや……あの……無粋なこと聞いてもいいですか?」
「何ですか? 内容がわからないとなんとも答えられないので」
「そこにいる女性は彼女さん、なんですか? いや、全然話してないっていうのに、ユノーがあなたに彼女ができたというから」
またしても、ユノーが俺を睨む。
いや、だって、そうでしょ?
確認なしにどういう事実から彼女がいると判断したんだよ?ユノー?
「あのね、私、見ちゃったんだから。家から二人で出てくるの。それも数回」
見た、からということか。
それも1つの答えなんだけど思うけど…俺はもう一度、ジョアンに聞く。
「それで、ほんとなんですか?」
ジョアンは下を向く。
考えているようだ。
答えてくれないかもしれないが、俺は追い打ちをかけるような質問をした。
「……彼女さんを好きになったから、シイラを振った、んですか?」
聞いた途端、ジョアンは俺を見た。
真剣な表情だ。
「……そう、思われてるんですか? 僕」
ジョアンはそう言ってため息をついた。
その姿につかさず、ユノーが聞く。
「え、違うの?」
「……ユノーまで…僕をそういう人間だと思ってるの?」
「じゃあ、何でシイラを振ったのよ!? 意味わかんないよ!!」
ジョアンはうつむき、黙り込んだ。
ずっと横で様子をみていたジョアンの隣の女性が口を開いた。
「ジョアン、言いたくないのはわかるけど……誤解されてるほうが辛くない?」
ジョアンは一度目を閉じた。
そして深呼吸ともに開いて言った。
「……今、彼女はいない。そこにいる女性は親戚で別れた理由は別にある」
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