第7話 聖女を守る者とは何者なのか

 店の中心にいるのはカラフルな男女。

 俺が近寄らない種類の人間たちの集まりのような気がする。


「見学って、おここにきたの初めてなの?」

 ユノーは俺に聞いてきた。


 俺が異世界の住民だって知らないとこういう反応なのか。

 しかし、誰にでも理由を言っていいものだろうか?

 頭の中で『俺は”聖女を守る者”です』と口にしてみたが、何それ、(この世界にそういう概念あるのか知らないけど)厨二病?と言われて笑われたらと思ったらゾッとしたので、言うのをやめた。

 そもそも学校でも大勢の知らない人の中でわいわいと騒ぐタイプじゃないしな。

 考えた結果、聖女云々は置いておいて、そのままの俺を伝えることにした。


「こういう所にはあいにく無縁で…」


 ユノーは俺のその言葉を聞いても特に様子に変わりもなく、その代わり、別の質問がやってきた。


「北の方から来たの?」


「北?」


 俺はユノーの言葉を繰り返した。

 彼女は俺の反応に不思議な顔をした。


「違うの? 北は今はもう明るくなる日が一切ない、暗闇の世界って聞いたけど…」

 

 

 さっき、フィルが言っていたことと関係するのだろうか?   

 俺はフィルとの会話を思い出す。


 ― 一歩出れば、真っ暗闇の中でに襲われるので

 ― 

 ― そう、


「北からきたわけじゃない」

 

 そういったらユノーがふっと笑った。

 笑った笑顔がふんわりしていて、今まで厳しかった顔が緩まった。


 あ、可愛い。

 俺がそう思った時、ユノーが一言。


から、ね」

 

 その言葉に俺は親父ギャグ的な事を言ったことに気が付いて、苦笑い。

 センスもかけらもない会話だけど、ユノーは笑ってくれたようだ。俺は先ほどのユノーとシイラの会話を振り返り、ユノーはシイラに率直に意見を述べている姿を思い出し、素直な子なんだろうと感じた。


 そんなことを考えてる俺を見て、またユノーは笑った。


「初対面でいきなり何を言う人かと思ったけど…悪い人ではなさそうね」

 

「さっきは…初対面の人にいきなり言っていい言葉じゃなかった、と思ってるので…こちらこそ、ごめん」


 俺はユノーに謝ったが、ユノーは微笑みながら「それは後でシイラに言ってね」と言い、音楽にあわせて身体を揺らし、後ろ歩きでより中心に近づいていく。


 ドンッ


 ユノーは人にぶつかった。

 ギリギリ手に持っていたグラスは落とさずに振り返って頭を下げた。

「当たってごめんなさ…え?」

 頭を上げてその先の人物の顔をみて、ユノーは驚きの声をあげた。

 その先には、背が高くて金色の短髪の男性がユノーと同じく驚いた表情をしてこちらを見ていた。

「…大丈夫です…こんばんは」


 その姿をみて、ユノーはいきなり自分のグラスを「持っていて」と俺に預けて、ズガズガと相手に向かっていく。


「こんばんは、じゃない!! すぐにここのお店から出ていってくれない?」

 ユノーは相手の真ん前で強い口調で言った。


「…」

 彼は少し罰が悪そうな顔をしつつもユノーを見つめ、何も言わずにそのままの状態から動く様子はなかった。


「そう、無視するの? …こんな日に、こんな所で、あんたに会うなんて…サイアク」


 そう言い、俺の腕を掴んで中心から離れ、元いた場所に戻ろうとユノーは人をかき分けて歩いていく。


「ユノー?」


「アイツはシイラの元カレ」


「そういうこと…」

 俺は相槌を打つと、ユノーも頷き、「とりあえずシイラとここを出る。」と言い、歩き続ける。俺はグラスを二つ持ちながら、ユノーについていく。


 途中で俺はユノーに声をかけた。

「…ユノー…、ごめん。グラス持って戻ってくれない?」


「シュウ、何?」


「あのさ、ユノー…俺、シイラの元カレと話したいんだけど」


 俺のその言葉を聞いて、ユノーは止まる。


「なんで?」


 さっきのユノーの一言に対する、彼の態度について俺は興味を持った。

 自分なら、元カノの友達がいる場所からさっさと去るのに、なぜ彼はそれをしないのか。

 それに、これは初対面で聞いたら失礼なことだろうと思うが…何も言わずに別れた理由を知りたい。興味本位からくる好奇心であるが、果たして…ユノーに言って、理解されるのだろうか?


「えーと…」


「わかった。アイツにガツンと言ってくれるんだよね?」


 俺が何も言わずにいると、ユノーは勝手に解釈し、拳を握って空気に向かってジョブしながら言った。 


「いや…それは…事の状況によっては…かな?」


 俺の反応にユノーは不満足そうな顔をして、少し考え込んだ後に話し出した。

「あのね、シュウ…私は…あいつにここから出てほしいの。今、シイラに事情を話してここから出るのは簡単だけど、シイラの様子みたでしょ? いると知ったらどうなるか…心配なの」


 確かに、シイラはまだ彼のことが好きだからな。

 友達であるユノーも心配になるのはなんとなくわかる。


 俺が頷き返したら、ユノーは素早く近くの店員に声をかけて、俺の手にあるグラスを渡して言った。


「彼にここから出ていくように説得してくれない? それ以外は特に私から言うことない」


 うーん、自業自得とはいえ、さらにハードな要件が加わった気がするの、気のせいか?

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