第6話 君の出番はありません
「彼に…急に振られたんです…」
泣いていた彼女がゆっくりと言葉を
「それは辛い出来事でしたね…ところでお二人のお名前は?」
隣にいた友達が言う。
「私はユノー、あの子はシイラ」
シイラはハンカチで涙を拭っていた。
俺はどうしていいのかわからなくて、とりあえず、後ろに立って見守った。
そうしているとシイラが声を出した。
「…でも…まだ信じられない…少し前に一緒にいようねと約束していたのに…」
「シイラ、見たでしょ? 彼にはもう彼女がいるんだよ」
「そうだけど…」
フィルは黙って聞いていた。
「あいつはさ、振ってすぐに彼女を作るような男なんだよ! そんな男のことなんて忘れようよ!」
ユノーは興奮ぎみにシイラに言った。
その言葉を聞いて、シイラは涙を流し始めてしまった。
「あいつは自分勝手な男だよ!」
ユノーはシイラの彼を激しく罵倒した。
俺はフィルの後ろから二人を遠巻きに見ていた。
別れた彼氏は自分勝手、か。
俺はユノーの言葉を聞いて、心の中で呟いた。
状況はわからないが、シイラはちゃんと別れた時に理由をきいたんだろうか?
それにその彼氏になんで彼女ができたってわかったんだろう?
いくつか言葉が頭に浮かんだが、そんなことをいう場面ではなさそうだ。
横でシイラは泣き続けている。
フィルがシイラの横に立ち、肩を軽く触った。
「シイラはまだ状況が整理できていないということですかね?」
「…はい」
その言葉を聞いて、フィルは小さく頷き、横に向いてユノーのほうを見てからシイラに声をかけた。
「シイラ、話してくれますか? 思っていることを全て」
フィルはゆっくり言い、そして少し微笑んだ。
シイラはその反応を受けて、か細い声を出した。
「まだ私は…彼と付き合いた…」
その途中にユノーが口を挟み、「他の女性と付き合っててもいいの?」と言った。
フィルがシイラにまた笑顔を見せる。
「それで?」
フィルの様子を見て、シイラはもう一度、息を吸い込んでゆっくりと言った。
「…それは嫌だけど…だってまだ大好きなの…彼と離れるなんて…考えられないよ」
フィルは相槌を打ってシイラを見る。
「うん、シイラ。そうか…まだ君は彼を大好きなんですね」
「はい…」
シイラは涙が出ている顔をハンカチで拭いながら、フィルに素直に返事をした。
「…そうですよね、好きな気持ちがそんなすぐ消えるわけないですよね…ところでユノー、今日、ここに連れてきたのには理由がありますよね?」
シイラもユノーも少しびっくりした様子でフィルを見る。
ユノーは状況が飲み込めないようで疑問の顔をした。
「あの…?」
「今日、ここにきたのは偶然じゃないですよね?」
フィルは少し顔を傾けて、いたずらっ子のように確認した。
「…はい」
俺には何を示しているのかさっぱり理解ができないが、ユノーは意味を理解したようで返事をした。
「わかりました、じゃあ、中心のほうに行きますか?」
フィルがそう言ったので、皆、お店の中心を向く。
そこには人が集まり、それぞれに乾杯やら、音楽にあわせて踊ったりする人々でごった返していた。
「…シイラ、行く?」
シイラは首を横に振った。
「そう…せっかくの日なのに…」
俺は耐えられず、フィルに寄って行って耳打ちして聞いた。
「何の話?」
「あぁ、説明していませんでしたね。月に1回2日間、暗闇から解放されるので、ローブを着ないで外出できるんですよ。」
「暗闇から解放される?」
「あぁ、それもまだ、でしたか…少し前から町の外は真っ暗闇でね、町の外に出る出ない関係なく、全員、ローブを着ないと外出できないんですよ。一歩出れば、真っ暗闇の中で魔物に襲われるので」
「魔物?」
「そう、魔物。今日の0時から48時間、明るく、襲われる心配のない日です。襲われないから、町もお祭りモードでローブを脱いで普段の恰好をしているんです」
「そういうことでこうなっていると…説明をどうも。わかりました」
それで今日は店内がカラフルだったのか。
落差が激しすぎる。
ユノーは再度、「シイラ、行こう?」と声をかけたが、首を縦には振らない。
フィルが「ユノー、提案が…」と言い、言葉を続けた。
「シュウと二人で中心に行ってきてくれませんか? シイラのことは任せて。…シュウはこの状況が初めてなので、ぜひ見学させてきてあげてほしいのですが…」
ユノーはシイラの様子を見て、どう思ったのかわからないが、ため息をついた後に俺の顔を一瞬みて、「いいですよ」と言った。
ユノーは振り返り、グラスを持って中心に向かい始めたので、俺もグラスを持ってユノーを追いかけた。
今から向かう、この中心の中にまさかシイラの元彼がいると誰が思うだろうか?
俺は少なくとも思わない…。
そしてシイラと彼の別れの事情を深く知ることになるのだった。
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