第5話 聖女と話すためのトレーニング!?

 レオに言われた通り、俺は一昨日の酒場に来た。

 酒場は入った途端に、いつもの真っ黒な店内とは異なり、カラフルな洋服の人たちで溢れていた。


 これは何だ?


 俺は驚きつつも、お店に入って空いているテーブルを探していると、店員がこっちへ来いと店の端の席に連れてこられた。


 そこには白い長袖の上着にピンクのド派手なストール的なものを首に巻いているレオと年齢が同じぐらいのすらっとした長身の上、青い長髪の男性が座っていた。


 店員はその男性に会釈して、そのまま立ち去った。


 その男性は視線を俺のほうにそっと移して、「君は…えっと、世界の救う聖女を守る者ですよね?」と気さくに声をかけてきた。


 俺は反応を少し躊躇していると、男性はふふっと不敵な笑いをした。


「あぁ、失礼しました。私はフィルセント・マイア―、この町の商人です。レオから君のことを頼まれましてね…」

 商人と名乗る男性は自己紹介をしてくれた。


「えーと…名前は…」


「シュウです、宜しくお願いします」

 本当の名前である柊太郎と言っても、きっとレオのように省略されそうだなと思ってレオに呼ばれた呼び名を教えた。


「シュウね、私のことはフィルと呼んでください」

 そういってフィルは片目でウィンクしたので、俺はたじろいだ。


「久々にそういう反応する方にお会いしましたね、レオが心配するだけのことはあります」


 フィルはまた少し笑ってこう続けた。

「レオには借りがあるので、今回は2時間の無料相談サービスで対応させていただきます」


 俺はフィルが何を言っているのか全くわからなかった。

「?」


「あぁ、説明が不足していましたね、レディーの取り扱い方についてのレクチャーをシュウにしてほしいとレオから依頼されましたので」


 え?どういうことだ??

 レディーの取り扱い方??

 頭の中で、言葉を繰り返して、どうもレオは俺のためにこの人にレクチャーを依頼したということを言葉上、理解した。


「君、聖女の前で固まって動けなかったらしいじゃないですか…レオがそれでこれからの先行きを心配して私に相談してきたのですよ」


 そういうことか…いや、そうなるでしょ?

 いきなり見たこともないほどの綺麗な女の子と話せと言われても…

 しかも相手は秒で泣き出すし…


「まぁ、もっとも、レオも相手にてこずってるという話だから、しょうがありませんね。目標はまずは、相手の機嫌を損ねず、ある程度、冷静な状態で話せるようになることです」


 よくわからないが、どうも状況は伝わっているらしい。

 ただなんか…目標を聞いた感じ、ものすごくハードル高いの気のせいかな?


 俺の不安な気持ちが表情に出たのか、フィルは言った。

「大丈夫、商人として培った交渉術で口説き落とした女性の数1億人の私に任せてください」


 えぇ、1億人?それは…絶対に嘘だろ…。

 いや、まぁ、きっとすごい人ってことなんだろうな。

 俺は口には出さずに自分を納得させるように、思った。

 

「お願いします」

 俺はお辞儀をした。


「素直でよろしい、では早速ですが、あの二人組の女性の所に行きますか?」


 俺はそう言われた方向を見た。

 少し先にいる女性二人が親密に話し込んでおり、そのうち一人は泣いていた。


「練習としてはちょうどよさそうですね」

 フィルは言いながら、席を立って俺を引っ張って近づいていく。


 え?嘘??


 二人組は椅子に座って向かい合って話している。

 フィルと俺が向かったら、泣いている子を隣でなだめていた女の子が顔をあげて不思議な顔をした。


「こんな日に、何があったかわかりませんが、一緒にどうですか?」

 フィルが飲み物を持って、声をかけた。


「この子、そういう気分じゃないから」


 うんうん、そうかと、俺が頷いてる途中に、フィルが肘で俺を突いてきた。

「彼が話したいことがあるというので…そうだよね?ね、シュウ?」


 げっ…、こいつ、ありえねぇ。

 俺は心の中で毒づきながら、泣いている子をみると不安気な目で俺に視線を向けていた。


 俺は開口一番、思ったことを口に出した。

「あ…、失恋でもしたんですか?」


 その途端、彼女がわぁぁとまた泣き出した。


「最低!」

 もう一人の友人らしき子は泣き続ける彼女の背中を擦った。


「連れがすみません、シュウは後ろに下がってもらえますか」

 フィルがそういって俺の前に割り込んできた。


「こちらをどうぞ使ってください」

 白い色で淵に細かい刺繍が入っているハンカチをフィルは差し出して泣いている子に渡した。


「…ごめんなさい…受け取れません…」


「いいんですよ、これは売り物ですが、こんなに可愛い方を泣かせてしまったので責任ということで…」


 泣きながら、彼女はフィルの”可愛い”という言葉に反応した。

「そのハンカチで涙を拭いて…ね」

 そういってフィルは得意の(?)ウインクをした。


「…すみません、お借りします」


「人前で泣くほどの何かを話すために、ここにきたのでしょう?…私にも聞かせてくれませんか?」


 真剣なフィルの表情で泣いていた彼女の手が止まった。

 そして隣の友人の顔を見て、どうする?と伺った。

「大丈夫、安心して。口は出しませんし、もちろん、誰にも言いませんよ」


 フィルの様子を受けて、友人は頷いた。


「ありがとう、では泣いている経緯をぜひ、教えていただきたいな」

 フィルは話を促すように、聞いた。

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