第4話 伝説の聖女との最悪の出会い
あの酒場で一番高い(17万ギルド)の回復薬を飲んだ俺のその夜。
目が冴えて、全く眠れない。
身体は元気すぎるし…健全な19歳ではあることは証明された。
あのドリンク飲んだの夕方だぞ?
何で夜中の3時にこんな状況に陥っているんだよ!?
俺は一人、宿で悶絶し、一睡もせずに朝を迎えた。
そして朝ご飯を8時食べた。その瞬間、強烈な眠気が襲ってきた。
せめて部屋に…。
俺は食事を食べていた場所から眠けで倒れそうな状況で部屋に戻り、そして中に入って扉を閉めた。
**
部屋の扉を閉めてからの記憶がない。
身体の節々が痛い…目を見開くと、俺は扉の横の床で寝ていた。どうやら部屋に入った途端に、意識を失うように眠ってしまったらしい。
ハッとして時計を見た。
もう時刻は夕方の16時を指していた。
えっ!?なんだって…。
俺は準備をして、聖女のいる屋敷に急いで向かった。
前回、対応してくれたメイドがやってきた。
「お疲れ様です。聖女様は先日、来られたもう一人の方と過ごされておりますよ」と教えてくれた。
もう一人の方とは、多分、レオのことだろう。
前回、入れなかった部屋の前に立って、俺は扉をノックした。
しばらくして、中からレオの声が聞こえた。
「シュウか?」
「そうだ」
俺の声に扉は開き、レオ一人だけ出てきた。
レオの顔は険しかった。
「大遅刻だな、10時に待ち合わせしただろ?」
「あーそうだけど! あの飲み物のせいで気を失って、起きた時には16時だったんだよ」
俺の勢いを見て、レオは少し考え込み、困った様子を見せた。
「…まさか…そんな…?…わかったよ。こっちは私が午前中かけて聖女様を説得した。それで話せるようになったから、とりあえず中に入れ」
レオはそう言って、扉を開けた。
俺が中に入ろうとしたところ、そっとレオが俺に囁いた。
「あのな、聖女様と私の状況を見ても、何も驚かないでくれ。とりあえず後で説明するから」
聖女の部屋の中は自分が泊まっている宿とは違い、壁紙、シャンデリア、家具、全てがリゾートホテルのようなイメージ(俺も家族で一回ぐらいしか宿泊したことないからよく知らないけど)に近かった。
その中心にテーブルと両脇にソファが置いてあった。
ソファの一方に、女性が座っていた。
黒く長い真っ直ぐな背中まである髪、白い肌、そして端正な顔をした美少女が。
目は二重でくりっと大きく、鼻は高く、小さいがふっくらとしてはっきりとした輪郭の唇、そのパーツのどれをとっても整っており、ため息が出るような美しさ。
…か、かわいい、…いや、綺麗だ…。
あまりに見すぎたようで、相手は視線を逸らした。俺もその様子から聖女から目を逸らした。
ドキドキと心臓が高鳴っている。
こんなにも綺麗な人をまともに近くで見たことがなく、動揺が止まらない。
この人が聖女?
え、どう話したら…。
俺が少し言葉を考えている所に、レオが聖女が座るソファの後ろに回り、少し体を屈ませて、聖女の近くで言った。
「ミヅキ様、こちらがお話しましたミヅキ様を守る者で、シュウといいます」
ミヅキと呼ばれた聖女はレオの方を向いて、手を差し出した。その手はひどく震えている。
レオはミヅキの手をそっと握り、「大丈夫です、私はここにいますよ」と言って前を向かせた。それでもミヅキは不安そうな顔をして「レ…オ…肩に手を置いてくれる?」と小さな声でレオに頼んだ。その声でレオは両肩に手を乗せた。
この状況、どういうこと?
そういや、レオはさっき『聖女様と私の状況を見ても、何も驚かないでくれ』と言っていたな。
聖女は震える両手を膝に合わせて置いたと思ったら、顔を下に向けた。
「ごめんなさい……私には…無理…です……」
聖女から消えそうな声が聞こえた。
えっ…と…、んん?え?…涙!?
聖女から涙らしき物がぽたぽたと膝に落ちていく。
「あの…」
俺は声をかけようとした先に、レオが聖女に駆け寄った。
「ミヅキ様…」
「…レオ、…様はやめてほしいの…私…、また死にたくなる……」
俺の顔をレオはちらっと見て、聖女に向きなおし、「ミヅキ…ごめん」と言い直した。聖女は聖女で「レオ……」と、そうお互いを名前で呼び合い、どうにも二人の世界が出来上がっている。
そして聖女は依然として、涙を流しているようだ。
えっと…この二人…どういう関係!?
レオが聖女をなだめながら、「ミヅキ、今日はもう顔を合わせただけで十分だから…もう終わりにするから…」と言い出した。
初対面の俺が言うのもなんだけど、聖女は激しく落ち込んでいるようだ。
それにしても『死にたくなる』って何!?
さらに枕詞の『また』って何!?
いや…だから涙を流し続けるのかもしれないけど…いったい、これはどういう状況!?
あたふたしている俺に、聖女の背中をさすりながらレオが言った。
「シュウ、すまない。昨日の店に行ってくれないか」
「レオ?…レオも…行くの?」
泣きながら聖女が言う。
「行かない、ミヅキの隣にいるよ」
「レオ…」
俺がレオに言われてその部屋を出ていく瞬間まで、二人のやりとりは静かに続いていた。
あれ?俺は何しにここに来た?
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