第60話「プレゼント」
翌日、昨日の大雪が嘘のように晴れ晴れとしており、清々しい朝を迎えた。
しかし吹雪の影響は完全になくなっておらず、大雪が積もっている。
目測で大体1cmほどだろうか。
「積もりましたね」
「積もったな」
滝本とアシュリーはベランダから町を一望する。
まるでいつもの風景とは思えないくらい、銀景色が広がっていた。
ここまで降るのも珍しい。
今日は休みを取り、どこかに出かける予定だったけれど、これでは交通機関が動いているかどうかもわからない。
とりあえずスマホを開き、調べてみることにした。
「電車は……動いてないみたい。レンタカーも今日は予約できないし。遠出はできなさそうだね」
「構いませんよ。私は、爽太さんと一緒ならどこでも」
ふふ、とアシュリーは笑った。
最近彼女がとてもかわいく思えるのはなぜだろう。
特に関係が進展するようなイベントが発生したわけでもない。
ただ、毎日をともに過ごしていくうちに……。
ナタリーもリビングにやってきて、寒い寒いと両手に息を吐きながらソファに腰掛ける。
「ごめんなさいナタリー、今日予定していたお出かけは、できそうにありません」
「構いませんよ。そうだ、せっかくですし、ホームパーティなんてどうでしょう?」
「いいですね! さっそく矢野さんやアズベルトたちも誘わなければ!」
ぱあっとアシュリーの顔が明るくなったが、対照的にナタリーの顔が引きつる。
しかし敬愛している姉がこの様子だと、反対しようにもできないのだろう。
早速アシュリーは電話をかけていく。
それぞれ通話はすぐに終わり、矢野も、アズベルトたちも来てくれるそうだ。
「楽しみですね、クリスマスパーティ。さ、張り切って夕飯の支度をしなければ」
お昼ご飯もまだなのに、という心の中のツッコミは封印し、腕まくりをして張り切っているアシュリーの後姿を瀧本は眺めた。
幸せそうだ。
自然と見ているだけで瀧本も綻んでしまう。
これが、彼女の本当の幸せなのかもしれない。
「お昼を食べたら一緒に買い出しに行こう」
「そうですね。今日は豪華なお料理にしたいと思っていました。もちろんケーキもご用意しますよ?」
「じゃあお昼を食べたらすぐにすぐに買いに行こう」
「はい!」
アシュリーは元気な返事をした。
よっぽどパーティをするのが嬉しいみたいだ。
少し早めの昼食を済ませ、瀧本とアシュリーは夕食の買い出しに出かけた。
その間ナタリーは部屋の掃除などを行い、部屋の飾りつけを行っている。
また、アシュリーと2人っきりだ。
最近こういう機会が多くなった気がする。
「今日はクリスマスだけどさ、プレゼント、何か欲しいものはない?」
「欲しいもの、ですか……私、こういうことを考えるのが苦手で、爽太さんがくれるものならなんでも嬉しいです」
彼女らしい答えが返ってきたけれど、それではなんだかつまらない。
出かける前にナタリーにも訪ねたけれど、ナタリーも「なんでもいい」という返事だった。
姉妹揃って物欲というものに縁がないらしい。
ふむ、としかめっ面を浮かべながら、瀧本はショッピングモールに足を運んだ。
ここに来るのは春のあの日以来だ。
なんだか懐かしい気持ちすら覚えてしまう。
「さて、食材を買いましょう。たくさん料理を作るつもりですので、荷物が大変になると思いますが、よろしいですか?」
「もちろん。そのためにここに来たと思ってる」
よろしい、とアシュリーは得意げに言うと、食材売り場に一心不乱に向かった。
買い物かごをカートに入れ、スマートフォンのメモを確認しながら迷うことなく次々に食材を入れていく。
もちろん、矢野のためのお酒も忘れない。
「ケーキも手作りなの?」
「できることなら、ですけど」
自信なさげにこたえるアシュリーだったが、彼女なら問題なく作れるだろう。
問題を挙げるとするならば、パーティが始まるまでにすべて作れるかどうか、作れたとして、ケーキをどう保管しておくかだろう。
「頑張ってみます」
ふんす、と小さくファイティングポーズを彼女はして見せた。
どうやらやる気はあるらしい。
なら止めるわけにもいかない。
ものの30分ほどで食材の買い物は終了してしまった。
想定していたものよりもずっと早い。
しかし夕食とケーキを作るとなると、これくらい早いほうがいいのだろう。
とはいえ、早く終わったということは嬉しい誤算だ。
「ごめん、ちょっと寄りたいところがあるから、先に帰っててくれる? すぐに追いつくから」
「わかりました。すぐ、ですね?」
「ああ、すぐだ」
何かを察したように、アシュリーは滝本と別れる。
ショッピングモールに一人残った瀧本は、急いでアパレルのテナントに向かい、手袋を2人分購入した。
アシュリーとナタリーの分だ。
今日ここに来る途中でも「はあ」と手に息をかけていたから、これがあるととても快適に冬を過ごせるだろう。
とはいえ、これを渡すのは今じゃなくて、パーティが終わった後がいい。
それと……もう一つ。
瀧本は別の店に向かい、商品を購入する。
想定していた以上に高かった。
けれど、買ったことに後悔はしていない。
きっと、彼女は喜んでくれるから。
根拠はなかったけれど、どこからかそういう自信があふれてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます