第3話

「ゆうにぃ、私、主演女優賞取った」


 千夏が抱きついたまま発する。

 ああ、ヤバい。


「そ、そうだな」


 この流れは本当にヤバい。


「だから、約束通り――」


「何してるの、千夏ちゃん?」


 ん?んんん?

 栞が帰ってきたー!

 それに、クラスメートを引き連れて。


 クラスメートは俺に視線を向けていた。

 呆けた表情をして。そして、だんだんと憎悪の表情へと化していく。


 ……ん?どうしたんだろおおおおおおおおおおおって!!?おい、千夏ぅぅぅ!抱きついたままだって!!


「ゆうにぃ、約束通り――」


「千夏ちゃん?どうして、私を無視するのかな?」


 栞がこちらに向かって歩いてくる。

 クラスの連中は教室の外で様子を見守っている。俺に野次を取ばしながら。離れろとか言われましても、抱きついているのは千夏ですから。


「うるさい。理解できない。どうして、ゆうにぃをいじめてる奴らにヘラヘラしてるの?」


 千夏が少し低い声を出す。

 これは、怒っている。表情は変わっていないが。


 つか、どうして俺がいじめられてるの知ってるわけ?


「別に本心からヘラヘラしているつもりはないよ。でも、こっちにも立場があるでしょ?だから、仕方なくだよ?」


 栞は笑顔で答えるが、少し眉がピクピクと動いている。


「じゃあ一生アイドルとして生きて。ゆうにぃは私が貰うから」


「はあ?悠成は私のよ。寝ぼけないで。というか、さっきから、悠成に抱きついて何様のつもり?早く離れなさいよ、ほら早く。はやーく」


 キレた。怖い。栞が淡々と千夏を問い詰める。


「無理」


 対して千夏は強情に俺から手を離さない。

 栞は頭を下げる。


 やば、栞がガチギレする。


「あ、あれ!?み、みんなぁ、じゅ、授業始めるよぉ?」


 と、その時廊下から女性の先生の声がした。

 一限の教科担当の先生だ。


「……ゆうにぃ、続きはまた今度ね」


 千夏が名残惜しそうに離れる。

 いや、もうお腹いっぱいです。


「早く教室に戻りなさいよ」


「言われなくてもわかってる」


「相変わらず可愛くないわね」


 千夏が教室を出ていく。


『ち、千夏ちゃんだよね?ファンです!』

『栞ちゃんと喧嘩してたの?大丈夫?』

『バカ、違うだろ。あのクソ陰キャがやったんだろ!じゃなきゃ、千夏ちゃんが抱きつくわけないだろ!』

『確かに』

『本当だ。あの陰キャ誰?』

『……知らない、でもキモいね』


 うわあ。耳をすませば酷い言われ様だな。


「うるさい、黙って」


 千夏の鋭い一言で野次がなくなった。

 鶴の一声とはこういうことか。

 あー、昼休みかな?絶対どこかで殺られるわ。





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