第1話

「お、萩野ー。毎回どこ行ってんだ。遅刻な?」


 HRが始まってから教室に戻る。皆は座っていて、教壇に立つ男の先生はチラッと俺を見てめんどくさそうに告げる。通称たっちゃん。


 俺は黙って席に着いた。


「あ、今日は転入生がいるから紹介するぞー」


 先生の一言にクラスは騒然とする。


「はーい、たっちゃん!女子?」

「かわいい?かわいい?」

「うおぉぉ!女子来い女子来い!!」


 皆思い思いの言葉を発する。

 これで、期待外れとかだったらどうすんだよ。お通夜になるんじゃね?

 腹いせにサッカー部が俺をフルボッコにするとこまで見えた。


「もうすぐで来ると思うからなー、少し待ってくれ。全員びっくりすると思うぞ?」


 クラスのボルテージは最高潮となった。


 すると、コンコンとドアがノックされる。


「おおー入っていいぞお?」


「はぁい」


 扉が開く。


 ゆっくりと歩みを進め入ってくるのは、


『…………』


 クラスが沈黙に包まれる。


 教壇に先生の隣に立つ少女。


 肩まで伸びる艶のある金髪。透き通る碧眼。雪のように白い肌。あどけなさを残す童顔。主張のある身体。


 可愛い。


 そんな言葉じゃ表せない程に彼女は輝いていた。


 でも、教室が静まり返ったのはそんなことが理由ではない。


「宵月栞だよ。ミラスタのセンターしてます!」


 満面の笑みではきはきと甘い声で魅了する。


 彼女が着ているのは同じ制服なのに、まるで衣装のように見えた。

 そして、そこがステージでここは、観客席みたいに錯覚させる。


『う、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!』

『きゃああああああああああああああああああっ!!!』


 クラスが歓喜の絶叫に包まれる。


 中には倒れている人も。


 俺はと言えば、思わず席を立って彼女を見つめていた。


 ……嘘だろ?

 バレた?いや、んなわけないだろ!今の格好は昔とは違う!

 たまたまだ……っ。


 冷静に考えろ。だって俺の居場所を特定できるわけがない。

 被ったのは偶然。

 東京を選んだのはミスだったか。でも、バレるわけがないんだ。

 つか、バレるわけにはいかない。


 このまま逃げ切るしかない。


『うおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉっっっ!』

『きゃああああああああああああああああっっ!』


 は?なんだ?


 この教室じゃない。

 ここの教室は今、あいつへの質問タイムになっている。


 じゃあ、どこから?


 クラスの連中も今の声が聞こえたのか、辺りを見渡す。


「あー、言っといた方がいいかなあ?そうだなー、一年生の方には、早見千夏。三年生の方には、萩野鈴……はペンネームか。桔梗鈴鹿が転入してきてるぞー」


 はあ!?


 たまたま?いや、そんなたまたまがあってたまるか!

 バレた!?ざけんな!バレてたまるか!

 こんなにイメチェンしたんだそ!?


 クラスは再び熱狂する。


 そして、あいつは、栞は、右手で銃を形作り真っ直ぐと伸ばした。


 指先には、集まってきているクラスの連中が。


「っ!?」


 違う。


 その先に呆然と突っ立っている俺。


 目線がしっかりと交わる。


 栞は口角を上げる。


「ばーん」


 あは、ははっ。バレてらぁ。


 自分が撃たれたと勘違いした連中は発狂する。


(お、ま、た、せ)


 栞は確かにそう口を動かした。

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