昔の俺のせいで彼女が3人ぐらいできそうです。3人とも病んでて怖いので逃げたいです。

猫丸

プロローグ

 俺、萩野はぎの悠成ゆうせいはイケメンだと思う。

 街を歩いていれば、女性からの視線を集めて、話しかけられたりする。

 運動もできる方だと思う。

 そして、勉強も。まあ、過去の話だけど。


 幼い頃から、それには気づいていて、端的に言うと、俺はモテていた。


 まあ、だからと言って偉そうにしていたわけでも、自慢していたわけでもないが。


 話はずれたが、小学生の頃からほぼ毎日誰かしらに告白されていた。

 でも、俺にはある理由があって誰とも付き合えなかった。

 だから、手当たり次第告られてはフッていった。


 けど、3人だけ諦めない子がいたんだ。


 宵月よいづきしおり桔梗ききょう鈴鹿すずか早見はやみ千夏ちなつ


 3人とは幼馴染みでずっと一緒にいた。


 まさか、3人が俺に好意を抱いていると知ったときはびっくりした。

 まあ、断ったんだけどね。

 でも、3人とも凄く粘ってきたんだよね。


 だから、仕方なく3人に無理難題の条件を押し付けたんだ。


「トップアイドルになれたら付き合うよ」


 と、栞に。


「ミリオンセラー作家になれたら付き合うよ」


 と、鈴鹿に。


「主演女優賞を取れたら付き合うよ」


 と、千夏に。


 無茶苦茶言っているのは分かっていた。分かっていながらも言った。これで、諦めてくれるだろうと。


 3人は、しばらく経って転校していった。


 あ、これやってしまったわ。

 3人ともショックで転校してしまったんだ……。


 当時の俺は酷く後悔したんだ。



◇◆◇◆◇◆



 まあ、それからなんだかんだあって高校生となった。


 中学生時代も恐縮なことにモテさせてもらって、華の高校生。


 俺は、いじめられていた。


「おい、クソ陰キャ」


「は、はい」


 朝のHRが始まる前、席にひとり座っていたら前からひとりの男が来た。


「邪魔」


 男は一言俺に告げる。


「は、はい」


 俺は席を立ち、歩く。


「おらっ!」


「っ!いてっ」


 いきなり背中を思い切り蹴られ、いくつかの席を巻き込みながら倒れてしまう。


 教室から嘲笑が沸く。


「だっせぇなあ?」


 蹴った本人も俺を見て嗤っている。


 ……お前が蹴ったんだろ。


 言いたいが言えなかった。


「ご、ごめんなさい」


 俺は一言告げて、トイレに駆け込んだ。


 朝は毎日こうだ。俺は席に座っていただけ。何も邪魔なんかしていない。あらかじめトイレにいたらいたらで水かけられるし。

 彼らはただ俺をいじめて愉しんでいるだけ。


 いつになっても慣れるきはしないな。


 あはは、と笑ってはみるが鏡に写る俺は全く笑えてなかった。


 鏡に写るのは、ぼさぼさの鳥ノ巣頭に厚底眼鏡をかけた俺だった。


 小学生、中学生の頃の名残など一切ない。ましてや、運動も勉強も下から数えた方が早い。


 はあ。

 どうして、こんなことになったんだよ。


 いや、完全に自業自得かあ。


 テレビを開けば見ない日はない。何かあればすぐにネットのニュースになる。


【ミラスタ新曲MV、6時間で1000万超再生!!!】


【萩野鈴、新作発売!早くも大ヒット!!】


【月9ドラマ『あの日の君はもういない』視聴率20%!ヒロインを演じるのはあの――】


 はあ。


 俺はため息をつきながらスマホを閉じる。


 どうして、あんなこと言ったんだろう。


 俺の記憶に蘇るのは、あの言葉。


『――たら付き合うよ』


 諦めて、ショックで転校したのかと思った。

 でも、違った。皆、俺の言ったことを実現させるために転校したんだった。


 そして、中学生三年。彼女たちは頭角を現してした。


 だんだんと、テレビに映り始めたんだ。


 焦ったねー。

 だから、俺は姿を隠して色々カモフラージュして高校に入学した。それからわざわざ、隣の県に一人暮らしをした。


 でも、まさかいじめられるとはな。

 高一からサッカー部のエースとやらに目をつけられた。

 ほら、さっき背中蹴り飛ばした奴。


 推薦で来たみたいで、一年でエースに。髪は金髪に染めていて、顔が整っているからか女子にモテる。

 そして、お金持ちと来た。


 けっ。


 なんで、二年連続同じクラスなんだよ。

 まあいっか。


 これは、彼女たちへの償いだ。


 血の滲むような努力の末、何も得られなかった彼女への。

 ごめんな。勝手な理由なんだが、付き合えないんだよ。

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