二酸化炭素だって役に立つ

***


「はーっ、疲れたー!」


 ため息を吐きながら、私はベッドに制服のままダイブする。

 私は元々、制服がシワシワにならないように絶対着替える派だ。だけど、今はもう制服を着替える体力さえ残っていない。


 緊張の糸がプッツリと切れる瞬間は、いつだって隣り合わせだ。

 新しい環境に慣れるより先に疲れるタイプも多い今の時期五月

 中学生子どもだって、大なり小なり環境の変化はストレスになる。


 そして、学校生活ゆえに生じるストレスだって無数にある。

 初めてのセーラー制服。初めての先輩。初めての部活……。

 そして、初めての幼なじみ。


「てか、もう夕食も食べずに日曜日までガッツリ眠りこけたい……」


 私服だった小学校から中学校になって、初めて直面する制服のリアルな不便さに困惑しながら、鉛のように重たい体を引きずり、部屋着に着替える。『家族揃って夕食を』という佐藤家のルールは通勤・通学時間の兼ね合いで朝食がバラバラな我が家の数少ないルールのひとつだったりする。


 部屋着に着替えながら、改めて思う。

 

 ソウと幼なじみになって、初めて知ったことがある。

 憧れだけで、幼なじみなんて務まらない。


 漫画や小説に出てくる内容なんて、氷山の一角。

 やっぱり何処か他人事だったと痛感する。


 一朝一夕で気心知れた存在になれるはずもなくて。

 だけど、気心知れた存在になるべく歩み寄る協定をある意味しているわけで。

 既に生まれてから十三年の月日が経過しようとしている事実は、周回遅れという言葉で収まりきらないくらい不利だと思う。だけど、もしかすると……選択の余地なく幼なじみになった関係よりは遥かに恵まれた立ち位置なのかもしれない。

 

 もちろん、他人には不思議な関係に見えている自覚はある。

 言うなれば、偽りの幼なじみ。そして、張りぼての幼なじみ。またの名を仮初めの幼なじみ。幻、蜃気楼……。とにかく不安定な関係である事実は否定できない。


 だけど、私たちの不安定な関係だからこそ得られるモノがあると信じている。

 人間は二酸化炭素ばかりの世界では生活できないけど、二酸化炭素がある世界に住んでいるから緑豊かな自然と共存することができるように。役に立つと信じていたかったんだ。


【今日からボクの幼なじみ / 短編版・了】

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