【お題】ギャルと恐竜
ギャル子は一人、夕焼けを見上げた。
正確には一人と一匹。……いや、一頭かもしれない。恐竜の数え方ってなに?
「ぎゃぉるぅ」
「はいはい、もうコロッケパンないよ」
顎の下を撫でてやると猫のようにぐるぐると鳴きながら目を細める。そこが少しだけ可愛い気がして、ギャル子は更に強く撫でた。
夕日は橙色でなんだか半熟の目玉焼きみたいだ。
そんなことを考えながら、ギャル子は投げだした足をぶらぶらと揺らす。
恐竜――ブルーと勝手に呼んでいる。なんだかいつか見た昔の映画に出てきたやつに似ているからだ――はのそりとギャル子の横に頭を下げて寝そべっている。
さっきまで食べていたギャル子のお昼だったコロッケパンはとっくにブルーの腹の中だ。口の端にマッシュポテトの欠片が付いているのに気付いてギャル子はけらけらと笑った。
「やばい、スマホ持っとけばよかった。あんたの画像映えそうなのに」
スマホは落として踏みつけたっきりでどこへ行ったのやら。
「あ、でも誰もSNSやってないだろーし映えもなにもないか」
ぶんと足を振ると、つま先に引っかかっていただけの靴が遠くに飛んで行ってぽちゃんと音を立て沈んでいった。
「あーあ、世界の終わりってこんな感じ?」
「ぐるぅ?」
「あんたに言っても仕方ないかー」
笑うしかない。けらけら。けらけら。
夕日は更に赤々としていて、つついたらとろりと蕩けそうだ。
「お腹減ったー」
「ぎゃおぅ」
「あんたのせいであたしのお昼ご飯なくなったんだけど?」
ブルーはどこ吹く風だ。知らん顔して小首を傾げている。
その頬をつついて、ギャル子は反対側の靴も飛んでけとばかりに足を振った。
ちゃぽん、靴が沈んでいくのを眺めて、ため息を吐く。
「確かにテストしたくないから学校なくなれとは言ったけど、誰が世界まで終わらせろっつったよ」
その愚痴に明確な答えを返す人はいない。いるのは横の恐竜だけ。
「あーあ、彼氏くらい欲しかったな」
そんなことを言ってみても、答えはない。
「……うちも沈んじゃったしなぁ」
「ぎゃぅ……」
「これからどうしようね」
ギャル子は言いながら周囲を見渡す。
学校だった建物の屋上に一人と一匹が座っている。
三階建ての屋上だから、もうしばらくは沈まずにいるだろう。
でも、一人と一匹にはもうどうすることもできない。
「ま、なるようになるっしょ」
「ぎゃぉん!」
一人と一匹、元気に拳を上げる。
夕日が山の向こうに沈もうとしていた。
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