乙女ゲームの悪役令嬢ならぬブス役令嬢に転生しましたが心魂の美しさで公爵様に愛されるも次代の息子が暗君として割腹し勤めを果たしたショックでタイムリープしたのでハーレム形成して救います。

感 嘆詩

ブス役令嬢とは

 ブス役令嬢とは?


 これをお読みになっているあなた様も御存じないでしょうか?

 もはや遠い記憶の彼方ではありますが、私の前世で生きた時代だか世界だかで流行っていたweb小説に出てくる登場キャラクターの役割、でありました。


 このブス役令嬢、悪役令嬢の派生でも悪役令嬢の取り巻きでもございません。

 その派生には諸説ございまして一説には令嬢とは名ばかりの、どちらかと言えば冒険者ギルドの酒場で主人公に絡んでくるチンピラ、に近い存在が元になっているそうでこざいます。

 スペースギルドが敵役として活躍するSF傑作漫画の主人公に酒場で絡んでくる、電磁ナイフ使いの犬だかゴリラだかに似てる人に近いもので、名前はある、ひとかどの人物っぽい、しかしすぐ死ぬ、そんなネットミームになりがちな噛ませ犬。その派生。ブス枠ならぬ不粋枠。


 それがブス役令嬢なのでございます。


 わたくし、イモコ=クォバディスの今生での役割もこれでございました。



「おはよう、イモコ。気分はどう?熱は?」


 なぜか、わたくしが己の醜悪さを良しとしなかった為なのか、その役割を全うさせてくださらない方が大勢現れてしまい、この第二の生は原作ストーリーから大きくかけ離れることになってしまいましたが。


「ええ、ありがとうゲオ。気分はすっかり良くなりました」


 今生での私の伴侶、ゲオルグ=パラベラムバレット軍事公爵も私を本来の役割から引き離した一人でございます。


 美男美女など見飽きたらしい彼は、わたくしを心魂の美しさから自身の伴侶に選んだそうでございます。



 心魂の美しさとは?


 かつていた世界では刻まれた遺伝子に由来する思考、行動は容易には変えられないものであると言われておりました。環境の影響は勿論あるが、その能力も性格も生まれた時点である程度決まっていると。


 しかし前世とは違いファンタジーの要素が混ざるこの第二の人生を送る世界では、肉体の遺伝子としてのミームと魂に由来するミームが複雑に影響し合うようでございました。

 そのためブス役令嬢イモコの肉体由来の邪悪な性質に、前世から諸々引き継いだ私の魂が混ざることでわたくしイモコ=クォバディスは原作ストーリーから大いに逸脱し、悪役令嬢を打ち負かし、終盤まで生き残り、主人公の放つ絆魔法による《平和への祈り》のシーンなる実に美しきラストのスチールまで観終え、何故かこうして悪役令嬢の許嫁であった軍事公爵に求愛されまして、幸せな結婚生活という望外な幸せを堪能しそうして、


 逸脱のツケを支払うかのように現在床に臥せっているのでありました。


「私のイモコ、まだもう少し眠り」


「がちゃり。あら、どほぼーねこ、顔色がよいじゃない」


「たぬたぬ様。ごきげんよう」


「ふきげんよ。はい、これ。お菓子を焼いてきたわ」


 この無表情美少女はタヌトゥヌ=ネクテクムポッサム・ネクシネテ《悪伯令嬢》。昨日倒れてから慌てて文をしたため、ある目的のためにお越しいただきました。



 悪伯令嬢とは


 軍神と謳われるネクテクムポッサム悪伯爵の一女。


 軍事公爵の元許嫁にして、元悪役令嬢にして、現わたくしの一番のおともだち。の、つもりでございます。


 育ちが田舎のわたくしには発音が難しいことを言い訳に、いっそ開き直ってたぬたぬ=オポッサム様と発音しているのは内緒でございます。

 ご本人はたぬきよりはきつね・ねこ系統のお顔ですが、これがギャップ萌えというやつですね。


「てづから焼いたのよ。感謝なさいどろぼーねこ」


「まあ、バウムクーヘンではありませんか」


 可愛らしいラッピングを広げれば、年輪を模した美味しそうな生地がこれでもかこれでもかカロリーを主張しておりました。

 魔法の力で空間圧縮でもしていたのでしょうか。丸々一本のバウムクーヘンが箱の中からにょっきりと出てきました。


「むしゃもしゃ。御手づから焼かれたのですか?大変だったでしょうに」


 たしか、何時間も付きっきりでくるくる生地を回してつくるはずで、労力がとんでもない。ご令嬢の趣味の範囲を越えています。


タントゥムそれだけのことよ。いいえ。ぜんぜん。大したことないわこの程度。焼きたいから焼いただけ」


 頬張りつつ、起き上がる。桐箪笥キャビネットから薬箱を取り出してたぬたぬ様の正面へ。


「なあにどろぼーねこ」


 軟膏を、たぬたぬ様のその可愛らしい御鼻に塗ってあげます。つやつやお肌がよりてかてかしました。


「火を見続けていたせいでしょうね。お肌が赤くやけてました。ご令嬢なのですから、お顔は大事に」


 顔はやめな、ボディーにしなボディーに、というやつですね。


「さすがはどろぼーねこ。突っ込める隙間があればするする入ってくるのね」


 ?ねこちゃんはまあそうですね。頭は小さく体は細く、狭い隙間もするする入る。どちらかと言えばたぬたぬ様の方がわたくしよりねこっぽいと思いますが。ああ、ねこ飼いたい。


「なでりなでり。今日は良くお越しくださいました。内容はお手紙の通りでございます」


タントゥムそれほどのことなのね。ごろにゃんこ。そう。あなたが決めたなら、私に文句はないわ」


「信じ」


「信じるわ」


 さすがは一番のおともだち。泣きそうです。


「ごきげんよう。タントゥムレディ


 これまで空気を読んで女子の会話に割り込まなかった軍事公爵が頃合いを見てご挨拶しました。さすがはわたくしの夫。紳士です。


「あら、ごきげんよう公爵。眼中になかったわいらっしゃったのですねわざと後回しにしてご挨拶が遅れて、大変申し訳ありません」


「いいえ、小娘の嫉妬など気にしてません。妻もおともだち止まりご友人が来てくれて喜んでいます。それが何よりも嬉しい」


「そうね。彼女の幸せをそこはブ一番望んでいるわレてねぇよな?


「僕も同じ気持ちだよたりめぇだろタントゥム嬢べらぼうめ


 出自が卑しい身の上。どうしても上流階級の方々が使う古語や外国語由来の表現熟語文法等々わからない事が多々ありますが、元婚約者であったお二人が穏やかに会話されているようで何よりです。


「それでは本題を。ゲオ、今からわたくしが話すことを、どうか信じてください」



 床に臥せる理由は


 前世、それも今を生きるこの世界ではなく全く別の世界を前世として記憶しているなどとは、魔法や神秘が存在するこの世界ですらあまり通用しない話題でございます。


 まして、そこに加えて未来の記憶を保持したまま現在、わたくしの感覚では懐かしい過去に戻る。つまりタイムリープした等と。

 荒唐無稽な内容を2つまとめて話さなくてはいけないのは彼に申し訳ありませんが、しかしこの2つの出来事が密接に関わり致命的になってしまったので話すしかありません。


 その上で将来生まれてくるわたくし達の子が、此のままでは個としては善良なるも暗君として領地を未曾有の大恐慌に陥れてしまうことも。その為の対策も、話し合わなければいけないのです。


「全て信じるのですか」


「ああ、全て信じよう」


「その上で、何も聞かずに飲めと、わたくしが淹れたこの薬湯も?」


「毒よきっと」


 たぬたぬ様が茶化すのを公爵は鼻で笑いました。


「これが致死の毒でも、ヒキガエルになる魔法薬でも、僕は喜んで飲み干すだろう」


「ふふ、その時はわたくしがキスでその魔法を解きますね」


「ぎりぎりぎりりぃ」


 ?何か、たぬたぬ様の口あたりから異音が聞こえた気がしたのですがたぬ様も公爵も無表情です。気のせいでしょうか。人体が出してはいけない音でしたし、未来で一人息子が死んだショックが余程私の精神をおかしくしているのかもしれません。


 己の正気を確認するために半透明の画面を見る。他者には虚空を見つめる危うい女にしか映らないそれを再度確認し、安心のため息を。

 何故か無表情のお二人が無表情のままビクッと揺れましたが。


 転生特典によるステータス閲覧のスキルが無ければ、わたくしは転生もタイムリープも実在するなんて信じられませんでした。そして、悪い夢だったと思い込み、再び一人息子を死なせてしまうところでした。その為に気が狂った致命的な選択をする事になってしまいましたが。

 もしかして、このステータス画面すら気が狂ったわたくしの幻覚かもしれない、という疑いはありますがね。


「いや、一つだけ疑問があるな。その、イモ太郎?だっけ?えと、もしかしてその僕たちの子の名前は君が付けたのかい?」


「いいえ、生まれてからだいたい一年ほど悩んだ後にゲオがイモコから生まれたイモコの分身そのものだからと」 


「なるほど、幼い頃から天才と持て囃されてきた僕だが、遂に紙一重の向こう側にいってしまったのか」


 やはり変な名前だったのでしょうか。高貴なお家だと古式に則った命名があるのかしらと勝手に納得していたのですが。止めるべきだったかしら。


 慣れれば素敵な響きですよ?イモ太郎。



 かわいそうなイモ太郎


 決して、悪い子ではありませんでした。善良な、それこそわたくしの本来の出自のような田舎の豪農の、その庶子として生きるくらいならばああはならなかったのでしょう。

 しかし、本来ブス役令嬢として惨めにダンジョンで返り討ちに合うはずだったわたくしのスペックを半分受け継いでしまったあの子は、次代の公爵としては余りに無能でありました。

 優秀な者を養子として迎えれば、官僚的に周りを優秀なもので固めれば等、あれこれと画策していましたが悉く頓挫しました。

 父親たる公爵が、その系譜が余りに偉大であったたに、血が薄い養子では誰も納得せず。

 そしてどれだけ周りを固めても、本人をお飾りにして仕事をさせなくても。


 わたくし自身が元々ブス役であったから良く理解しています。痛いほどに。余りにも手痛く魂が消えそうな程に、あるいはその痛みによって過去に遡ってしまう程に。

 無能とは、何もしない、ということすらまともに出来ないから無能なのです。


 イモ太郎の統治は多くの餓死者を出しました。

 勿論、その心魂は善良な子であったので責任を取って腹三文字にかっさばき、忠臣の乳母子が首の皮一枚残して介錯してくれた天晴れな最期であったため王族貴族、民衆も納得してくださいまして公爵家の面目は首の皮一枚、かろうじて繋げてくれました。


 しかし、貴族としての責任を果たしたところで失ったものは帰ってきません。


 わたくし達は貴族として、余りに無責任でした。唯一生まれた子が、貴種として埒外の無能であったならば、せめて毒か事故かで殺してあげるのが、親としての優しさでありました。

 そうすれば、せめてそうしてあげれば稀代の暗君として死後永遠歴史に記されるような汚名を被らずに済んだのに。


「それで、僕たちの子を救うために今日ここに集まった、と」


 公爵が立ち上がろうとしてふらつき、座り直しました。


「ゲオ、薬が効いてきましたね」


「あはははははは。本当に毒でしたぁ~ねえどんな気持ち?これが致死の毒でも、ヒキガエルになる魔法薬でも、僕は喜んで飲み干すだろう。だってよォ~」


「フッ」


「何よその余裕はぎりぎりぎりりぃ」


 仲がよろしくて安心しました。これならばお世継ぎもスムーズに生まれるでしょう。

 前世を知っているわたくしだから知っている。本来あったルートの1つ。エンディング後のエピローグにて語られたその内容。改心した悪伯令嬢タントゥムとの間に生まれた公爵の子は名君として末代まで語り継がれた、というその一文。


「ゲオにはこれからハーレムを作ってもらいます」


 わたくしとて人の子で、子の親なのです。ただ一人生まれた子を居なかったことになど、出来るならばしたくはない。


「だから私が呼ばれたのですわ公爵」


 そう。たぬたぬ様との子が生まれれば血筋も能力も保証されている。イモ太郎は政治に関わらず、頼りになるお兄ちゃんかお姉ちゃんも出来て幸せ。という作戦をたぬたぬ様に依頼したのでございます。


「さあ、たぬたぬ様。さっそくベッドへ運びましょうか」


「それは出来ないよイモコ」


 身動きが出来ず肉体はぐでんぐでん。あるいはかちんこちんな公爵が身じろぎで抵抗してきました。


「何故ですか!こんな超絶美少女を抱けるなんて、男冥利につきますよ?むしろここまでお膳立てして食わないなんてバチが当たりますよ!」


「美少女なら間に合ってるさ。イモコ。僕の美しき伴侶」


 爽やかな長髪イケメンからの真っ直ぐな好意と褒め言葉に、流石のわたくしも顔が赤くなりました。こればっかりは結婚したとしても、そうそう慣れるものではありません。慣れるどころかより深まってる気さえします。


「そんな、わたくしは美人じゃありません」


「そうかな。僕はそうは思わないよ」


「だってわたくしこんな見た目ですよ?こんな、そばかすギザ歯ツリ目三白眼ですよ?」


「そばかすギザ歯ツリ目三白眼。知らない言葉だな。もしかして君が生きた前世の言葉なのかい?だとしたらそばかすギザ歯ツリ目三白眼とは、世界一最高の女性、という意味なんだろうね」


「ゲオ……」


 あなたこそ、最高の殿方です。でもやっぱり世界一の女性というならば、たぬたぬ様のようなクーデレツリ目ロリ巨乳の事を言うのだと思います。乙女の矜持から断固として主張いたします。


「まって、ツリ目って言葉が入ってる?」


「ええ、入ってますわ。正確にはクーデレツリ目ロリ巨乳です」


「そう。意味は良くわからないけど一緒ね。ほぼほぼ一緒と言うことね」


 ?良くわかりませんが、たぬたぬ様が無表情ながらどことなく幸せそうなのでヨシとしましょう。


「タントゥム嬢はそれで良いのかい?せっかく破棄した婚約を。好きでも無ければメリットも無い男に抱かれるなどと」


「メリットならあるわ。彼女の幸せをそこは一番望んでいるブレてねぇ


「なるほど。納得の理由だ。僕がタントゥム嬢でもそうするだろう」


「そう。それよ。タントゥムそれがすべて


 説得してくださったようなのでベッドへ引き摺ります。公務は事前に皆様に伝えましたので今日は全キャンセル。華美な仕事着たる軍服を剥ぎ、シャツは面倒なのでブチブチィッとボタンを飛ばしてはだけさせました。

 いかなたぬたぬ様だろうと、力の抜けた人間から衣類を脱がせるのは容易ではありませんのでそのお手伝いという寸法です。主人公と荒事で活躍していた頃の経験が活きました。


「ありがとう。じゃあ私はどろぼーねこを脱がせるわね」


「あ、はい、ありがとうございます」


 ……?いえ、わたくしは脱がせる必要ありませんよ。


「あら知らないの?第一夫人は不貞がないか監督する義務があるのよ。貴族の御勤めにも勿論参加するから現場監督ね」


 ゴン、ゴン、


「え!そうなのですか。何だか、高貴な方々に対して余りにも失礼とは思いますが、少し、インモラルな香りがしますね」


 ゴン、ゴン、ゴン、


「ふむ。天才だね。そうだよイモコ。少なくとも公爵家ではそう決まっているね俺が法律だ。現場監督。将校ならなら尉官だろうか。おお!大尉殿キャプテン!マイキャプテン!」


 ゴンゴンゴンゴンゴン、ドガ、


「私、軍事の知識はこれっぽっちもないけれど、この見た目と筋肉は何となく少佐って思うわ。活劇小説エンタメ作品的なイメージなのかしら」


 ドガドガドガドガドガドッ


 ぐでんぐでんかちんこちんな公爵様とスベッスベボインボインなたぬたぬ様に挟まれてしまいました。そんな、3人でなんて。



 ドドドドドドッ、ドッカーン!


「抜剣!」


 公爵の掛け声に、柱の陰、天井の隅、ベッドの下等に待機していた軍事執事様、軍事メイド長様、軍事靴磨き少年様等が飛び出し、破壊音が聞こえた玄関へと急行いたしました。公爵様の影を水面の様に揺らし出てきた軍事ニンジャ様がわたくし達に結界系のバフ魔法を張り戦闘に備えてくれます。


「イモコ、直ぐに解毒を」


「いえ、ゲオ。その必要はありませんわ」


 ドガスボガスドゴスギアッと肉を叩く音が、徐々にこの部屋に近付いて参りました。


「お手紙を信じて下さった様で良かった。人数は多い方が安心ですから」


 これも、所詮は前世でのゲーム知識でしかありませんが、公爵が関わるエピローグでもう一人、次代の描写が出てくる方がいらっしゃるのです。


 ドギャーン!軍事ニンジャ様が吹き飛ぶ!!


「……フ、フ、フ」


「!?君は」


「まさか、うそよね?」


 普段余り動じない2人が驚いています。サプライズ成功ですね。


「フ、ファッファッファッ」


 相変わらず可憐な少女。


ファッークあははははファックファックはははははははは!」


「おたもう。オディエトアモール愛と憎しみの申し子よ


 オイデタモー=ウィキントオムニア《朱塵公》。前世の乙女ゲームでの主人公。


 朱塵公とは


 原作でも絆魔法という、人と人を結び付ける彼女固有の魔法の使い手でした。これは攻略キャラの好感度が見えたり、デートをしていて選択肢が見えるようになったり、恋愛シュミレーション要素にも関わるほのぼのとした魔法でございました。序盤の頃は。

 ゲームの終盤では主人公が覚醒して強力な絆魔法が《決戦の地》にて発動。魔王軍も勇者隊も関係なく心同士を結び付けて争えない状態にし、そのあたたかな感情の奔流によって真の平和への糸口・可能性を見せたことで終戦へと進むことになりました。


 わたくしの生きる今世で、彼女はその絆魔法をゲーム終盤の頃より更に発展させました。

 絆魔法の本質、何かを《結ぶ》力を応用して細胞1つ1つの結び付きを分解。人間を血と塵の塊に変えてしまうその力によって着いたあだ名が朱塵公。


 この凶悪な絆魔法を《決戦の地》にて発動。魔王軍も勇者隊も関係なく争えない状態にし、その絶対的な力と恐怖によって終戦へと進めてしまいました。


ごきげんようおファックですわ御姉様アバズレ


ごきげんようおファックですわ妹よおんぼこ


 野に咲く花のような笑顔だ。とても勇者も魔王も粉微塵にし、神も悪魔も結び目をほどくようにあっさりと消滅させた人物とは思えない。


「かつて御姉様は言いました。勇者も魔王もいらない。神にも悪魔にも頼らない。人は、ひとり無間の荒野をいくべきだと。所詮人間は糞袋ファッキンピーポー露と散っても貫き徹すぶっこんでくんで夜露死苦徹ヨロシクテッ、と」


 でも、と彼女は続ける。

 加護を失い、最早継承権欲しさに強者に殺されるだけとなった次代の魔王勇者を差し置いて。

 奇跡を失い、その反動から農民による僧衣ボンタン狩りが流行している法王一門を見捨てて。

 暴力で訴え出て、その代償に朱塵となった国王一族を晒して。

 もはや地上の現人神となった彼女は続ける。


「でも、わたくしには頼って頂きたいのです。だって、たった二人きりの姉妹ではありませんか」


「オイデタモー……」


 なんと、なんと優しい子なのでしょうか。国防の観点から見ても、彼女がいてくれれば領地は安泰。出来た妹を持ててお姉さん幸せです。


「まちなさい!どろぼーねこの妹はわた」


 あっ、やべ。


「せいっ」


「ぐふうっ。な、なぜ、おねーちゃ」


 ふう。しばらく眠っていなさい妹その2よ。


「イモコ?何があった!?」


 身動きの取れない公爵が声だけをわたくしたちの居る後方へ飛ばしてきました。何もありませんことよあなた。おほほ。


「さあ、ゲオ。続きをいたしましょう」


 妹その3と妹その4が来て拗れる前に。


「ぐうううう。……妻と未来の子供たちの為に!かかってこいやぁ!」


「キシャァァァァァ!」



 ハーレム形成とは?


 この後なんやかんやあってゲオが妹その5になる倒錯的な現象が発生したりするのですが、それはまた、別のお話し。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

乙女ゲームの悪役令嬢ならぬブス役令嬢に転生しましたが心魂の美しさで公爵様に愛されるも次代の息子が暗君として割腹し勤めを果たしたショックでタイムリープしたのでハーレム形成して救います。 感 嘆詩 @kantananaomoshiro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ