第11話 私とゴルフ➉

「もちろん、もう一回やりますよ!」

それを聞いたアルスは、やれやれといった様子で肩をすくめる仕草を見せたが、満更でもない様子だった。

というわけで、もう一度コースに戻ることになったのだが、その前にシャワーを浴びる必要があったため、一度部屋に戻ることになった。

部屋に戻って着替えなどを用意すると、再び練習場に戻ってきたのだが、そこには既に先客がいたようだ。

その人物は、私達の姿を見つけると、こちらに駆け寄ってきた。

「あ、ミリルさんにアルスさん、こんにちは〜」

元気よく挨拶をしてきたのは、後輩であり、私たちの教え子でもある少女、アリスだった。

彼女は、この施設のアイドル的存在でもあり、皆に可愛がられている存在だ。

そんな彼女だが、実は私と同い年だったりするので、時々驚くことがある。

そんなことを考えているうちに、彼女が話しかけてきた。

「あの、お二人は今何をされていたんですか?」

その質問に、私は正直に答えることにした。

「えっとね、さっきまでアルスとゴルフしてたのよ」

と答えると、彼女は目を輝かせながら食いついてきた。

「ええっ!? お二人ともゴルフされるんですね!すごいです!!」

興奮気味に話す彼女に圧倒されつつも、私達は顔を見合わせて苦笑するしかなかった。

すると、今度は彼女の方から質問された。

「それで、どっちが勝ったんですか?」

その問いに、今度はアルスが答えた。

「残念ながら、今回は負けてしまいました」

申し訳なさそうに言う彼に、私は慌ててフォローを入れた。

「いえ、そんなことありませんよ。途中までは私の勝ちだったんですから」

しかし、その言葉を聞いた瞬間、彼女の顔が曇ったように見えた気がした。気のせいだろうか……?

そう思って見つめていると、不意に目を逸らされてしまった。

(どうしたんだろう、何かあったのかな……)

と思いつつも、それ以上追及することはせずに、その場を後にしたのだった。

その後、私達は夕食の時間になるまで、ひたすら打ち続けたのだが、結果は全敗で終わってしまった。

というのも、アルスが絶不調だったからだ。

いつもなら、確実にパーセーブできる場面で、ミスショットをしたり、アプローチを外したりすることが多かったからだ。

そのため、私も調子が悪く、アルスに迷惑をかけることになってしまった。

それでも、何とか挽回しようと頑張った結果、なんとか1オーバーまで戻すことができた。

一方で、アルスはと言うと、結局最後までスコアを伸ばすことができず、最下位という結果に終わったのだった。

その日の夜、私は自室のベッドで横になりながら、今日あった出来事について思い返していた。

(今日は本当に楽しかったなぁ……)

そんなことを考えながら、眠りについたのだった。

翌日、私はいつものように練習場に向かっていた。

途中、後ろから声をかけられたような気がして振り返ると、そこには見知った顔があった。

それは、同じ施設に所属する女性、レイラだった。

彼女とは、よく一緒にトレーニングをする仲なのだが、こうして会うのは久しぶりのことだったので、嬉しくなった私は駆け寄っていった。

すると、向こうも同じように思ってくれていたようで、笑顔で迎えてくれた。

そんなやり取りをしている内に、いつの間にか目的地に着いてしまったようだ。

まずは、準備運動として軽いストレッチを行うことにした。

その後、早速レッスンを始めることになったのだが、その内容というのが、なんとゴルフに関するものだった。

突然のことに驚きながらも、とりあえずやってみることにした。

最初は上手くいかなかったが、段々とコツを掴んでくると、少しずつ上達していった。

そして、最後には自分でも驚くほどの腕前になっていた。

勝負してみようという話になり、私達はお互いにコースで打つことになった。

1打目、2打目は快調だったが、3打目で大きく右に曲がってOBとなってしまった。

それに対して、相手は綺麗なフォームで真っ直ぐ飛ばすことができていた。

やはり、経験者には敵わないと思い知らされた瞬間だった。

その後も、お互い一歩も譲らず、接戦を繰り広げた末に、引き分けとなった。

この結果を受けて、私たちはお互いに健闘を称え合った後、

握手を交わしたのだった。

それからというもの、毎日のように練習を重ねるようになった。

初めはぎこちなかった動きも、次第にスムーズになり、今ではかなり自信を持ってプレーできるようになったと思う。

「よし、今日も頑張るぞ!」

という掛け声と共に、私は練習場へと足を運んだ。

そこで、またアルスと出会った。

彼はいつも朝早くから来て、熱心に練習しているそうだ。

その姿に触発されて、私もより一層やる気を出すことができるのだった。

そうして、しばらく練習を続けていると、突然声を掛けられた。

振り向くと、そこにいたのはアリスだった。

どうやら、彼女も練習に来たところのようだ。

せっかくなので、一緒に練習することにした。

彼女の実力は相当なもので、初めてとは思えないほど上手かった。

しかも、教え方も上手いので、とても勉強になった。

そんな調子で、あっという間に時間が過ぎていき、気づけばお昼近くになっていた。

さすがにお腹が空いてきたので、一旦休憩することにして、食堂に向かうことにした。

「ねえ、ミリルさんは普段どんな風に過ごしてるんですか?」

唐突に聞かれて、一瞬戸惑ったものの、素直に答えることにした。

「うーん、基本的には一人で過ごすことが多いかな」

私はそう答えると、続けてこう言った。

「でも、最近はアルスといる時間が多いかも……」

そう言うと、彼女は興味深そうに身を乗り出してきた。

その様子を見て、少し恥ずかしくなったが、隠す必要もないので正直に話すことにしたのだ。

それを聞いた彼女は、なぜか嬉しそうな表情を浮かべていた。

不思議に思ったが、深く追求することはしなかった。

その後は、お互いの趣味や好きなことについて語り合って、楽しい時間を過ごしたのだった。

午後からは、アルスと一緒に練習することになった。

いつも通り、準備運動をした後、早速ラウンドを開始した。

最初の数ホールは、好調を維持していたが、徐々に崩れ始め、最終的には3アンダーでフィニッシュした。

一方、アルスはというと、昨日よりも更に調子が悪いらしく、7オーバーという有様だった。

(大丈夫かしら……)

心配しつつ、見守っていたが、結局そのまま終わることになってしまった。

その日の夕食時、私はアルスに声をかけた。

「あの、大丈夫ですか?顔色が良くないように見えますけど……」

すると、彼は力なく笑いながら答えた。

「ええ、大丈夫ですよ。ちょっと疲れが出ただけですから」

そう言って、無理をして立ち上がろうとする彼を引き止めると、私は自分の席に座らせて休ませることにした。

しばらくすると、ウトウトし始めたのを見て、毛布をかけてあげた後、私も食事を済ませることにした。

その間も、彼のことが気になって仕方がなかったため、ずっと見つめていたのだが、やがて完全に眠ってしまったようだった。

その様子を見届けた後、自分も部屋に戻ったのだった。

翌朝、目が覚めると隣にアルスの顔があって驚いたが、すぐに昨日のことを思い出した。

(そっか、あのまま寝ちゃったんだ……)

そう思いながら、彼の顔をじっと見つめていると、自然と頬が緩んでしまうのを感じた。

(ふふっ、可愛い寝顔だなぁ……)

そんなことを思いながら、しばらくの間眺めていると、不意に彼が目を覚ました。

その瞬間、視線がぶつかる形となり、思わずドキッとしたが、平静を装って話しかけた。

「おはようございます、アルスさん」

それを聞いた彼も、同じように挨拶を返してくれた。

「おはよう、ミリルさん」

その後、二人で朝食を食べに行くことにしたのだが、その際に手を繋いで行くことになり、周囲から冷やかしを受けたのは言うまでもないだろう。

朝食を終えて、部屋に戻ると、アルスは身支度を整え始めた。

それを見て、私も出かける準備を始めた。

今日の予定としては、午前中はアルスとゴルフの練習をし、午後からはレイラとゴルフをする予定になっている。

待ち合わせ場所に着くと、既に彼女が待っていた。

軽く挨拶を交わしてから、早速コースへと向かうことになった。

最初は緊張していたが、段々と慣れてくると、楽しくなってきた。

特に、アルスのアドバイスが的確で、非常に参考になるものばかりだったので、ますますハマってしまったようだ。

おかげで、スコアの方も大幅に縮めることに成功した。

その日は、一日中ゴルフ場で過ごしたため、帰る頃にはクタクタになってしまったが、充実した一日を過ごすことができたと思う。

帰り際に、アルスと二人でレストランに立ち寄り、食事を楽しんだ後、帰路についたのだった。

翌日、アルスと共に練習場に行くと、そこには予想外の人物がいた。

その人物とは、私の親友であるアリスだったのだ。

彼女は、私達の姿を見つけると、笑顔で駆け寄ってきた。

そして、開口一番にこう言ってきたのだ。

「あの、お二人って付き合ってるんですか!?」

その質問に、私は動揺してしまった。

まさかこんな質問をされるとは思っていなかったからだ。

どう答えようか迷っているうちに、アルスが先に口を開いた。

「いや、違うよ」

それを聞いて、何度も頷く。

すると、今度は彼女の方から質問してきた。

「じゃあ、どういう関係なんですか?」

私は迷った挙句、ありのままを伝えることにした。

「……えっと、ただの友達よ」

すると、何故かガッカリされてしまったようだ。

でも、私には恋愛感情は無いし、これからもそうなることは無いと思っている。

なぜなら、私にとってアルスはあくまでも『信頼できる友人』だからだ。

それ以上でもそれ以下でもないのである。

だから、もし仮に告白されたとしても断ることになるだろう。

まあ、今のところそんな予定はないけどね……

そんなことを考えている間にも、話はどんどん進んでいく。

ふと気がつくと、いつの間にか話題の中心は私とアルスの関係に移ってしまっていたようで、アリスからの質問攻めにあっていた。

その内容というのが、以下のようなものだった。

まず最初に聞かれたのは、いつから知り合いだったのかということだった。

私が答えるよりも先に、アルスが口を開く。

「知り合ったのは半年くらい前だよ」

その言葉に続いて、私も補足するように説明することにした。

「そうね、それくらいになるわ」

と答えると、今度は別の質問が飛んできた。

それは、どうしてそこまで親しくなったのかというものだった。

確かに、考えてみれば不思議な話だとは思う。

それよりも今はゴルフに集中したいので、この話を打ち切ることにした。

しかし、その後もしつこく食い下がられてしまい、なかなか解放してもらえなかった。

結局、練習時間が無くなってしまったため、続きは帰ってからということになった。

その夜、私は部屋で一人考え事をしていた。

というのも、昼間の会話の中で、気になることがあったからだ。

それは、アリスの態度についてだ。

普段は礼儀正しくて優しい子なのだが、今日はやけにグイグイ来るなと思ったのだ。

もしかして、何か悩みでもあるのだろうか?

そんなことを考えながら眠りについたのだった。

次の日、練習場へ行くと、そこにはまたもアリスの姿があった。

彼女は、私に気付くなり駆け寄ってきて話しかけてきた。

「おはようございます! 昨日はよく眠れましたか?」

相変わらず元気いっぱいといった感じだったが、心なしかいつもよりテンションが高いような気がした。

もしかしたら、何かあったのかもしれないと思い、思い切って聞いてみることにした。

すると、返ってきた答えは意外なものだった。

「実は、昨日あれから考えたんですけど、やっぱり諦めきれないなって思いました!」

そう言われて、私は困惑した。

「だから、今日こそは練習したいんですよ、行こう、アルス」

「え、あ、はい……」

アルスは戸惑いながらも承諾した様子だった。

私とアルスが練習場につくと

「とんだ邪魔よね、何なのかしら、あの子」

私や、アルスにとって今が大切なシーズンなのだ。

そして、アルスに言われてスマホを開くと今度戦う全日本ゴルフで戦う名前に彼女の名前があった。

つまりはこれはあきらかな、彼女からの妨害工作だったのです。

「ほんとだよね、困ったものだよ」

私はそう言いながらも、心の中ではホッとしていました。

だって、これで堂々と彼と過ごせるのだから、それに、ちょうど良かったかもしれない。

私もそろそろ決着をつけたかったところだしね。

そんなことを考えていたら、急に声をかけられました。

振り向くと、そこにいたのはアリスでした。

彼女はニコニコしながら近寄ってくると、こんなことを言いました。

どうやら、昨日のやりとりを見て興味を持ったようです。

そこで、私たちの練習の様子を見学することにしたらしいです。

正直、あまり見られたくはなかったんだけど、今更追い返すわけにもいかなかったので、仕方なく受け入れることにしました。

そうして、練習が始まったのですが、なんだか様子がおかしいような気がしました。

というのも、やたらと視線を感じて集中できなかったからです。

振り返ると、そこには案の定アリスの姿がありました。

その視線は明らかにこちらに向けられていました。

しかも、何やらニヤニヤしているようにも見えます。

(なんだろう、この子……)

不思議に思っていると、不意に声を掛けられたので慌てて返事をします。

すると、なぜか余計に笑われてしまいました。

その様子を見ていると、だんだんイライラしてきましたが、何とか我慢して我慢することに決めました。

しばらくすると、ようやく落ち着いてきたので、再び練習に集中することができました。

それからしばらく経って、休憩時間になったので、水分補給をしようと思い、ドリンクを取りに行ったところ、

またも彼女に捕まってしまいました。

「あの、ミリルさん、ちょっといいですか?」

突然話しかけられて、驚いてしまいます。

何の用だろうと思いながら、とりあえず話を聞いてみることにしました。

「何でしょうか? あと、敬語じゃなくていいですよ」

そう言われたので、お言葉に甘えて普通に話すことにする。

それで、一体何の用だろうかと思っていたのだが、次の言葉でその理由を理解したのだった。

「ミリルさんって得意なコースとかありますか?」

と聞いてきたのだ。

なるほどそういうことかと思いつつ、質問に答えることにする。

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