第7話 私とゴルフ⑥

ただし、途中で足を踏み外したら、真っ逆さまに落ちてしまうだろう。

その光景を想像して身震いしていると、背後から声をかけられた。

振り返ると、そこにはガルオスの姿があった。

慌てて取り繕おうとするが、その前に彼が言った。

どうやら、先程の会話を聞いていたらしい。

それを聞いて、恥ずかしさのあまり顔が真っ赤になるのが分かった。

それでも、何とか誤魔化そうと試みる。

しかし、彼には通用しなかった。

彼は、ニヤニヤしながらこちらを見ているだけだった。

私は、これ以上この場に居るのが居た堪れなくなり、逃げるようにその場を後にしたのだった。

それから数日後、ついに運命の日が訪れた。

この日のために、必死に努力してきたつもりだが、果たしてどこまで通用するだろうか……?

そんな不安を抱えつつも、いざ勝負の場に立つと、自然と緊張は解けていった。

いつも通りのルーティンをこなし、準備を整えると、颯爽とコースへと向かって歩き出した。

そして、遂にその時が来た。

1番ミドルコースのティグラウンドに立った瞬間、何とも言えない高揚感に包まれたような気がした。

それは、まるで新しい世界に飛び込んだかのようでもあり、自分が生まれ変わったかのような錯覚を覚えたほどだった。

大きく深呼吸してから、ゆっくりと息を吐き出す。

そして、ボールを構えると、いつものように慎重に狙いを定めて、ドライバーを振り抜いた。

その瞬間、心地良い感触と共に、ボールが飛んでいくのが見えた。

イメージ通りの軌道を描きながら、ピンに向かって一直線に向かっていく。

いける! と思った次の瞬間、突然、目の前が真っ暗になったかと思うと、そのまま意識を失ってしまったのだった。

気がつくと、私はベッドの上に寝かされていたようだった。

まだ頭がボーッとしていて、状況が掴めない。

とりあえず起き上がろうとしたところで、誰かに手を握られていることに気づいた。

見ると、そこには心配そうにこちらを見つめているガルオスさんの姿があった。

そこでようやく思い出すことができた。

そうだ、私はあの時、ティグラウンドで倒れたんだった……。

そのことを認識した瞬間、急に恥ずかしくなってきた。

きっと、みんなに迷惑をかけてしまったに違いない。

そう思うと、申し訳なくて仕方がなかった。

だが、それと同時に、ここまで真剣に私のことを心配してくれている人がいるという事実に、

嬉しさを感じていたのも事実だった。

だから、その気持ちを隠すことなく伝えることにした。

すると、彼は優しく微笑んでくれた。

その表情を見て、ますますドキドキしてしまう。

(あぁ、やっぱりこの人のことが好きなんだな、私……)

そう思った途端、自然と口が動いていた。

それからしばらくして、私は無事退院することができたのだった。

その後、私はガルオスさんにお礼を言い、その場を後にすると自宅へと帰路する。

その道中、ずっと彼のことを考えていた。

今まで、男性に対して恋愛感情を抱いたことなど一度もなかったのに、

今では彼の顔を見るだけで胸が高鳴るほどになっていた。

自分でも信じられないくらいだが、紛れもない事実であった。

これが恋というものなのだろうか?

いや、違うな。

これはただの憧れにすぎないのだろう。

そう自分に言い聞かせることで、自分の気持ちを抑えようとしていたのだが、それも限界を迎えつつあった。

そんなある日、ガルオスさんからデートに誘われたのだ。

しかも、二人きりでだ。

これには驚いたが、同時に嬉しくもあった。

まさかこんな日が来るなんて夢にも思っていなかったからだ。

待ち合わせ場所に到着すると、既に彼は待っていた。

急いで駆け寄ると、向こうもこちらに気づいたようで、手を振って出迎えてくれた。

それだけで幸せな気分になれるのだから不思議だ。

その後は、二人で街を散策することになった。

といっても、特に目的があるわけではないので、気になったお店に入ってみたり、

露店で売られていた食べ物を買って食べ歩きをしたりと、そんな感じだった。

でも、それが楽しかったし、何よりも嬉しかった。

好きな人と一緒に過ごす時間がこんなにも素晴らしいものだったとは知らなかった。

もっと早く知りたかったと思うほどだ。

そう思いながら歩いていると、いつの間にか公園に着いていたようだ。

ベンチに腰掛けると、しばらく休憩することにした。

その間、私たちは他愛もない話で盛り上がったりしていた。

やがて話題も尽きてきた頃、不意に沈黙が訪れる。

そのタイミングで、彼は私に声をかけてきた。

「ねえ、ミリル」

名前を呼ばれてドキッとする。

何だろうと思って顔を上げると、そこには真剣な眼差しがあった。

思わず見惚れていると、続けてこう言われた。

「好きです、付き合ってください!」

一瞬何を言われたのか理解できなかった。

言葉の意味を理解した瞬間、全身が熱くなるのを感じた。

鼓動が激しくなり、呼吸が荒くなるのが分かる。

思考がまとまらないまま、なんとか言葉を絞り出すようにして答えた。

「はい、喜んで」

それを聞いた瞬間、涙が溢れ出してきた。

嬉しすぎてどうにかなってしまいそうだったからだ。

そんな私を彼は優しく抱きしめてくれた。

温かい温もりに包まれて、安心感を覚えると同時に幸せを感じた。

(ああ、本当に幸せだなぁ……)

そんなことを思いながら、しばらくの間、彼に身を委ねることにした。

それから数ヶ月後、私たちは結婚した。

結婚式を挙げた後は、新婚旅行へと出かけた。

行先は決めていなかったが、お互いの意見を出し合って決めることにした。

その結果、海に行くことに決まった。

海辺でのんびり過ごしたいと思ったからである。

当日、朝早くから出発する予定だったのだが、出発前にちょっとしたトラブルが起きた。

というのも、私が寝坊してしまったのである。

慌てて準備をする羽目になったものの、何とか時間に間に合わせることが出来たのは不幸中の幸いだったと言えるだろう。

おかげで、予定よりも遅れての到着となってしまったが、それも含めて楽しい思い出になるだろうと思っていた。

しかし、現実はそんなに甘くはなかったようだ。

なぜなら、着いて早々に大雨に見舞われることになったからだ。

当然、ビーチで泳ぐどころの話ではないため、仕方なく宿で過ごすことになったわけだが、正直言って暇を持て余す羽目になってしまった。

そのため、部屋でテレビを見たり、読書をして過ごしたりしたのだが、どうにも集中できないというか、落ち着かない気分だった。

その原因は明らかだった。

隣に座る彼の存在である。

彼が近くにいるというだけで、妙に意識してしまい、緊張してしまうのだ。

そんな私の様子を察したのか、彼が話しかけてきた。

「どうしたの、さっきからソワソワしてるみたいだけど、何かあった?」

そう言われてドキッとしたが、平静を装って答えることにする。

「いえ、別に何でもないですよ」

と答えると、彼は怪訝そうな表情を浮かべた後で、何かを思いついたようにニヤリと笑ったかと思うと、こんなことを言ってきた。

その言葉に、思わず動揺してしまう。

すると、彼はさらに追い打ちをかけるかのように続けた。

その言葉を聞いた瞬間、顔が真っ赤になっていくのが分かった。

恥ずかしくて死にたくなるほどの羞恥心に襲われる中、何とか反論しようとするが、上手く言葉が出てこない。

そんな様子を見て、彼は楽しそうに笑っていた。

その様子を見て、余計に腹が立ったが、どうすることもできなかった。

結局、その日は一日中からかわれ続ける羽目になったのだった。

しかし、その一方で私は確信していた。

この人と一緒なら、この先何があっても乗り越えられるだろうと……。

翌朝、目が覚めると隣には彼の姿は無かった。

慌てて飛び起きると、時計を確認する。

時刻は午前9時30分を指していた。

完全に遅刻である。その事実を認識した瞬間、血の気が引いていくのが分かった。

まずいと思い、すぐに支度を始めることにしたのだが、そこでふと気づくことがあった。

昨日の出来事は全て夢だったのだということに……。

そう考えると、一気に脱力感が襲ってきた気がした。

それと同時に寂しさが込み上げてくるのを感じたが、いつまでも感傷に浸っているわけにもいかないので、

気持ちを切り替えて出かけることにした。

それから数日後、ついに運命の日が訪れた。

その日、私はいつものようにゴルファーとしての仕事に取り組んでいた。

「よし、今日も頑張ろうっと!」

気合いを入れ直すと、練習を開始するため、練習場へと向かうことに決めた。

そして、コースに到着したところで、早速ボールを打ち始めることにした。

1番ミドルホールのティグラウンドに立った瞬間、何とも言えない高揚感に包まれたような気がした。

それは、まるで新しい世界に飛び込んだかのようでもあり、自分が生まれ変わったかのような錯覚を覚えたほどだった。

大きく深呼吸してから、ゆっくりと息を吐き出す。

そして、ドライバーを振り抜いたその瞬間、心地良い感触と共にボールが飛んでいくのが見えた。

「やった!」

思わずガッツポーズを取る。

その後も、次々とショットを決めていき、あっという間にラウンドを終えることができたのだった。

満足感に浸りながらクラブハウスに戻る途中、後ろから声をかけられた。

振り返ると、そこにはガルオスさんの姿があった。

驚いて固まっていると、彼は近づいてきて言った。

「やぁ、調子はどう?」

いきなり話しかけられて戸惑ったが、とりあえず返事をすることにした。

「あ、はい、おかげさまで絶好調です」

そう言って微笑むと、彼も微笑み返してくれた。

それが嬉しくて、つい頬が緩んでしまう。

それからしばらく雑談した後、別れを告げようとしたところで、突然腕を掴まれたかと思うと、

そのまま引き寄せられてしまった。

気がつくと、目の前に彼の顔があった。

突然のことに頭が真っ白になる。

心臓の音がうるさいくらいに高鳴っていた。

どうすればいいのか分からず戸惑っていると、耳元で囁かれた。

甘い吐息がかかる度に身体がビクッと反応してしまう。

恥ずかしさのあまり、顔を背けようとするが、顎を掴まれて固定されてしまう。

逃げ場を失った状態で、じっと見つめられているうちに、段々と意識が遠のいていくような感覚に襲われた。

もう何も考えられなくなるくらい頭の中がぐちゃぐちゃになった頃、ようやく解放されたのだった。

その後、どうやって帰宅したのか覚えていないのだが、気がついた時には自宅のベッドで横になっていた。

あれは夢だったのか、それとも現実だったのか、未だに判断がつかない状態だったが、

一つだけ確かなことがあるとすれば、それは、私の心が完全に彼に奪われてしまったということだった。

それ以来、私は彼のことしか考えられなくなってしまった。

仕事中でも、食事中でも、入浴中でも、寝る前でさえ、ずっと考えてしまうようになっていたのだ。

それほどまでに彼のことが好きになってしまったということなのだろう。

我ながら単純だと思う反面、不思議と嫌な気分ではなかった。

むしろ、幸せな気持ちでいっぱいだったくらいだ。

だから、これからもずっと一緒にいられたらいいなと思っている。

そんなある日、ガルオスさんからデートに誘われた。

しかも、二人きりでだ!

「どうしよう、緊張してきた……」

嬉しさと不安が入り混じった複雑な感情を抱きつつ、待ち合わせ場所に向かうと、既に彼は待っていた。

こちらに気づくと、笑顔で手を振ってくれた。

それだけで幸せな気分になるのだから不思議だ。

その後は、二人で街を散策することになった。

といっても、特に目的があるわけではないので、気になったお店に入ってみたり、

露店で売られていた食べ物を買って食べ歩きをしたりと、そんな感じだったと思う。

でも、それが楽しかったし、何よりも嬉しかった。

好きな人と一緒に過ごす時間がこんなにも素晴らしいものだったとは知らなかったからだ。

そう思いながら歩いていると、いつの間にか公園に着いていたようだ。

ベンチに腰掛けると、しばらく休憩することにした。

その間、私たちは他愛もない話で盛り上がったりしていた。

といっても、特に目的地があるわけではないので、気になったお店に入ってみたり、

露店で売られていた食べ物を買って食べ歩きをしたりと、そんな感じだったと思う。

それでも、十分すぎるほど楽しめたので、結果オーライといったところだろうか?

夕方になり、そろそろ帰ろうということになったのだが、その前に最後にもう一度だけ海を見ておきたいと思った。

なので、砂浜を歩きながら、沈みゆく夕日を眺めることにした。

オレンジ色の光に照らされた海はとても美しく、幻想的な雰囲気を漂わせているように思えた。

その光景を見ていると、なんだかロマンチックな気分になってきたので、思い切って彼に告白してみることにした。

意を決して口を開くと、震える声で言葉を紡ぐ。

心臓がバクバク鳴っているのが聞こえるくらい緊張していたが、何とか最後まで言い終えることができた。

それを聞いた瞬間、彼は驚いたように目を見開いていたが、すぐに笑顔になると、こう言ってくれた。

「僕も同じ気持ちだよ」

と……。

その言葉を聞いた瞬間、涙が溢れ出してきた。

嬉しすぎてどうにかなってしまいそうだったからだ。

「あの、このままゴルフのパートナーにもなってくれませんか? 世界一一番凄いゴルファーになりたいので!」

「もちろんさ、喜んで協力させてもらうよ」

そう答えてくれた瞬間、私は喜びに打ち震えた。

(ああ、本当に幸せだなぁ……)

そんなことを思いながら、しばらくの間、彼と抱き合って過ごした。

翌日、目が覚めてから最初に考えたことは、昨日の出来事は全て夢だったのではないかということだ。

しかし、枕元に置いてあったスマートフォンを確認してみると、確かに彼からメッセージが届いていたことが分かる。

それを見て、改めて現実だったのだと実感することができた。

その事実だけで胸が熱くなるのを感じた。

早速返信しようと思ったが、どんな文章を送ればいいのか迷ってしまったため、

しばらく考えてから、結局シンプルな文面を送ることにした。

内容はこんな感じである。

『おはようございます、昨日はありがとうございました』

すると、すぐに既読マークがついた後、返事が返ってきた。

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