第2話 時間つぶし

「プラモデル作ってる人たちすげーな。マジ尊敬する」

「まさか7日もかかろうとは」

「うるせー、不器用なんだよ」

「うーん、この辺りの関節が鈍いな」

「悪かったな雑で!!」

「いや良い。定期的にオーバーホールを頼むのだ。じきに上手くなる」

「は?」

「ん?」

「定期的に、やるのか?」

「ああ。そうだが」

「そうだがじゃねー!! え? 本気で?」

「目標タイムは半日だぞ」

「ふざけろよ!! 冗談じゃねえ」

「むう、であれば一回ごとにこれを進呈しよう」

「……おい、これって」

「王金貨だが?」


 ちなみにこの世界は基本的に硬貨だ。ランクはまあ金、銀、銅という感じで最上位の王金貨は軽く100万くらいの価値がある。


「喜んでやらせていただきますとも」

「そうしてもらうとありがたい。それで、今すぐにでも出発したいのだが」

「ああ、それは少し待って欲しい。人情的な話でなく、旅の目的的な部分で目星がついている」

「それはつまり神器がここにあると?」

「まあな。だが、それを持っていくとなると結構な障害がある」

「障害などなにするものぞ。我が前にある壁なぞ全て砕くまで」

「血気盛んで良いな。血は流れてねーだろうけど」

「む、聞き捨てならんな。我が体には最高純度のソーマが流れているのだぞ」

「そーま? あれか、最上位の飲み物か」

「うむ。神しか飲めぬ美酒だ」

「神しか飲めないっていうのは、貴重さ的な意味でか」

「違うぞ。高エネルギーすぎて神でもないと飲んだら死ぬ」

「ろくでもねーな!!」

「それで、神器というのはどこにあるのだ」

「あっち」

「……広場しかないが」

「よく見ろよ。台座があるだろ」

「まさか……」

「勘付いたか。そうだ、新月の夜にしか姿を現さないこの街の名物がそこにある。まんま新月剣とか呼ばれてるけど。本当の名前は」

「神刀である十五夜か」

「ご明察。あそこには十五夜がある」

「なるほど、ここを発つ前にそれを持っていこうという訳だな」

「うん。それがだな。触れねーんだわ。掴めないんだなこれが」

「……どういう事だ。十五夜にはそんな能力はない。月齢の如く変形をする刀のはずだ」

「そうだよな。俺の読んだ本にもそう書いてあった。お前ならあるいはと思うんだが、試してみないか?」

「新月は、明日か。ならば試してみよう。我が抜ければそれで良い」


明日の夜が楽しみだな。


「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「で?」

「で? じゃねえよ!! 確かに俺も今思ったよ。あれ? じゃあ今からは何をすれば良いんだろう? ってなあ!!」

「うーむ。貴様には計画性が足りないようだ」

「はぁー? 100年かけても目当てのもの見つけられないポンコツに言われたくねえんですけどー?」

「……っ(ポロポロと涙をこぼす)」

「だぁー!? 悪かった言い過ぎだ俺が悪かった!!!!」

「良いのだ。事実だからな。我はポンコツなのだ」


 地雷を踏み抜いたらしい。そういえば忘れていたがこいつの見た目は可憐な子どもだ。30前の男が、そんな子どもを泣かせていたらどうなるか。


そんなの火を見るより明らかだ。


「衛兵さんこっちです!!」

「ややっ!! いたいけな少女が涙を流している!! 隣にいるこいつがやったに違いない。市中引き回しの刑に処す!!!」

「ほらもー、面倒な事になった」


 さて、来た衛兵は誰だ。


「おいおい誤解だよ兄弟、それとも俺の顔を忘れたか?」

「む? むむむ? 何だマリオンではないか」

「話を聞いてくれよ兄弟。前に無くした指輪探してやったろ?」

「おお、その節は大変世話になった。離婚の危機を回避できたのは貴殿のおかげである。話を聞こう」

「ここにいるのはえっと、親戚の」


 流石にガラテーアと呼ぶわけにはいかねえな。となれば適当に縮めるか。


「ラテって言うんだ。少しだけ預かってんだけどな、親が恋しくなっちまって泣き始めてよ。それでどうしたもんかと思ってたら通報だよ。参ったぜ」

「ふぅむ。それは真実であるか少女?」

「うん。マリオンおじちゃんは悪くないの」

「ぶふっ!?」


 変わり身の早えこと。役者で食っていけそうだよ。


「マリオン?」

「いや何でもない。少し喉に突っかかってな」

「そうか。であれば勘違いであったようだ。お騒がせした。善良な町民よさらばだ。何かあればまた呼んで欲しい」

「ああ、そん時は頼むぜ」


 のっしのっしと去っていく。あっぶねえ、あいつに捕まったらどうなるかはこの町の人間ならみんな知ってるっての。


 貸し作ってて良かったあ……


「なるほど覚えたぞ。我が泣くと貴様は困った事になるようだ」

「ああそうだよ。だからあんまり公衆の面前で泣かないでくれ。俺の世間体が無に帰すからな」

「……なるほどなあ」

「今すげえ悪い顔してるぞ。要求通そうと思ったら泣けば良いとか考えるんじゃねえぞ」

「……まさかそんな」

「その間で全てを察したけどな。泣き落としなんかに屈する俺じゃないぞ」

「では試してみようか」

「は?」

「ひっく、ひっく、うわぁあああああああああああああああん!!!」

「ちょ、ばかおま!?」

「家に帰りたいよお……うえええええええええええええん!!!」

「この……やりやがったな!!」

「衛兵さ「はいはい帰りましょうねええぇええええ!!!」


 超ダッシュして家に戻った。


「なるほどな」

「ちくしょう!! 世間が俺を許さない!!!」

「さて、それではこれからどうするか考えようではないか」

「ああ、はいはい。作戦会議を始めようじゃねえの」










 





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異世界転生したら無双できると思ってたオタクが異世界の現実に打ちのめされたけど、なんやかんやで美味しいポジションに収まってリア充するのってみんな好きだよね? @undermine

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