異世界転生したら無双できると思ってたオタクが異世界の現実に打ちのめされたけど、なんやかんやで美味しいポジションに収まってリア充するのってみんな好きだよね?

@undermine

第1話 探し屋

「ふわぁ、今日は暇だな」


 異世界転生をしてはや28年。すっかり落ち着いてしまった。およそ求めていたファンタジー要素は全部満たしていたこの異世界に、俺は何の爪痕も残せそうにない。


「こう暇だとせっかくの力も使えないな」


 生まれ落ちた瞬間に与えられた能力は【案内】というもの。目標と範囲を設定すればどっちの方にいけば良いか分かるというだけの力。


 やりようがあると思うだろう? だがな、範囲指定も結構大雑把だし、それに方向が分かるだけでどれだけ離れてるのかどんな場所にあるのかまでは分からない。良いか? 鉱脈を見つけようとしたら、真下とだけ言われるんだぞ? どれだけ掘れば良いのか分からんし、世界の反対側かもしれないし。とてもとてもやってられない。


 それに、世界を対象にとって伝説の何かを探しに行くにはモチベーションが足りない。まあ一通り検索自体はかけてみたからあれやこれやが存在している事だけは知っているけどな。 


 そりゃあ、色々とチャレンジはしてみたさ。でも無理だったな。俺よりも冒険に向いている能力なんてアホほどあるし、何より俺には戦闘能力が足りていない。


 仲間を探そうにも、この街じゃあ大した連中はいないしな。俺もその1人だが。


 結局、ここで雑用代行みたいな事をして食っていくのが身の丈に合っているんだろうよ。


 異世界無双ハーレムルートに入りたかったなー!!


「……あの、ちょっと良いですか?」

「ん? ああいらっしゃい。探し屋に何のようかな?」

「あのあの、ボク達と一緒に、森に行ってくれませんか」

「ああ、ハチミツか。それとも狩りの手伝いか。良いよ、前金はこれくらい」


 ローブを被った子供? 一応女の子みたいだが、子供の性別なんかぱっと見で分からん。こっちの人類は見た目が良すぎてみんな美人という性別に見える。


「えっと、おじさんは探し物が得意だって聞きました」

「ん? まあな、一応それでメシを食ってるしな」


 確かに猫だの犬だの、失せ物探しは大得意だ。この街くらいの範囲なら流石に【案内】も使い道がある。


 待て、なんか【案内】が変な反応を示しているな。結構前に一度検索をかけた品物が近くに来たのか?


 ん?? だが、この感じだといつだかやけになって伝説の品物を探しまくった時の反応に思えるが。


 この子供が持っているのか?


 伝説になるようなものを?


 どういう事だ?


「ちょっと待ってな、少し準備が要るんだ」

「はいっ!!」


 元気なこって。


 さてと。


「反応があるのは何だったかな」


 えーと、剣じゃないし、盾でも鎧でもない。魔法関係、お? 魔法関係の奴だな。


 こっちの方か。


 検索履歴引っ張り出すのめんどくせーな。


 お、これか。なになに。


神造人間ガラテーア?」


 は?


 あの子が? 


 どうみても人間なのに?


「……どういう事だ」

「おい」


 ガチャリという音。おーおー、この音は聞き覚えがあるなあ。転生前にFPSゲームで聞いたよ。銃器の音だ。


 心なしか火薬の匂いもするじゃねーか。


「貴様、気づいたな」

「何の事やらわかりませんね。さっきまでの気弱な子供はどこに行ったのかな」

「いいや、我が耳はしっかりと捉えたぞ。貴様が我が真名を呟いたのを」

「あちゃー」

「では問おう。貴様は、神器の在処を知っているか。嘘をついたらその頭が無くなると思え」

「知っている。というにはあまりにも大雑把なもので良いのなら」

「構わん。方向さえ分かれば我に踏破できぬ道はない」

「そいつは良い事を聞いたな」


 【案内】起動。範囲はここ、目標は生存。どちらに俺はいけば良い。


「そらよっ!!」

「っ!?」

「二本足が災いしたな。どんなに高性能だろうと重心が浮けば転がすくらいはできる」


 体勢を崩したらあとは脱兎の如くってな。得体の知れない奴に絡まれたら逃げるのが吉だぜこれは。


「あーばよー!!!」


 行き先は決まっている。昔用意した秘密基地だ。シェルターとしても使えるようにしていたが、まさか使う時が来るとは思いもしなかった。

 

「問題は、俺よりあいつの方が足が速そうって事だな」

「待て!! 手荒にした事は謝ろう。だが話を聞いて欲しい」

「それで止まったらズドンだろーが!!」

「ちがっ、我は貴様に危害を加えないと約束する。さっきのは脅しで撃つ気はなかった」

「信じられるかよ!! 良いか、お前は最初の一手を間違ったんだ。すぐに取り返せると思うなよ」

「くっ、分かった。ではこうしよう」


 背後から重いものが落ちる音がする。


「今度は何だ変形合体でも……」

「すまない。これ以上の自己分解はできないのだ。これで不服というのなら機能のほとんどを切ろう」


 さっきまで奴がいた場所にはバラバラになった部品が積み上がっていた。話しかけてきているのはその中の声を出す部品らしきものだ。


「……これは予想外だったな。良いのかこんな往来で」

「問題ない。人払いは済ませている」

「どーりで閑古鳥が鳴いてると思った」

「重ねて謝罪する。我は武力を用いた交渉しか知らないのだ。だが、貴様に案内を頼みたいというのは本心だ。子供のような振る舞いはその方が都合の良い場面が多かったためで騙す意図はなかったと知って欲しい」

「だからってお前なあ、いきなり後頭部に銃器ガチャリは肝が冷えたぜ?」

「すまない。多少不況を買ってでも早く見つけたいものがあるのだ」

「見つけたいものか、それはお前みたいな存在ってことか。神器とか言ってたな」

「然り。我は神器を集めねばならぬ。それを目的として作られたがゆえに」

「でも場所が分かんねーってか」

「その通りだ。何となく気配は感じるがそれだけだ。100年近くをかけたが見つからぬ。だがどうだ、この街には失せ物探しの達人がいると言うではないか。すがる思いで来た。するとどうだ。貴様は我が真名すら瞬く間に暴いて見せた。本物だ。貴様こそ我が大願の翼に違いない」

「そいつはどーも。俺も手伝ってやりてーのは山々だけどな。俺にお前を手伝う理由をくれ。これでも何とかここに根付いて生きてんだ。それを捨てろっていうなら納得できる理由を提示しろ」


 本心だ。諦めを得た心中ってのも、なかなか悪くないものだ。ひんやりと冷め切ってもそれはそれで安寧だ。


 だから、捨てていくためには冷え切った魂に熱が欲しい。その薪をこいつはくれるのか?


「大願成就の暁には望むものを与えよう」

「流石に通すぎる。俺は目先の餌が欲しい」

「何人も追いつけぬ冒険譚を共に歩もうではないか」

「良くなった。だがまだ弱い、夢だけを追いかけるのは14歳で辞めたんだ。もっと即物的な誘いが良い」

「金に困らない暮らしをしたくはないか」

「かなり良いな。だができるのか?」

「我が機体に貯められた財貨は一生では足りないと断言しよう」


 金に困らない冒険をボディーガード付きでできるってか。


 なら迷う事はねえ。ここが俺の勝負所だ。


「乗った。俺はお前と一緒に行く。その代わり不自由ない旅を頼むぜ?」

「ああ。良いだろう。だがその前にもう一つ頼みがある」

「何だ?」

「我を組み立ててくれないか」

「……マジかよ」


 1週間かかった。
















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