第7話 アイリス分隊 2
アイリス分隊の終焉は斥候として出向いていたハンスとシェパードが慌てた様子で帰ってきたところから始まる。
この2人の分隊は斥候をするべく前進していた。後衛として即席の塹壕に身を隠し、居残りを命じられた彼らは先に進めない事を悔やむと同時に安堵した。
「ようやく終わったと思ったのに休む間もなく働かされるとは、流石にきついな」と呟きながら敵地の空を見上げた。敵機も友軍機もない晴れた空である。自分たちがここにいることは故郷の誰も知らないだろう。それがまた悲しくもあった。もし死んだりしたら故郷には「戦地にて戦死」と無機物な文面が記された手紙が届く。自分たちがどうして、どう思って倒れたのか家にいる彼らは知る由もないのだ。だったらせめてみんなといる時に死んだ方がいい。攻め込んだ時に戦死した戦友は幸運だ。彼の手紙は自分が書き直し、少し内容を加えて送る。これで息子の最期が少しはわかるだろう。しかし今の自分たちはどうだ。敵地にたった2人である。捕虜にでもなったら、戦死したら誰に伝えに行くのか。
ハンスはそんな相棒の悩みをよそに、故郷にない湿った環境にグチを言っていた。時間が空虚にすぎる。
シェパードが終わらない愚痴を「シッ」と黙らせた。
周囲から金属音とかすかに人の話し声が聞こえたのだ。
ひょっこり3人の兵隊が姿を現した。帝国兵だった。
「ブーツ履いてるやつがカシラか」ハンスがそっと顔を覗く。
「俺の方が射撃が上手い。奴ともう1人は俺がやる。お前はもう1人を狙え。」
いつもなら反論するシェパードだったが、緊張のせいか何も言わずにハンスに従った。
三発の銃声がこだます。敵の3人は状況を飲み込めないまま地面に倒れた。「やったな」と自分たちの意気があった行動を喜んだも束の間、奥からゾロゾロと駆け足で帝国兵の集団が現れた。
「メリッサ、大丈夫か?」
ランドメッサーは彼女に説いた。座り込み力のない目で一点を見つめている。ストレスが限界まで達したのだろうか。メリッサは彼にしか聞こえないように「帰りたい」と呟いた。
彼女の願いは戦死するか、負傷しなければ叶わない。残念ながらこの年少兵は帰ることはできなかった。
「怪我をすれば帰れる。どうする?ハジキで利き腕とは逆の腕を撃つんだ。不便が残るが安全だぞ。」
「イヤ…。」首を振った。
そっと窓から外を見た。その動作には大きな呼吸が必要だった。離れた場所では戦闘が続いている。大砲が炸裂する音が響いていた。
後方陣地にいるソルベ中尉は楽観的だったとルーペは通信機を片手に行った。
まずは「ご苦労様。良い初陣だったんじゃないかな。」と苦労を労い、損害について答えると「ありゃ」と一言。
「魔法士達の話ではもっと多かったんだが。まあ精密性は6割と言ったところかな。」
儲けもんだ、と言わんばかりであった。これで魔法士達にぐちぐちと何かを言うのだろう。
「何様だ。」と受話器を置いて思わず呟いた。
ハンスとシェパードは走りながら「敵が来た!」と叫んでいる。少尉の元にその情報が届くと戦闘態勢を全員に取らせた。もっとも彼らの走る姿を見たもの達は自主的に構えをすでにとっている。一番最初に倒れたのはロッキーという人外だった。肩に弾を喰らい肺を貫通した。それを皮切りに各々が怪しい箇所にくけて発砲を開始する。敵の数はこちらよりも多い。黒いシルエットの集団がまるで蟻のようにゾロゾロと姿を現した。
シュリーフェンは敵の目視して射撃することを諦めた。弾が頭を掠めたからである。
デッパている弾倉に当たり即座に新しいのを用意する。分隊の目となっているアイリスは状況をいち早く把握できた。
「ヤバい」直感がそう告げている。
重機関銃がとうとうオーバーヒートした。急いで予備の銃身に取り替えようとした時。アイリスは叫んだ。
「戦車だ!」
それは大きな箱型の装甲車で荷台には大きな野砲をそのまま積んでいる。打ち続ければこちらが勝てる。しかし今は無防備だ。しかも砲身はこちらを向いている。
万事休す。放たれた砲弾は一直線にこちらへと向かってきた。
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