第10話 カレントノイズ

 

 煌は、夢を見ていた。

 真っ白な開けた空間に、緑の草原が地を作り、真ん中には2つの木が絡み合いながら出来た、

大木が一本。

 大木の下で、煌は、伊吹に抱き抱えられながら静かに眠っている、

そんな夢の始まり。

 伊吹のしなやかで、けれども固く安定した腕の中で、抱き抱えられながら、

煌は眠っていた。

 

 煌の瞼が、暖かくその白い光によって息吹を得る様に、少しずつ開き始めた。

 

 けれども、伊吹はもう、そこには居なかった。

 

 「伊吹っ!」

 煌は、そう叫んで目が覚めた。

 煌は川辺で寝てしまっていた。

 

 ああ、そうだ。

 あの後、疲れて気を失ってたんだ。

 あの、管理者の告白、夢であって欲しいけど、、

 

 煌は、そんな事を思いながら、記憶を手繰り寄せた。

 

 世界が、日本の壊滅を望んでいる、

その、知ってしまった事実を乗り越える気力など、とうに煌には無かった。

策も当然無い。煌は、完全に折れていた。

 

 膝を引き寄せ、ただ丸くなっていた。

 

 「この世界、壊れてる。

 もうどうにもならないよ。

 

 もう、何もない。

 どうすればいいかな、お母さん。

 

 ごめん。もう、私は無理だよ。」

 

 

 空虚さがじわじわと、煌の心を蝕んでいく。

 

 悔しさすら、空虚さに抑え込まれていく。

 

 「この世界は、もう終わりだよ。」

 

 管理者は、現れてゆっくりと煌に伝えた。

 「人間達は、いつの時代も、そうやってきた。」

 

 「あなた達も世界も、どっちも狂ってる。」

 

 「そうかもな。」管理者はそう言って、煌に、

 手の様なものを差し出した。

 

 「さあ、煌、伊吹がここに戻る前に。」

 

 「もう、行かないと行けないの?」煌は、不貞腐れて言ってみたが、

 込み上げる寂しさを抑える事も、限界が来ていた。

 

 伊吹の、邪魔をしない様に、しないと。

 煌は、管理者の手に触れた。

 

 「さようなら、煌。楽しかったよ。」

 煌の体はチリチリとホログラムの様に、粒子となって消えて行く。

 

 伊吹、皆、ありがとう。

 

 管理者は、差し出した手を戻し、黒い世界へと戻った。

 

 






 

 

 

 

 

 どこからか、歌が聞こえる。

 



 ああ、伊吹の歌だ。

 

 綺麗な声なんだね、伊吹。

 

 もし、あの日に戻れたなら、

 

 あなたの歌を、真っ先に聞きたいな。

 聞いておけば良かったな。

 




 私が、あなたのノイズにならなくて、

 本当に良かった。

 

 それだけで、幸せだよ。

 

 

 

 

 

 

 カレントノイズ 完  soul voyageへ

 

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カレントノイズ 燈と皆 @Akari-to-minna

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