第8話 告白
「あのさ、
二人の旅、今日で終わりにしよう。」
煌は、言い切ると同時に、
心の中で伊吹に別れを告げた。
そして、ただ一つの、自分のわがままな願いも捨て去った。
もう、迷わない。
煌は、そう決心した。
異物の者の言葉を思い出す。
(伊吹はお前に恋している。)
悪いね、伊吹。
私はもう、決めたから。
煌は、現実世界の辛い経験を思い起こしながら、
冷徹さを取り戻していった。
煌は、伊吹に背を向けたまま立ち上がり、伊吹から少し離れて、
伊吹に向き直った。
伊吹、私の顔を見て動揺しているな。
私はもう、君の知る煌では無い。
日本を救う為の、一人の戦士だ。
煌は、冷めたトーンで語り始める。
「私はお前を騙していた。
お前が欲の無い人間なのかを知る為に、
安心させる為に、私は近づいたんだ。それ以外に君と居る理由は無い。
私は、お前を見極める為に、存在した、ただのプログラムだ。
私は、人間では無いのだ。」
そう、私は冷酷に、嘘すら平然と唱えられる。
「私と、ここにいる全員が、ただのプログラムだ。
勿論、このユートピアも、だ。現実離れしているこの世界が、
そういった類であった方が、お前も合点が行くだろう。」
そう、早く私の事を早く嫌いになってくれ。
淡々と、煌は続けた。
「私達と、この世界は、欲の無い人間を探す為だけに作られた。
お前の様に、何の願いも得ようとしない人間を、見つける為に。
伊吹、お前は元の世界に戻るんだ。
そうすれば、世界は変わる。
世界を救う為に、このユートピアから離れるんだ。」
そして、生き延びて。
私達の分まで生きて。
私達が、その道を作るから。命と引き換えに。
後は、伊吹が、現実の世界の有り様を、受け止めてくれるかどうか。
でも、伊吹なら、受け止めてくれると信じてるよ。
煌はそう願った。
「管理者、来い。」
煌の声に反応し、異物の者が、
二人の前に現れた。
煌は更に冷徹なトーンで、言い放った。
「管理者、こいつに、現実世界を見せてやれ。」
もし、伊吹が、現実から目を逸らしたら、この世界はもう終わる。
煌にはもう、伊吹に賭ける選択肢しか、残っていなかった。
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