第5話 知る事の代償
煌は、伊吹と歩きながら集落を後にした。
そう言えば、と、
煌は伊吹に向かい合い、まじまじと、伊吹を見つめた。
自分の顔に伊吹の顔を近づける。顔一つ分位近づければ、触れ合う位の
距離だった。
伊吹の容姿は、悪くはなかった。
整った顔の、同じ年位の青年。細くも太くもない、輪郭。
目つきは一見冷めていそうだが、悪くない。
そして、髪の毛の色。
間近で見ると、やはりその青年の髪は凄い色をしている。
まるで、オーロラの様な色。
で、何でこの髪の色なんだ。
煌はやはり髪の毛の色が気になってしまう。
と、煌がしばらく見つめていたが、伊吹は何も抵抗しない。
きょとんとした顔で、煌を見ている。
おいおい、抵抗しろよ!少年かよ!
まるで、えっと、、
何だろう、何が言いたいんだっけ、
ああ、モヤモヤする!
煌はそのモヤモヤをイライラに昇華させ、
そのイライラを表情に出すと、
ふん!と伊吹から顔を逸らした。
伊吹は突然訳も分からずイライラし出す煌を目の前にして思った。
こいつ、スゲー変な奴じゃん、めんどくさそう、と。
そんな旅の始まりを迎えながら、二人は色々な所へと向かった。
綺麗な川に二人で入ったり、綺麗な山のてっぺんを目指してみたり、
すれ違う人達と一緒にご飯を食べたり、
まるで現実世界で旅をしている様な内容の旅をしていた。
二人は旅を満喫していた。
少し変わった事があるとすれば、
ここがユートピアである事、
時間は決して進む事が無い事、
煌には、この今いるユートピアの記憶しか無い事、そして、
伊吹には、何故か、ユートピアに来る前の記憶がある、
それくらいだった。
煌は、考えても分からないからと、
心の底から、全てにおいて、さほど気にしていなかった。
永遠の様に続く、楽しい日々。
これが、この楽しい日々が、
煌の願いの一つであったのかもしれない、等と思える者が、
この世界に居たのならば、
煌の歩む道も変わっていたのかも知れない。
ある日、煌は伊吹と、川辺で釣り糸を垂らしていた。
今日の風も、とても気持ちがいい、と煌は感じた。
花木の華やかな香りに混じって、澄んだ水の匂いがする。
いつもの様に、静かなこの世界で、時折、川で魚がちゃぽんと騒ぐ。
鳥の鳴き声は、空に陽気さを彩ってくれる。
ああ、幸せ。でも、
何かが足りない気がする。
いつも、思い出せずにモヤモヤする気持ちだ。
今日は、ちょっと、伊吹にも聞いてみようかな。
「ねえ、伊吹。」
煌は何の気無しに、隣に居る伊吹に話しかける。
「どうした?」
伊吹も何の気無しに応答する。
煌は、少し息を大きく吸い込み、
そして、話し出す、
「あのさ、」
突如として煌の視界は暗闇に蝕まれ、
黒よりも黒い黒に呑まれていった。
はっ‥
煌の息が止まる。
しかし、暗黒が怖かったから、では無い事だけは、
煌自身も分かり出していた。
黒の中で、
突然、ポットライトが二つ、光を放ち、対象を上から照らし出す。
一つは煌を、
そしてもう一つは、、
「やあ、煌!
喜べ!いよいよ煌の願いを叶える時が来たぞ!
良かったなあ煌!」
オーロラカラーの大きな布を被さった、何か。
人間の頭部らしき場所には、クエスチョンマークが描かれた仮面を装着していた。
不思議な、そう、「異物の者」。
煌は、息を吐き出して、呼吸を無理矢理し始める。
そして、思う。
そう、私は、ここを、こいつを知っている!
それだけは思い出せる!
まるで記憶を、誰かに操作されているかの様に、
煌の記憶の一部は蘇る。
こ、い、つ、らめ!!
怒り、憎悪、暴発するそれらは、煌の内の全てを満ち満ちとさせ、
溢れていく。
煌は、まるでこれから異物の者を狩るかの如く、鋭く睨みつける。
煌は、強く拳を握りしめ、怒りに震える。
煌の指が、爪で傷つき血を垂らす程、強く。
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