第4話 印象の差と差

 

 「さあ、こっち来て!」

 煌は、握手した伊吹の手をそのまま掴み、

囲んでいた人混みを書き分け、伊吹とともに人混みから脱出した。

 

 人混みから脱出すると、伊吹にさっと手を振り払われ、握手は解消された。

 

 だいぶ初心なんだ、この人。

 距離多めに取りたいタイプかぁ。

 まだまだ子供なのか。なんか残念。

 

 煌はそんな風に伊吹の印象を埋めていく。

 

 

 「あ、ごめん痛かった?」

 痛く無いのは分かってる、

 後は、初心なのか、人見知りなのか。

 

 煌は真っ直ぐな瞳で少し心配そうな表情を作りながら、

伊吹の反応を伺った。

 

 「いや。それより、ここがユートピアか?」と、

 伊吹は煌に問いかけた。

 

 そっか、どこか別の所から巡って来た訳じゃなくて、

やっぱり【始めたばかりの人】なのか。

 

 煌の推察は続く。

 

 

 「うん!そうだよ!」

 ここは、優しさ、安心感を植え付けておこう。そう思いながら、

 煌は得意の笑顔を見せた。

 

 「ここに、ミュージシャンはいますか?」

 伊吹は目線を煌から逸らしながら、また煌に問いかけた。

 

 あれ、無反応。

 しかも、敬語。

 私を見ない様にしてるのか。

 とても子供だな、君は。

 

 煌は伊吹の印象を結論づけた。

 

 

 「伊吹は、音楽が好きなのか?」

 煌は伊吹にそう投げかけたが、反応は無かった。

 

 無視か、君の感情が手に取る様に分かるよ。

どうせ、質問を質問で返すと怒る様な、論理タイプ、

とことん興味有る事しか振り向かないタイプだ。

 この人、友達出来なさそう、きっと。

 

 煌は、伊吹への興味が大分冷めてしまっていた。

 

 しかし、このまま別れる事も、自分が見放した様で何か引け目を感じてしまう。

そして、せっかくの旅の出発前なのに、幸先の悪いまま後味が悪い出発になりそうだ、と、煌は思い直し、

また笑顔を作った。

 

 「居るよ!ギター持ってる人。」

 このまま終わる訳にはいかない、と、

 煌はなるべくの笑顔を以て伊吹に接した。

 

 「そうですか、ありがとうございます。」

 伊吹はそれでも素っ気ない対応だった。

 

 ああ、めんどくさい。

 

 でも、私は知っている。

ギター弾きを。そして、

ギター弾きはきっと、君の探しているギター弾きでは無い事を!

 煌はそう思いながら、伊吹のリアクションを見る為についていく。

 

 現れるギター弾き。

ギター弾きは、いつも通りのギター弾きだった。

いつも通り、ヘラヘラとしながら、何も感じない音を、

ギターから発する男。

そして、いつまでもヘラヘラと弾いている、ただそれだけの男。

いつまで経っても全然ギターが上手くならない、それだけが不思議、そんな男。


 煌は思っていた。

こんなものに興味を持つ筈がない、と。

 

 煌が気づいた頃には、伊吹は既に、

地面に伏していた。

 

 ああ、そんな漫画みたいな事する人がいるなんて。

面白い、面白いよ君は!

 煌はそう思いながら、

伏している伊吹の肩に手を置き、

伊吹に伝えた。

 「ギター、持ってたでしょ?」

 

 伊吹からの反応は無かった。

相当、ショックだったという事が、煌にも分かった。

 

 煌は少し同情し始め、そして思った。

この人は、本当に音楽が好きなんだな、と。

何か、好きな物があるって、羨ましいな、と。

 

 そして、煌は思った。

伊吹と旅をする事で、自分の何かが少し変わるのかも知れない、と。

試してみるのも悪くは無い、と。そして、何より楽しみだ、と。

 「君の求めるものは、これじゃ無いんだろ?」

 煌は、心と声を弾ませながら言った。

 

 すると、伊吹は捨てられた子犬の様な表情で、煌を見上げて来た。

 

 煌は思った。

 

 なんだ、可愛いとこあるじゃん!

思った通り、楽しくなりそうだ!

 煌は、思った以上に楽しくなりそうな旅の予感に、

とてもワクワクしていた。

 

 「では行こう、一緒に旅に出よう!」

 煌の声に、笑顔で答える伊吹。

 

 伊吹の笑顔を見ながら、煌は思った。

 

 惚れるなよ青年!

私は君に、男の魅力を感じない!と。

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