第2話 幸運な出会い

名も知らない騎士さんと別れたあと、勢いそのままに商売道具の手入れをしているお父さんに告げた。

「父さん。僕は騎士になりたい。」

「……本気なんだな」

「はい」

「分かった。お前には家督をついでもらいたかったが……やりたいことが見つかったならとことんやれ。いいな?」

「もちろんです。父さんの期待に答えられずすみません。」

 頭を下げる。父は残念そうな顔をしていたが、気持ちを言ったら折れてくれた。今日から店の手伝いもしなくていいとも言われた。


父はあまり喋る人ではない。だがそれは決して無愛想というわけではなく、常に相手の奥底にある思いをみているからだと僕は思っている。だからこそあまり多くは言わずにシダの発言を受け入れてくれたのだ。

 ……何から始めればいいんだろう。

騎士になるとは決めたものの何をどう努力すればいいのか分からない。父さんに聞いても剣振ってればいいんじゃないかとあんまり分かってない感じで言われた。途方にくれて街を歩いていると何やら騒がしい声が聞こえてきた。

「これじゃあ学校何て行けないじゃない!」

「お嬢、あまり大きな声を出すんじゃない。騎士が廃るぞ」

「……そうね。でもアルバス、私どうしたらいいの!?」

「どうしようもないだろ。試験は今日何だし。潔くいくしかない」

「そんなの無理よ!だって高名な騎士団のスカウトとか観に来ているかもしれないじゃない!?」

「だからそう叫ぶなって。叫んだところで今からじゃその汚れ落とせるわけじゃない。諦めろ。」

 そう言われた女の子はみるからに落胆する。

 同い年くらいの女の子と強そうな男が何か言い合っているが話を聞く限りどうやら騎士らしい。何かあると関わりたくなってしまうタチのシダは当然話しかけた。

「あの〜どうかしたんですか?」

 一瞬びっくりした顔をされたが強そうな男が答えてくれる

「ああ、うちのお嬢が昼寝してる間に鳥のフンを落とされたみたいでな。今日大事な試験があるんだが制服が汚れちまったってわけだ」

ほんとに情けないと小言を言ったのを聞いてまた、後ろの女の子が顔を赤くして怒っていた。

 そんな詳細に言わないでという目を赤面しながら男に向ける。

「でしたら、うち来ます?」

 揃って、は?という顔をされたがリバトーニ財団のカードを見せると、まじか!と驚きとともに女の子に笑顔が戻る。

 大袈裟すぎる少女の顔が面白い……と内心思ったが秘密である。

「俺の父さんリバトーニの会長なんです。高性能クリーナーでしたら家にあるんで使いますか?」

「ぜひ!お願い!ありがとう!」

 少女が満面の笑みでシダの手を掴んで振る。急いでるらしいのですぐに家に案内し、高性能クリーナーを貸してあげた。するとあらびっくり鳥のフンが付着していた制服が一瞬にして元通りに。何を隠そうこの商品こそリバトーニがここまで大きくなった要因なのだ。別に魔法を使えば落ちるのだが、魔法は一部の貴族や王族が独占しており、騎士の家や、平民ではお目にかかることすら難しい。そんな中に現れたのがこの高性能クリーナーである。魔法レベルの汚れ落とし。実は特別な光を当てることで汚れをなくしているのだがそれは企業秘密。そんなこんなで綺麗さっぱりになった少女は喜びに顔を綻ばす。そしてシダに向かって話しかける

「私の名前はアリス・レオよ。あなたの名前は?」

「俺はシダ。シダ・リンドール。綺麗になってよかったね」

「本当にどうもありがとう。あなたは命の恩人だわ!何か今度お礼をさせてほしい。」

「大げさだよ笑。騎士はノブレスオブリージュでしょ?」

「あら?あなたも騎士目指してるの?どこの学校?」

 「まだどこも入ってないんだ。この前目指し始めた。」

 そう言ったらすごく驚かれた。やっぱり今からじゃ遅すぎるのかなあと思っていると少女ことアリスが言う。

「じゃあこれからね!一緒に頑張りましょ!」

 満面の笑みでそう言われて少しドキドキしてしまう。美人は凶器だ。つくづくそう思う。

「じゃあ私急いでるから行くね!また会おうね!」

 そういって足早にいってしまった。

「悪いねシダ君。お嬢は少々気難しくてな。家族や俺意外にあんな表情向けたのは俺が知る限りシダ君だけさ。本当にありがとう。」

 そう深々とお辞儀される。

「……本当に騎士を目指すってんなら常に剣に触れときな。剣がなければ棒でも長さがあえばなんでもいい。とにかく馴染ませるんだ。あとは握力とかかな」

 アリスに急かされた男は、俺の名前はアルバスだ。と言い残し、あと聞きたいことは教えてあげるからここに連絡してほしい、と言い残し去っていった。

 シダの手元にはアルバスにもらった一枚の紙があった。

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