騎士の果てに

@shuya4848

第1話 騎士とは

「シダ!後ろから新品持ってこい」

「はーい父さん」

 そう言い残しシダと呼ばれた少年はお客さんの入れない倉庫に在庫を取りに行く。このお店の名前はリバトーニ。商業で名を馳せたこの国で有数の財団と呼ばれる商会である。商会の代表はシダの父。財団では珍しく血縁のものだけで商品を扱うことで有名なこの店では、まだ幼い少年であるシダでさえ働かされる。

「Fの6番だからこれかな」

 アルファベットと番号で区切られた倉庫の中からまだ綺麗な絹で作られた布を取り出す。取り出しながら思う。

 「あのお客さんなんでこんな綺麗な絹買うんだろう。みるからに強そうでこんなの興味なさそうなのに」

 シダはまだ9歳ながら父の手伝いで働くだけでは勿体無いと思い、いつからかお客さんは何でこれを買うのかを考えることを楽しみにしていた。そして絹はいつも貴族のご令嬢など身分の高い人しか買わないため、今回のお客さんが買うことに疑問を抱いていた。けっしてその客が見すぼらしい見た目をしているわけではないが長年の経験からシダは見た目で身分の高さが分かるくらいには目が肥えていた。

「お待たせしました」

「ありがとう。若いのに偉いね」

「いえいえ。ところで騎士様はどうしてこの絹が必要何ですか?」

「おい。」

 父がシダにきつい視線を向ける。

「構わないよ。これは僕が仕えているお方のご所望でね。どうやら新しいドレスに使うみたいなんだ」

「そうなんですね。でもめんどくさくないんですか?」

 シダは疑問に思ったら自分が納得するまで質問してしまう悪い癖があった。またかと父は頭を悩ます。それでもその男はそんなの気にしないとばかりに誇らしい顔で言葉を紡ぐ。

「そんなこと僕は思わないよ。騎士だからね。役に立ってこそさ」

 その自信に溢れた姿はシダには輝いて見えた。聞いたことがある。ノブレスオブリージュ。騎士たるものは自分に利益がなくても弱きを助ける。その真髄こそが騎士道であり生き様であると。世の中の人は騎士は変わったやつしかいないと言い、そもそも騎士は貴族や騎士の家系からしか出てくることはほとんどなく、それは教育水準が違うからだと言われている。それほど騎士とは壁が高く一般の人とはかけ離れている。だがその生き様は誰もがかっこいいという感想を抱いてしまうほど尊敬に値すると思う。シダは今日それを理解した。

「じゃあ僕はもう行くよ。次の仕事があるから」

 そう言い、名前もわからない騎士様は店を出る。

 シダはその男の後姿に憧れの視線を向ける。この出会いをこのまま終わらせるのはいけない気がする。

「待ってください!」

 店を勢いよく出たシダはそこにいる男に向かって叫んだ。

「うん?どうしたのかな?」

「どうやったら僕も騎士になれますか?」

 咄嗟に言った。自分は家業を継がないといけないのに。それとは真逆とも言えることを聞いてしまった。それは抗いようのない幼いが故の憧れからであったのか、それとももとよりそういう運命のもとで生まれたのかは、今はまだ分からない。だが確かに少年シダの運命の歯車は動き出した。

「あははは!君は騎士になりたいのかい?じゃあ頑張らなくてはな!君の年だと騎士学園に入らないといけないんじゃないかな。今年の募集は先月終わったから次は来年だよ。みんなその年ではもう基礎を学んできている。後からのスタートにはなるが本気で目指すものを馬鹿にする奴は騎士にはいない。君の目が気に入った。君が騎士になった時また会えるといいな。」

 そう言って彼は去っていった。

 彼との出会いは少年シダの心を大きく変えることとなった。ただまだ憧れに過ぎない。少年シダは努力することを誓った。その目にはもう騎士の姿しか見えていなかった。

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る