第2話「現代のサキュバス事情」(前編)

夕方の酒屋、そこで二人の女剣士がジョッキになみなみと注がれた液体を豪快に飲み干す。


「今日もお疲れさーん!!っぷっはぁ!コーラが美味い!」

「ジョッキでコーラ飲むって糖分やばそう」

「はっはっは、まぁ当分は控えるさ」

「糖分だけに」

「糖分だけに」


片方は赤髪のロングヘアの剣士、もう片方は青髪ショートヘアの剣士でどちらも17歳前後くらいの見た目である。

二人は同じギルドに所属している同僚であり、こうして居酒屋や食堂などで一緒に飲むことも多い間柄であった。

コンビを組んでからは、クエストを終えた後この町のちょっと大きい酒場でまるでおっさんのように酒と飯をかっ食らいながらまるでおっさんのような会話をするのが日課になっていた


「最近サキュバスの扱いが酷くねえかって思う」

「唐突だなおい続けろ」

「この間某サイトでエロ同人買ったのよ、サキュバスの」

「はいはい」

「それで内容が、『サキュバスの彼女がチャラ男の圧倒的テクニックで堕とされる』的な話だったのよ」

「まぁ別に良くあるシチュエーションじゃね?」

「そう!問題はそこだよ!!」


赤髪が乱暴にジョッキを机に叩きつける、中のコーラが一瞬落ちそうになる


「良くあるんだよ!最近『サキュバスがセックスで負ける』ってシチュエーションが!!」

「そんなに嫌なんか?」

「嫌に決まってんだろうが!!サキュバスはなぁ、生まれてからずっと男の精液を主食に生きてんだよ!セックスのスペシャリストどころの話じゃねーよ人生そのものがセックスなんだよ!」

「人じゃねーけどな」

「細かい突込みはいらん!兎に角だ、サキュバスさんが人間如きに屈服させられるだなんて屈辱的過ぎて許せんわ、他にも「処女のサキュバス」とか「セックスが苦手なサキュバス」とか「純情なサキュバス」とか色々あるけど!サキュバスさんの魅力をそんなに落としたいのか!?」

「まぁ……言わんとする所は分かる」

「殴り合いとか戦闘で負けるのはいい、私生活がポンコツなのは許そう、でもエロだけは別だ」

「まぁ他種族で言う所の「短命のエルフ」とか「手先がぶきっちょで長身のドワーフ」、「理性的で会話の通じやすいゴブリン」みたいなもんか……」

「え、何それ面白そう」

「おいこら」

「その通り!!」

「「えっ誰」」


2人の背後から突然声がした、そこには金髪のウェーブかかったボブヘアの女性が立っていた、背は170cm程でスーツ姿で、そして何よりも目を引くのは服の上からでもわかる巨乳だった。なんか尻尾と角と羽が生えていた


「私はサキュバス姐さん、サキュ姐とでも呼んでください」

「あっはい」

「お、おう……」


サキュバスはそのまま空いてる席に勝手に座ると店員を呼びつけ「取り敢えず生中とスペアリブ下さい」と注文した。


「あの、当然のように座ってるけど俺らあんたの事知らないんだけど」

「突然失礼しました、実は私こういう活動をしている者でして」


そう言って名刺を差し出す、そこにはこう書かれていた 【サキュバス向上委員会 サキュ姐】


「「サキュバス向上委員会?」」


2人は思わずハモった、聞いた事も無い委員会だ


「はい、最近はサキュバスの質の低下が問題視されておりまして、こうして日夜活動している次第でございます」

「質の低下って?」

「貴方がいま話していた「マゾのサキュバス」や「簡単に逆転されるサキュバス」、「純愛エッチしかしないサキュバス」「精液飲まずにジュースとか市販品飲んでるサキュバス」の増加ですね……ぐびっぐびっっぷはぁぁ!!」

「……」

「……」


豪快にビールを煽るサキュ姐を2人は何も言わずに見つめていたが、赤髪は取り敢えず質問した


「え、でも今のはそういう同人とか物語の話では?」

「リアルのサキュバスも大体そんな感じですよ、特に最近の若いサキュバスは「好きな人としかやりたくない」みたいな考えの子が多すぎて……、まぁそれも個性といえばそうなんですが」

「ん、でもサキュバスにとってセックスって食事みてえなもんじゃないの?そんな選り好み出来る状況なの?」

「実は食の自由化の波が我々サキュバスにも来てしまいましてね……昔は「生の精液じゃなきゃ食った感じしねえんだよ!」ってサキュバスの方が多かったんですが、最近は「あれ?普通に肉って美味くね?」「精液食わんでも生きていけるんじゃね?」って思う若い子が増えてしまったんですよ……そしてタチの悪い事に生きていけるのが発覚してしまったんですよ……おかげで彼氏いない歴=年齢のサキュバスも珍しくなくなりました……はぐはぐっ」


サキュ姐はそう言うとバクバクスペアリブを凄い勢いで平らげていった


「……」

「……」


物凄い勢いでスペアリブをただの骨にしていくサキュバス姐さんを見ながら赤髪と青髪は黙って見つめてから


「あー……それはなんというか……」

「大変だな……」

「しかも人間の持ち出してきた恋愛物や純愛物の物語や漫画の影響も大きくて、今では「いつか私にも白馬の王子様が!」って夢見るサキュバスも増えまして……まぁ私もサキュバスの中では比較的若い方なんで気持ちは分かるんですよ、でもお前、サキュバスが男にリードされるってどうなのよ、むしろ男を手玉にとってこそのサキュバスやろうがいと……あーすいませんスペアリブとジャーマンポテト追加で」

「あ、俺焼きそば」

「俺冷奴」


迷うことなく追加注文するサキュバス姐さんに言いたい事はあったが、取り敢えずスルーし2人も追加注文した。


「まぁそんな子達ではあるんですが、一発セックスさえしてくれれば……つまりほとんどの子は大学~結婚でサキュバスとしての本能を取り戻してくれるんですよ」

「え、それならそれでいいじゃん」


赤髪が焼きそばに手を付けながら言うと


「それがそうでもないんです、処女を拗らせて大人になってから初めて性の喜びを知ったサキュバスは力のセーブが出来ないんですよ」

「あーそれで相手の男性殺しちゃうと」


冷奴を丁寧に食べながら青髪が言うと「ああ流石にそこまで行くのは少ないですよ」と前置きしてから


「性欲のセーブが出来ずに恋人や旦那さんがいるにも関わらず手当たり次第に他の男とヤリまくってしまい、裁判沙汰になっちゃうんですよ。もぐもぐ」

「あー……『学生時代ゲームを禁止されて過ごしていた奴が大学生になって親元から離れた途端にゲーム三昧になる』的な感じか」

「『少ないですよ』つった?『ありませんよ』じゃなくて?」

「ええそうです、やはりどれだけ倫理や道徳の鎧で纏おうともサキュバスの本能は誤魔化せません。ご存じの通りサキュバスの性欲は他の種族と比較になりません、だからこそ若い段階でセックスを覚えさせ性欲をコントロールする術を身につける必要があると分かって来たんです……うっま、スペアリブうっま、ポテトとの相性もバッチリ」

「なるほど、サキュバス向上委員会の仕事ってのはサキュバスの本能を呼び覚ます的なアレか」


青髪が納得しているとサキュ姐は頷いた


「ええ、本来はもっと大々的にロビー活動やデモを行って政治家に訴えていきたい所なんですが、出来たばかりの集団なので、こうやって日夜地道な啓蒙活動に励んでいるという訳です、今日も地道にビラ配りをしてたらあなた方の会話が聞こえてきまして、特に赤髪の貴方は熱く語っていただいたようですので思わず声をかけさせていただいた次第でございます」

「なるほど、中々面白い話だった」

「右に同じ」


2人が頷くと、サキュ姐は姿勢を正して頭を下げた


「そこで、厚かましいお願いではありますが、お二人にぜひ協力していただきたいのです!」

「「協力?」」


―後編に続く

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