第19話



退院してからカイは毎日のように父親に呼び出され、アヨとの結婚準備の話ばかりを催促されます。



K「そんな焦らなくても…」



アヨへの感情や自分自身に違和感を感じ始めたカイがそう言っても、父親は一刻も早く入籍をし結婚式をすると言って聞きません。



カイはそんな父に強い不信感を抱きながらもアヨとの結婚準備をただ流されるままにしていました。



そしてついに…



カイはアヨとの結婚式を迎えました。



父「いよいよだな……」



カイのタキシード姿をみて満足な父親はそうカイに言い…



隣にいるジノはそんなカイを難しい顔をして見ていました。



やはりカイ自身…この状況がどこか府に落ちないのです。



幸せでいっぱいなはずの結婚式当日…



なのにどこか胸が苦しくなんとも言えない気持ちに押しつぶされそうになり、涙が溢れそうになるのです。



カイがトボトボとアヨの支度部屋を訪れると、そこにはホマの姿があり…



自分の新婦であるはずのアヨはホマに抱きしめられながら泣いていました。



K「…ア…アヨ?」


H「あ…カイ…こ…これは…」



本来ならばこれから結婚するはずの相手であるアヨが自分以外の男性と抱き合っている所を見れば、胸が痛くて仕方ないはずなのに…



カイはその光景を見てどこかホッと胸を撫で下ろしてしまったのです。



A「ホマくん…ごめんね…私の力じゃどうにも出来なかったの…」



アヨの言葉にホマは無言のまま首を横に振り、アヨの涙をそっと親指で拭いました。



アヨはこの日が来るまで必死で父親にカイのと結婚はしないと反抗し続けましたが、アヨの主張は虚しくこの日を迎えることになってしまったのです。



ホマはカイの前に立ちカイに言いました。



H「カイ…もし、何かを思い出すようなことがあったとしても…アヨの事…傷つけないでくれ…どうか幸せにしてやってほしい…頼む…」



ホマのその言葉を聞いてカイの心は違う…そうじゃないと叫びます。



K「ホマくん…俺…」



カイの頭の中には微かに人影が浮かんでは消えていきます。



その見えそうで見えない人影にカイは胸を締め付け愛おしさが込み上げてきました。



H「カイ?」


K「俺………行かなきゃ…」


H「え?」


K「俺を待ってる人がいるんだ…あの人の所に行かなきゃ…」



そう呟いたカイの頭の中は急に騒がしく過去の想い出たちが駆け巡り、カイは思わず足元がふらつきます。



H「カイ…まさかお前…」


K「テリの所に行かなきゃ…」



そうカイの口が無意識に動いたその瞬間…!!



JN「カイ!!大変だ!!」



ジノが青ざめた顔をして控室に飛び込んできたのです。




ーーーーーーーーーーーーーーー




時を同じくしてテリは部屋の窓から眩しすぎる真っ青な空をただぼんやりと見上げていました。



その青空にカイの笑顔を想い描き…胸を痛めながら…



T「カイ…私たち本当に…来世は…一緒になれるよね…?また、私のこと…見つけてくれる…?」



そう口にしたテリは力なく微かに手が震え…痺れ始めます。



T「カイ……私はもう無理みたい……ごめんね…愛してる。」



テリは高く昇る太陽にそう呟き…息絶え絶えにゆっくりと瞳を閉じました。



ーーーーーーーーーーーーーー



カイは控室に飛び込んできたジノを苦しそうに歪んだ顔で見つめます。



その瞬間、カイの中で嫌な予感がふと頭の中に過ぎったのです。



K「ジノ兄さん……?俺…テリのこと…」



カイは震えた声でジノの腕にすがり付き、そのままスルスルと床に跪いてしまいました。



JN「カイ…お前…テリのこと思い出したのか?」


K「苦しい……助けて…」


JN「行こう…テリの所に……」



ジノはカイの腕を持ち立ち上がらせようとします。



しかし、カイは力なくフラフラとし足元が定まりません。



JN「お前は!!テリの為なら全てを失ってもいいって…覚悟決めたんだよな…!?しっかりしろよ!!テリのとこに行くんだろ!?」



ジノはカイの胸ぐらを掴み正気に戻させるようにそう叫びますが、カイはただ涙を流すだけです。



K「………なんで俺こんな大切なこと…忘れちゃったんだよ……」



カイはようやく全ての記憶を取り戻し、テリへの自分の想いにもたどり着きました。



カイの目からはポロポロと涙がこぼれ身体がガクガクと震えています。



JN「カイ頼むからしっかりしてくれ…テリが大変な事になったんだ…」


K「え!!!?テ…テリが…!?」



カイは驚きグッと眉間にシワを寄せ、ゆっくりと振り返りアヨを見つめます。



A「私のことはいいから!テリさんのところに早く行って…」


K「ごめん…」


H「アヨには俺が付いてるから大丈夫…早く行きな…」



カイはアヨとホマのその言葉を受け止め地位と名誉…そして今まで育ててくれた親までも捨ててテリの元へ向かおうと式場を飛び出そうとします。



しかし…



カイとジノの目の前に…



ある人が現れました。



つづく

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