第18話



カイの退院の日になり、アヨとホマが一緒に付き添ってカイのマンションに戻りました。



カイは今でもアヨが自分の婚約者だと思っていて、胸に抱いてる恋心はアヨへの気持ちだと思っているので、アヨに一緒に住もうと言って聞きません。



そして、カイが部屋の扉の暗証番号を押すとエラーが表示されロックが解除されないのです。



K「あれ?おかしいな…」


H「パスワード忘れちゃった?」


K「いや…この前パスワード変えて…確かアヨの誕生日に設定したはずなんだけど…」


A「私の…誕生日?」



アヨはそう聞いてピンと勘がはたらきました。



A「ちょっと待って?」



アヨはスマホを取り出しとあるところに電話をかけます。



A 「もしもし。突然ごめんなさい…誕生日いつだったかしら?うん…分かったありがとう。」



アヨはそう言ってスマホを切りました。



K「誰に電話してんだよ。アヨの誕生日を押しても開かないのに…」


A「1106を押してみて?」


K「110...6?」



その数字を聞いたカイの顔が一瞬固まり、アヨとホマはそんなカイの様子を固唾を飲み見つめます。



K「なんか…苦しぃ…」


H「どう苦しい?」


K「分かんないけど…涙が止まんねぇ…」



そう言ったカイは顔を上げると涙がポロポロとこぼれ出していました。



A「1106はカイにとって大切な数字なんだよ…私なんかの誕生日じゃない…もっともっと大切な…」


K「……なに言ってんだよ…やめろ…俺にはアヨだけなんだから…」



カイは泣いていたかと思うとスッと真顔になり、そのままアヨの言った番号を押して部屋の中に入っていきました。



ふたりはそんなカイをただ見守ることしが出来ず、深いため息を落としました。



荷物を片してアヨが帰ろうとすると、まるで子どもに戻ったかのようにカイはアヨにすがり、1人になるのを嫌がりました。



しかし、アヨはそんなカイを振り切るようにしてホマと一緒にカイの部屋を後にします。



H「…後悔してる?」



帰りの車の中でホマがぼんやりと外を眺めていたアヨにそう問いかけます。



A「え?」


H「俺とのこと…」


A「そ…そんなわけ!!」


H「でも、俺との事がなかったら…今のカイはアヨを求めてる訳だし…丸く収まってたのかなって…」



ホマもどこかでずっとこの状況に傷つきもどかしい不安に1人耐えていました。



A「やだよ…やめてよ…今のカイは偽りなんだよ…ホマくんの言葉は本物なんじゃないの!?ホマくんを信じた私がバカだったの…?ホマくゆに愛されて幸せだって思ったのは私間違ってた…?」


H「アヨ…ごめん…そんな顔させるつもりじゃなかったんだ…ごめん。」



ホマは車を止め隣で涙するアヨを抱きしめました。



A「皆に酷い事した私を信じてって言っても…無理かもしれないけど…今の私の心にはちゃんとホマくんがいるよ…」



アヨの言葉にホマはゆっくりとうなずき微笑みました。



H「ちゃんと信じてるよ…ゆっくりでいいから…いつか俺のこと好きになってね…」



ホマはアヨの頬に流れる涙を親指で拭い桃色に光る唇にそっと口付けました。




カイはアヨとホマが帰ってからなんとも言えない違和感と孤独を感じて部屋の中でひとり震えていました。



ふとした時に襲ってくる悲しみと胸の痛みがなんなのかカイには分かりません。



それが全てテリへの愛の印だったとしても…



そして、窓から夜空に浮かぶ月を見上げます。



K「月が…綺麗…」



そう口が勝手に動いた瞬間…



カイはまた涙が溢れている事に気づきます。



K「俺は…何が悲しくて…泣いてるんだろ…誰に会いたくて月を見上げてるのだろう…」



アヨに会っても満たされない心の隙間に気づき始めたカイは月を見上げ涙を流しながらそんな事を思うのでした。



ガチャンッ!!!!



カイが月を見上げていると後ろにあった写真立てが床に落ち、ガラスの破片が散乱していました。



カイはゆっくりとそこに向かいその落ちた写真立てを拾い上げるとそこには…



K「この人……」



カイの手の中にはテリとカイが肩を寄せ合いながら笑顔で写っている唯一の写真がありました。



ふと、裏に何が透けて見えたカイは写真を裏返してみると



「カイへ 今世こそはずっと一緒 テリより」



そう書いてありました。



K「今世…こそは…?どういう意味だろ……」



カイは不思議に思いながらその写真を棚に置き散らばった破片を拾い上げます。



K「痛……」



カイは破片で指先を怪我し、ジワっと真っ赤な血が滲みその血液をカイはじっと見つめます。



K「俺は…何か大切なことを…忘れてしまったのか…?」



もどかしさを抱えたままカイはそっと血の滲む人差し指を…咥えました。



つづく

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