第12話
カイが視線をあげると、なんとそこにはテリが眉毛をハの字に下げて立っていたのです。
カイはあまりの驚きに声も出ません。
アヨは立ち上がりテリの元に近寄ります。
A「テリさん…ごめんね…」
T「ううん…謝らないで…私こそ…ごめ…」
A「やめて…好きな人を奪われて謝られるのが1番…惨めになるだけだから…。酷いこと言って本当にごめん…じゃ…行くね私…」
アヨはそう言ってカイの部屋を足早に出て行きました。
テリはリビングの扉の前で立ち尽くしたまま…
カイはそんなテリを見つめたまま…
無言で無音の時間だけが過ぎていきます。
K「……な…なにやってんの…」
カイは絞りだすようにそう問いかけるとテリは申し訳なさそうに肩をすくめました。
K「ねぇ…急にいなくなって…なにしてんだって聞いてんだけど…」
すると、テリの目には涙がゆらゆらと揺らめきだし…
カイはそんなテリを見て耐えられずにテリの元へいき、テリの腕をグイと自分の方へ引き寄せ胸の中に閉じ込めました。
T「ごめん…ごめんなさい…ごめんなさい…」
何度もテリから繰り返される謝罪にカイはただテリの背中をトントンと撫で、首を横に振る事でしか応えてやれません。
なぜならカイも涙で言葉すら出てこなかったのです。
T「私がいたらカイに迷惑かけると思って…ごめんなさい…」
テリは言葉に詰まりながらカイにそう伝えます。
まるで、子供のように嗚咽混じりに泣きながら…
K「テリは…俺のこと…必要ないの?俺のこと…もういらない?」
カイがテリにそう問いかければ、テリはさらに泣きじゃくりながら首を大きく横に振り声を上げて泣きました。
T「本当は…やだった…本当はカイと離れたくなんて…ない…苦しくて…悲しくて…息の仕方さえも分かんなかったよ…」
テリの涙の粒がポタポタと床に落ち、カイはそんなテリをさらにギュッと抱きしめました。
テリの涙が止まりはじめた頃、カイはゆっくりと手を引いてテリをソファに座らせました。
そして、テリの手を優しく包み込み自分の膝の上に置いてゆっくりと口を開きました。
K「ちゃんと…俺が分かるように説明して。」
カイがそう言うとテリは小さく首を縦に振りゆっくりと話し始めました。
テリの話によれば
カイがホマにテリの悪夢の相談のために会っていたあの時、カイの家にアヨが訪れました。
その時、初めてテリはアヨと出会いカイにはアヨという婚約者がいる事を知ったのです。
カイに隠し事をされていたようでテリは深く落ち込み傷つきます。
そして、アヨはそんなテリにトドメを刺したのです。
A「あなたのせいでカイが不幸になってもいいの?」
T「それって…どういう…意味ですか…」
A「あなたのせいで私との結婚が破談になったら…カイのお父様の病院…倒産するわよ?あなたがカイのそばにいるときっとカイは不幸になる…本当にカイを愛してるならお願い…カイの前から消えて?」
アヨの言葉はテリの心を深く抉り突き刺し、テリはショックのあまり言葉が出ません。
A「私は子供の時からカイのそばにいたの。あなたはカイの何を知ってるっていうの?ねぇお願い…私とカイの邪魔をしないで…あなたにとってカイは必要な人かもしれないけど…私にとったらあなたよりももっとずっと前から大好きで大切な人なの…たった1 、2か月の付き合いで私達のこと壊そうなんてしないで…お願い…」
アヨの目からは涙が溢れだしていて…
テリは動揺し自分が無意識のうちに2人を壊そうとしていたんだ…
カイを不幸にしようとする邪魔者は誰でもない…自分だったんだ…と思いました。
T「…私に行くところなんて…ないんです…親も家も知り合いもいなくて……」
もう、この時のテリには1人でいることに耐えられるほどの強さはありません…
なぜならばカイのそばで誰かから愛と温もりをもらう事の幸せを知ってしまったから…
A「ジヨさんって人…知ってるでしょ?」
テリはアヨの口から出た思いも寄らない人物の名前に動揺し手が微かに震えだします。
T「な…なんで…あなたがジヨのこと知ってるの…?」
ジヨはテリにとって唯一の親友だった人…
しかし、それと同時にテリの心に深い傷を負わせた人でもあったのです…
A「ジヨさん、今カイのお父様の秘書なんだよ?テリさんのこと探してドゥベカから出てきたんだって言ってた。テリさんの事すごく心配してて住むところもジヨさんが用意してここで待ってるそうよ。ねぇお願い…カイを愛してるならジヨさんの元で暮らして…もう二度とカイの前に現れないで。『もし、僕の元にキミが戻って来なければカイがどうなるか分からないよ…』これはジヨさんからの伝言よ。ジヨさんのその言葉の意味…良く理解してね。」
テリはジヨから逃げるためにドゥベカを出たはずなのにまさか、ジヨがテリを探してドゥベカからここまで来ていたとは知らずテリは怯えます。
ジヨがカイの父親の秘書だと知らなかったテリは驚き、アヨはテリにジヨから預かった住所の書かれたメモを渡し残酷な言葉だけを置いて帰っていったのです。
つづく
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