第11話
カイとホマはアヨを見送ったあと、カイの運転でカイのマンションに向かいました。
マンションに着き、カイはホマにお礼を兼ねて高級ワインを開けます。
K「ホマくんのおかげでアヨのドレス選び助かりました。」
H「いいえ〜乾杯。」
ふたりはワイングラスを鳴らし赤ワインを飲みます。
H「俺はさ〜お前が羨ましいよ。」
ホマの突然の言葉にカイは思わずワインを咳き込みます。
K「ゴホッ…お…俺がですか?」
H「アヨと俺たちは幼なじみでさ?お前は何もしなくてもアヨとの結婚が決まっててさ…そんなアヨはお前が大好きでさ…お前はもう将来、医院長の席も決まってるし…俺はお前が羨ましくて仕方ないよ。」
お酒が弱いはずのホマなのですが、グラスに入った赤ワインをがぶ飲みして思わずカイがその手を止めます。
K「…酒弱いんだから…」
H「くれよ。」
K「え?」
いつもとは明らかに違う低い声のホマにカイは思わず戸惑いホマの顔を見つめます。
H「アヨのこと…好きじゃないなら俺にくれよ。」
ホマはじっとカイを鋭い目で睨みグッとワインを一気に飲み干しました。
K「ホマくん…まさか…」
H「な〜んてね!!今の俺めちゃくちゃカッコ良かったよね!?」
ホマはそう言って豪快に笑いましたがカイは全く笑えませんでした。
その日、ホマは珍しくべろべろに酔っ払いそのまま寝てしまいカイの家に泊まりました。
そして、カイはホマにそっとブランケットを掛けると窓から見える月をみつめ思います。
自分が恨んでいた人生は誰かから見れば羨ましい人生だったのだろうかと…
K「俺が必要ないと邪気に扱っているアヨはホマくんにとったら大切な人で愛する人…なのかもしれないのか…」
カイはソファでスヤスヤと眠るホマに視線を落とすと…
不思議と思い当たる節が今になっていくつも頭に思い浮かんでいきました。
K「ホマくん…ごめん…俺…ホマくんの好きな人に最低なこと…してるね…」
カイはホマに申し訳ない気持ちでいっぱいになり、小さなため息を落としたのでした。
それから数日後
アヨが突然、連絡もなくカイのマンションを訪れてきました。
K「急に何?」
部屋に入るとアヨはカイに突然、抱きついてカイは思わず身構えましたがそのままアヨを優しく抱きしめてやりました。
それは先日のホマの言葉を思い出したからです。
A「ふふ…同情で私のこと抱きしめてるの?」
アヨはカイに抱きしめられながらもそんな事を言い、ギュッとカイの服の裾をワシ掴みにします。
K「アヨ…ごめんな…」
A 「なにが…」
K「お前のこと…好きになってやれなくて…」
カイがそういうとアヨの肩は震えだし、ポタポタと涙が大理石の床に落ちていきます。
K「お前も本当は気づいてんだろ?自分の事…誰が1番理解してくれて…愛してくれてるか…」
アヨも本当はそのカイの言葉の意味が分かります…。
本当は自分の心に誰が必要なのか…
いつも自分のそばに寄り添ってくれているのは誰なのか…
涙を流してる時…
その涙を拭ってくれるのは誰なのか…
アヨ自身が1番わかっているのですが、アヨは首を大きく横に振りカイにすがるようにカイを抱きしめます。
きっとそれはもう愛情ではなく…執着心へと変わってしまっている事に薄々気づきながら…
K「俺はホマくんみたいにお前を愛してやれない…ごめん…俺といる時のお前を見てると辛くなるよ。俺たち戻ろう…?婚約者じゃなく…幼なじみに…仲の良かったあの頃に…」
カイがそういうとアヨはゆっくりと離れ、涙でぐちゃぐちゃになったままカイを見つめました。
A「もう…戻れないよ…」
K「え?」
A「仲の良かったあの頃に戻れるわけないじゃん…私がテリさんに消えろって言ったんだから!!」
カイはアヨの言葉を聞いて絶句します。
まさか…アヨがテリにそんな酷い事を言っているだなんて…
アヨとテリが会っていたなんて…
カイは知る由もありませんでした。
カイは恐る恐るアヨに問いかけました。
K「そ…それ…どういう事だよ…」
A「…そのままの意味よ…あんたがいたらカイが迷惑なんだって!あんたのせいで私との結婚が破談になったらカイの病院が潰れるかもしれないって!だから本当にカイを愛してるなら今すぐ消えろって私が言ったの!脅したのよ!だからもう…私たち仲良しになんても戻れるわけ……」
K「…でもお前も…本当は……戻りたいんだろ?」
A「え……」
K「そうやってお前がテリに酷い事をしたって俺に伝えてくるってことは…俺と…仲の良かったあの頃に…戻りたいから俺に言ったんじゃないのかよ…?」
カイがそう言うとアヨはその場に泣き崩れました。
カイと同い年で兄妹のように育った二人は本当に仲が良くホマと三人でよく遊んでいたのです。
今ではそれも遠い昔の話…
アヨはそれを思い出しては1人心を傷め…
自分を愛してくれる事のない初恋の人カイと、カイとの結婚を望む親達との間で身動きが取れなくなってしまっていたのです。
A「そうだよ…!昔みたいにカイと仲良くなりたいんだよ…!婚約者なんて言葉に囚われず仲良く話がしたいだけなのに…!好きだから…そばにいて欲しくて好きになればなるほど…カイは離れていくから…!もう…こんな辛いの嫌なんだよ…!助けてよ……なんでこうなっちゃったの…私たち…!!」
泣き叫びながらそう言うアヨにカイはしゃがみ込んで数年ぶりに頭を撫でてやりました。
K「お前も…ある意味被害者だよな…親たちの思惑に巻き込まれて…。でもな、俺はお前の気持ちには答えてやれない。お前も俺なんかに執着してないで…愛してくれる人に甘えろよ…本当に大切な人…失っちゃうぞ?俺みたいに…」
カイがそう言うとアヨはピタっと泣き止み…
小さな声で何かをつぶやきました。
A「………返してあげる…」
K「え?」
カイがアヨに聞き返すとカイは背後に気配を感じ…
ゆっくりと振り返りました。
つづく
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