第7話


カイは食事会を終えて家路を急ぎます。



マンションに着き、テリを起こさないように部屋に入るとまだ明かりがついていました。



カイはテリが起きて待っているのかと少し嬉しく思いながらリビングの扉を開けると、テリはリビングの床に座りテーブルに伏せて眠っていました。



カイはそんなテリの姿をみて自然と笑みがこぼれ落ち、テリの柔らかい髪を指に絡めるようにして撫でます。



ふと、テリの下に隠れている雑誌を見てみるとそこには占いのページが開いてありました。



K「テリ…占いなんて興味あるんだ…」



カイはテリを見て可愛いと言わんばかりの笑みをこぼし、テリの身体をそっと抱えるとテリは目を覚ました。



T「ん…カイ…帰ってたんだ…」


K「ごめん…ベッドに移動させようと思って…」



カイがそう言うとテリはギュッとカイに抱きついて離れません。



カイは婚約者の存在をテリに明かしていないので、婚約者との食事会から帰ってきた自分に抱きついてくるテリに少しの後ろめたさを感じると同時にテリへの愛おしさも込み上げます。



T「怖い夢みた…」



テリはまるで子供のようにカイに甘えしがみ付き離れません。



K「怖い夢?」


T「うん…すごい怖い夢…」



ゆっくりとカイから離れたテリの目には涙がユラユラと浮かび、カイはあまりにも美しいテリの瞳に夢中になります。



ふたりの間にはなんとも言えない沈黙が訪れ、お互いの視線だけが会話をし…



それを知っているのは漆黒の闇に浮かぶ月だけでした。



カイの視線はゆっくりとテリの唇に堕ちていき釘付けとなり…



テリはそれを迎え入れるように唇を少し開けます。



そして、カイはゆっくりと何かに導かれるように瞳を閉じてそのままテリの唇に吸い寄せられました。



ふたりの唇はそっと何かを確かめるように触れ合いカイの手には思わず力が入り…



テリはカイの首に手を回しカイを自分の方に引き寄せ啄むようにキスをします。



ふたつの唇が重なり合う音だけが響き、テリの目尻からはひと筋の涙がこぼれ落ち…



カイがゆっくりとテリから離れるとテリはカイの胸にしがみ付きました。



K「テリ…?」


T「やだよ…もう離れないで…私を見つけてくれたんでしょ……」



テリの言葉が理解できないカイでしたがテリを落ち着かせようと優しくなだめます。



K「テリ…大丈夫…離さないよ…大丈夫だから…」



カイはテリの頭を自分の胸に抱き寄せ、小さな子供にするようトントンと背中を撫でてあげました。



すると、テリはいつの間にか眠りに落ちカイはテリをベッドに寝かせ…



その子熊のようなテリの寝顔を見て心に決めたのです。



もう、何があろうとこの人と共に過ごそうと…



どんな困難があろうとこの人から離れずに…



守り続けようと…。




その夜からテリは毎晩のようにうなされるようになりました。



隣にいるカイは悲しそうに泣き叫ぶテリを見て胸が引き裂かれそうに痛み…



必死になって揺さぶるようにしてテリを夢から起こすと…



悪夢から目覚めたテリを自分の腕の中に閉じ込め、カイは何度もテリの髪を撫でながら眠ります。



そして、不思議とテリはカイの腕の中で眠った時だけうなされる事なくスヤスヤと眠りに落ちるのでした。



そんな話をカイはある日、幼なじみであり精神科医のホマにテリの悪夢の話を相談します。



K「ホマくんどう思う?」


H「うん…もしかしたら…少しだけ精神が不安定になってるのかもね…他になんか気になることある?」


K「毎晩ではなくて…不思議と俺がいない時とか俺がいても別々に寝たりした時だけうなされてるんだ…毎回同じ怖い夢を見るらしくて…」


H「それはどんな夢?」


K「それは言いたくないって本人が…病院に行こうって言っても行かないの一点張りで…」


H「もしかしたら、家にいる事が多いからそのストレスかもね。まぁ、本人が1度診察に来る方がいいんだけど…骨折も治ったんならリハビリがてら気分転換も兼ねてどっかに連れて行ってあげたら?」


K「確かに…ジノ兄さんとこに診察に行く以外はマンションに閉じこもりっきりだからな……どこか一緒に出かけてみる。」



カイがそういうとホマはニヤッと笑って目を細め、じーっとカイを見つめカイはそんなホマに気づき眉をピクッと動かしました。



H「こんな事言いたくないけどさ〜」


K「うん……」


H「お前がアヨと結婚しないとウチの病院…潰れるんだよ?分かってるよね?」



ホマはカイの父親が経営をする病院の精神科医で内部事情もカイのことも全て知っています。



K「分かってる…けど…」


H「けどはないよ。ジノさんにも言われてるはずだぞ?遊びならいいけど本気にだけはなるなって…」



ホマのその言葉がカイにとってジノに言われたあの時よりも重く胸苦しく感じるのは、カイにとってテリはいつの間かそこまでの存在になってしまっていたからなのです。



K「…あの人を…遊びになんて俺が出来るわけないよ…」



カイがそう呟くとホマは大きなため息をつきカイの頭を人差し指で小突きました。



H「もう、骨折治ったんなら…そろそろ家から追い出せ…その方がお互い為だよ。今ならまだ、お互い傷は浅くて済むからな。」



カイはホマがそう言っている意味がが痛いほど分かります。



自分が結婚をやめてしまえば何百人と抱える病院の医師や患者が路頭に迷うことになります。



しかし、その人達の事を思って結婚を選べば必然的に愛するテリを捨てることになる…。



K「どうすればいいんだよ…もう…」



カイは頭を抱え悩みが深くなる一方でした。


つづく

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