第5話


マンションに着いたテリはカイに背負われたままカイの部屋の中を見渡し絶句しました。



T「こんな広い部屋に1人で住んでんの…?」


K「うん…無駄に広いだけ。」



大理石の床は床暖房を完備し、広い窓からはとても綺麗な夜景が見え、ついテリのテンションが上がります。



T「うわぁ!!すごいすごい!カイ窓!!窓!!」



そう言ってテリはまた、カイの背中の上で暴れるのですがカイは怒ることなく、テリの言う通り窓に向かい綺麗な夜景を覗かせてあげます。



K「テリあそこ見て?あれが俺にとってこの部屋の唯一の自慢かな?」



カイは顎で窓の上の方をテリに合図をします。



T「……うわぁ…月……」


K「…月が綺麗だろ…?」



すると、カイの肩に何か雫のようなものがぽたぽたと落ち、カイは不思議に思い振り返るとテリが声を殺しながら涙をポロポロの流していたのです。



K「テリ…どうした?傷口…痛む?」



テリは大きく首を横に振り、ギュッとカイの首に手を回してしがみ付き泣きじゃくり、カイは驚きます。



T「もう…このまま死んでもいいや…」



テリのその言葉に驚いたカイはテリをそっとベッドに座らせて、優しく両手でテリの涙を拭いてあげました。



K「死ぬなんて…言うなよ…さっきまで死にたくないって騒いでたじゃん…どうしたの急に…」


T「死んでもいいくらい…幸せだから…」



そう…


テリは親の優しさや愛、温もりを知らず今まで孤独と戦いながら生きてきたのです。



唯一、信頼していた幼なじみの親友はある事が原因でその彼の元からテリは逃げるようにして今まで生きてきました。



テリはその事が深い傷となり誰も信じられずにいましたがそれが今日…



カイと出会ってしまい…



人の優しさに触れ、人への愛を知り…



人の温もりの心地よさを感じてしまったのです。



カイはテリの涙をみて胸が締め付けられ思わずギュッと抱きしめ、テリもそれに答えるようにカイの背中に手を回しカイの首筋に顔を埋めます。



K「大丈夫、なんの心配もいらないよ…」


T「カイのこと…信じてもいいの…?」


K「信じていいよ…俺が守ってあげるから。」


T「…カイ……1人にしないで…」



そうしてふたりの儚くも悲しい恋が幕を開けるのでした。




2人の共同生活は2人にとってとても楽しく愛に溢れ穏やかな日々となります。



K「テリ…気をつけて。」


T「うん…ありがとう。」



ギブスが取れリハビリの始まったテリは家の中でゆっくりと歩く練習をします。



カイは医学生という事もあり学校に行く前にテリの食事を作り、学校が終わればそのまま帰ってきてテリの世話を文句のひとつも言わずに全てしました。



食事の世話から着替えそして、お風呂の後のドライヤーも。



しかし、初めの頃は…



ドライヤーをしてあげるとテリに言い出したのはカイ本人なのに、カイはテリの身体には大きすぎるバスローブ姿を見て戸惑います。



テリの濡れ髪に胸元が無防備なテリの姿を見たカイは動揺しシャワールームから出ると扉を一度、閉めました。



しかし、テリはカイの気持ちなんて気づくことなく、シャワールームの洗面台の前で座ったままバスローブを着てカイが来るのを震えながら待ちます。



T「何やってんの?寒いんですけど〜。」



ガチャ


再び扉が開く音がしテリがそちらを向くと、なんとカイは目を閉じたまま入ってきたのです。


そんなカイの姿にテリは大笑いしながらカイからかいました。



T「何やってんの?目!閉じてたらドライヤーできないじゃん!もう自分で乾かそうか?」



テリは笑ってそう言い自分でドライヤーをかけようとしますが、足のせいで椅子に座っているためコードが短く引っかかり上手く出来ません。



K「お…俺がやるから!!」


T「じゃ目あけなよ〜」



そう言ってドライヤーを取り上げるカイにちょっかいを出して遊ぶテリは根っからのイタズラ好きなのです。



T「なんでまだ目閉じてんの〜開けなってば〜」



テリがカイにちょっかいを出していると、カイは仕方なく目を開け視線を逸らしてドライヤーを続けます。



すると、カイの身体がテリのバスローブに当たりテリの肩からバスローブが擦り落ち、上からテリを見下げるようにしているカイの目線からはテリの胸元が露わになり、カイは思わず恥ずかしくて顔を真っ赤にします。



T「カイ顔真っ赤だよ?」



そんなことに気づかないテリは下からカイを見上げて、肩から落ちたバスローブを元に戻します。



すると、カイはテリに言いました。



K「明日、新しいバスローブ買ってくる。」


T「え?なんで?これでいいのに。」


K「俺が良くないんだよ…」



カイはそう言ってまた視線を逸らし、テリはカイのその反応でもしかしたら自分の胸元が見えてしまっていたのかもしれないとその時ようやく気づいたのです。



つづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る