第2話
それからヨリとテミはとても幸せな時間を過ごしました。
貧しいながらもふたりでおかずを分け合っては微笑み合い、寄り添い、深く愛し合っていったのです。
まるで、ふたりは運命の人に巡り合ったかのように…
テミがヨリの元に来て2か月が過ぎた頃
リュウとユジが顔色を変えてヨリの家にやってきました。
「ヨリちょっと来い!!」
温厚なリュウの言葉にテミも驚き、慌ててヨリとリュウを追いかけようとしますがユジに止められました。
「テミ…絶対ここから出ちゃダメ…分かった?」
ユジはそう言って外に出て扉を閉めその前に立ちました…
まるで誰かが入って来ないよう見張るように…
テミはユジのその行動と言葉を聞いて全てを悟ってしまいました。
もう…追手がすぐそこまで来てるのかもしれない…と…
そして、リュウは引きずるようにしてヨリを連れて行き、壁の張り紙をヨリに見せます。
*「これって…」
「この似顔絵…テミだよな?テミは…この国の姫君だったんだよ…」
リュウは周りに気づかれないようにヨリにそう言うと、ヨリの顔色が変わっていきます。
「もし…お前がテミを囲ってるのがばれたら…」
*「……分かってる…」
「なら、今すぐテミを城に帰るように説得しろ。分かったな?」
*「それは…出来ないよ…」
そういうとヨリはリュウを置いて走って家に戻って行きました。
リュウはもどかしさと腹立ちと色んな感情がこみ上げながらもヨリの後を追い諦めたようにユジと帰って行きました。
*「ただいま。」
ヨリは何事もなかったかのようにテミの元に戻どりますが、全てを悟ってしまったテミはヨリの背中を見つめて話し出しました。
T「ヨリ…知ってしまったんでしょ?ごめんね…ずっと黙ってて…」
*「ん…いいよ。だからずっと僕のそばにいてね…」
ヨリは振り返って寂し気に微笑むと、テミはぽろぽろと涙を流していました。
T「ごめんね…もう…戻らなきゃ…」
*「約束したじゃん…ずっとそばにいるって…」
T「きっとこの事がばれたら…あなたは…殺されて…」
*「いいよ…テミのためなら…死んでもいい…」
T「ヨリ……そんな事いけません…本当にごめんね…」
ヨリはテミのその言葉で一緒にいる事は不可能なんだと悟り、テミの言葉を受け入れる事しか出来ずただ、ぼんやりとテミを見つめました。
すると、ヨリはテミの後ろにあった暖炉に目がいきます。
T「ヨリ?」
*「生まれ変わっても…僕はあなたと出逢いたい…」
T「私も…」
*「来世でもあなたが僕を見つけられるよう…印をつけておくよ…」
ヨリはそう言って暖炉に薪を入れる為の鉄の棒を火で炙ります。
そして、ヨリは火で炙った鉄の棒を太腿に押しつけ…二つの印を付けました。
*「俺が分からなくても…この印でみつけてね…」
T「…ヨリ…私にも付けて…」
テミはそう言って袖をめくり腕を出しました。
*「本当に…いいの…?」
テミは優しく微笑み頷くとヨリは恐る恐るテミの細い腕にジュッと押しつけ、二つの印を付けました。
T「これで…ヨリに見つけてもらえるね…」
*「絶対見つけるから…絶対に…」
ヨリはそう言ってテミのことを力強くギュッと抱きしめ…
二人はお互いの身体に印を付けることで来世で愛し合うことを誓いました。
そして、その日の夜…
2人は初めて月明かりに照らされながら…
愛が重なり合い初めてひとつに交わりました。
お互い不器用に慣れない手付きで愛撫で合い…
お互いの愛を刻み込むように…深く…深く愛し合いました。
もう、そこには幼さなどなくお互いを想い合い…
求め慰め合う愛がそこに生まれていました。
月が沈み太陽が昇り始めたころ…
2人は寄り添い紫色の空を見あげます。
*「愛してるよ…」
ヨリがテミの頬を撫でながらそう伝えるとテミはヨリのその手をそっと包み込みます。
T「来世こそは…ずっとあなた様のお側に…」
*「来世こそは…絶対に離さない…」
そうふたりは契りを交わた…
その時!!
外が騒がしくなりヨリとテミは固く抱き合い身構えます。
そして、テミはヨリの耳元で言いました。
T「ヨリ…逃げて…」
ヨリはそんな事は出来ないと顔を歪め首を横に振りますが、テミは涙ながらにヨリを窓の外へと押し出すのです。
T「お願い…私の為に生きて…」
ヨリは下唇を血が滲むほどギュッと噛み涙を堪えながら後ろ髪引かれるように窓から出ます…
しかし!!
テミを探していた追手が叫びながら家の中に入ってきたのです!!
「あそこだ!!奴を捕まえらろ!!」
T「やめてぇ!!」
テミは追手の前に飛び出し必死で止めようとします…
しかし、テミのか弱い力では奴らに敵うはずなどなく、テミは両腕を掴まれ家から引きづられるようにして出されました。
T「離して!!離しなさい!!私を誰だと思っておるのだ!!」
そうテミが叫んだ瞬間…
無残にも…
テミの目の前で…
残酷な光景が広がりました。
T「ヨリ……?」
テミは膝から崩れ落ち力なくその場に座り込みます。
背中から真っ赤な血を流すヨリの頬にテミが触れようとすると…
周りにいた追っ手がテミのその手を止めました。
もう…今のテミにはヨリに触れることさえ許されないのです…
T「いやぁ!!離して!!ヨリ!!ヨリ!!」
テミは涙を流しながら何度もヨリの名を呼びます…
ヨリは息耐えながらもその声に反応し血まみれの手をテミに伸ばすのです。
T「ヨリ!!!!」
(テミ…愛してる…)
ヨリの口がそう動いた同時に…
ヨリはテミの目の前で力尽きました。
あの日から幾つの月を見上げたのでしょう…
ふたりで見上げた月はあんなにも美しく輝きに満ち溢れていたのに…
今、ひとりで見上げる月は灰色にくすんでいて…
テミは頬を濡らしながら涙色に滲む月を見上げます。
「そんなにお辛いのでしたら…テミ様…これを飲めばその方の元へ行けますしもう楽になれます…」
テミの付き添え人のアヨがそう言いながらテミの手に白い粉を持たせます。
テミはそれを無表情のまま自分の手のひらをじっと見つめ、微かに震える手で白い粉を口に含みました。
そして、ゴクリと喉を動かし月を見上げ涙を流しながら呟きました。
T「…いまから行きます…」
綺麗な月にそう囁いたテミの声はヨリに届いたのでしょうか…?
つづく
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