輪廻転生〜離れられない二人〜

樺純

第1話


時は17XX年



国王の元にそれはそれはとても美しいお姫様が産まれました。



その子の名はテミと名づけられ、国王から沢山の愛と名誉を貰いすくすくと成長します。



その2年後



貧しい人々が住む町の隙間風が吹く民家で、それはそれは可愛らしい男の子が産まれました。



貧しいながらも沢山の愛を貰ったその子の名はヨリと名づけられとても活発に成長しました。



時は過ぎ…



テミは17歳になり国王から他国の王子たちとの縁談の話しを持ちかけられたのです。



その中でも国王は信頼する隣国の王子ジヨとの縁談をテミに勧めます。



ジヨは隣国国王の次男でありテミと同い年で、幼い頃から仲が良く親友のような存在だった為、国王は身近な存在を婿に入れる事に決めたのです。



王「国を守る為には世継ぎが必要なのだ…分かっておくれ。」


T「嫌です…ジヨは私にとって唯一の親友なのに…夫婦になるなんて私は嫌です!!」


王「ゆっくりと好きになっていけばいいのだよ…ジヨはテミ…お前の事を愛してるそうだよ…」



テミは思いも寄らない国王からの言葉に驚きジヨの気持ちに戸惑います。



T「私は…ジヨをそんな風に思ったことは一度もありません……好きでもない方と一緒にはなりとうございません…!!」


王「テミ…テミ!!」



テミは国王の話しを最後まで聞くことなく泣きながらその場を立ち去りました。



国王は愛する娘にそのような愛のない縁談をさせてしまう事に胸を痛めながらも、国王としての立場を守る為に1人で葛藤していたのです。




漆黒の闇に月が昇り



月明かりを頼りに身を潜め監視の目を盗み城を抜け出したテミ。



このまま…

好きでもない誰かと婚姻を結んで死んでいくくらいなら…

いっそのことここから逃げ自由に生きよう…



そう決めたテミは門をくぐり無我夢中で走るのです。



木々が風に煽られ、まるでここにテミが隠れていると国王に言いつけているかのようにテミを追い詰めます。



恐怖感と孤独感に包まれるテミ。



その時、テミは誤って足を滑らせ崖へと滑り落ちてしまいました。



テミの全身に衝撃が走り足に激痛が襲います。



恐る恐る足元を見るとそこは自分の血でドレスの裾が真っ赤に染まり、大量の出血により次第に身体は冷えガタガタと震えはじめました。



まだ…何も出来てないのに…

私…死ぬの?



T「助けて…誰か…助けて!!」



テミは力を振り絞りそう叫びました。



*「だ…誰かいるのか?」



テミは慌てて崖の上を見ますが暗くて何も見えません。



T「助けてください…」



そう言えば崖の上から何者かが滑るようにして身軽におりてきました。



*「すごい怪我だ…早く医者に見てもらないと…」



そう言った彼の顔にはまだあどけなさが残っていて、テミは彼の綺麗な瞳に釘付けになりました。



T「あの…私…」


*「大丈夫…もう心配いらない。ほら、僕の背中に乗って。」



彼は大きな背中をテミに向けてしゃがむのですが、テミにとって見知らぬ男性に触れることなど…許される行為ではないのです。



*「ほら!早く!」



そして、彼は少し強引にテミの手首を掴んで自分の背中に背負い立ち上がりました。



テミにとって…


国王である父の以外の男から温もりを貰ったのは…この時が初めての事でした。



テミは緊張して何も話せずにいて、彼はずっとひとりで楽しそうに話しをしています。



そして、テミは勇気を振り絞り彼に話かけてみました。



T「あ…あの!!」


*「うん?」


T「お名前…は?」


*「あ…僕はヨリ。15歳だよ?キミは?」


T「私はテミ…17歳。」


*「じゃお姉さんだね!!」



ヨリはテミを見てすぐに訳ありなんだと気づいていました。



そして、ヨリは他の詳しい話はテミに聞くことはなく、自分のくだらない話しを永遠にしては笑ってテミを笑顔にさせようと考えていたのです。



その頃、城の中では王女がいなくなったと大騒ぎになっていました。



あらゆる所を探し城の中にいる人間、全員に身辺調査が入りました。



そんな時、テミのことをよく思わないテミの付き添え人であるアヨが密かに笑っていた事を国王は知るはずもなかったのです。



*「テミさん血が出てた割に酷くなくて良かったね?」


T「うん。ありがとう…」



ヨリは自分の幼なじみのリュウの元にテミを連れて行き、足の怪我の治療をしてもらいました。



リュウは医学の勉強に優れ、恋人のユジと一緒に村人を治療しヨリの住む貧しい村ではとても頼りになる存在だったのです。



「家はどこなの?」



リュウの問いかけにテミは思わず口籠り、そんな様子に気づいたヨリはテミを庇うように言ったのです。



*「僕のお嫁さんになる人だから…じいちゃんの家でしばらく一緒にいる。」



ヨリの祖父は1か月前に亡くなっており祖父の家がちょうど空き家になっていたのです。



しかし、ヨリの言葉にユジが良い顔をしません。



それは見ず知らずの誰かの世話をできるほどヨリの生活に余裕がないことや、どこの誰かも分からないテミのそばにいる身の危険を分かっていたからです。



しかし、リュウが全てを悟ったかのようにユジをなだめました。



*「テミさん行こう。」



ヨリはまた、テミを背負い祖父の家と向かいました。



テミはヨリの背中から感じる温もりと想いやる言葉に胸打たれ…



この人のそばにいれたらどんなに幸せなことか…



そんな風に思い始めヨリの背中に寄り添っていました。



T「ヨリ…聞いてもいい?」


*「ん?」


T「お嫁さんになる人って……本気じゃ…」


*「本気だよ。ひと目会った瞬間に気づいたんだ…この人は将来、僕のお嫁さんになる人だって…テミ…どこにも行かないで僕のそばにいてよ。」



テミはヨリの正直で真っ直ぐな言葉に胸を打たれました。



自分がどこの誰なのかも知らない人間なのに、そんな風に想いを寄せ庇い助けてくれた天涯孤独のヨリ。



私もどうかこの方のお側に…



T「私もあなた様のお側におりとうございます…」



そうしてテミは少し遠慮気味にヨリの肩に置いていた手をそっと首に回し、ヨリの首筋に頬を寄せました。



ヨリの祖父の家は隙間風が通り抜け辛うじて雨が凌げる程度の屋根があるほどの家でした。



しかし、テミにとってみればそれすらもヨリと過ごせる大切な居場所のようで、胸が高鳴り頬がほころび心が満たされます。



*「テミ…こっち来て…こんなボロだけどコレだけは自慢なんだ…」



そう言ってヨリがテミに見せたのは雲ひとつない漆黒の闇に浮かぶ月と鏡のようにそれを映し出す水面。



*「月が綺麗だろ…?」


T「もうこのまま死んでもいいわ…」



テミの目からはひと筋の涙が溢れ落ち…



ヨリはその涙を親指でゆっくりと拭うとテミの柔らかい唇にそっと口づけを落としました。 




つづく

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