第46話
ジュイサイド
あれから3度目の季節がくる…
あとから分かった話ではミラを襲った男はリノンとは本当に無関係で…リノンはたまたま抱き合う俺とミラを見かけて妬みから写真を撮りばら撒いただけだった。
犯人の供述では以前からミラに目を付けていたストーカーでミラを襲ったと。
でも、俺に邪魔をされて俺と熱愛の噂が出たことにより逆恨みした犯人が俺を襲おうとしたと。
そんなくだらない事でミラの命を奪って俺は腹立ちしか生まれなかったし、もしもあの時、リノンがあんな事を流したりしなければこんな事にならなかったんじゃないかと…毎日のように悔やんだ。
あれからメンバーたちにも変化が訪れた。
ナオさんとソラは結婚してもうすぐ小さな命が生まれ幸せに暮らしている。
イチさんは相変わらず食べることが大好きでグルメ本を出版しベストセラーとなった。
ユウさんとハヤトくんは共同経営者として日本と韓国でコスメブランドを立ち上げた。
マサトくんは友達と色んな国へ旅行に行くのが趣味になり、今ではひとりで旅番組をしている。
トウジくんには最近、歳下の可愛い彼女ができて…やっと笑顔を取り戻した。
そして…俺は…今…
ソロアーティストとして世界ツアーを行い世界中を飛び回っている。
俺はまだ、あれから…恋をする気にはなれず、俺の横には不思議とミラがずっと寄り添ってくれているような充実した日々を送っている。
もしかして、ミラの惚れ薬の魔法がまだ俺には効いてるのかな?なんてたまにあの事を思い出しては苦笑いするけど…
もし、あれが本当に魔法だったならなんで俺だけ醒めなかったのか今でも不思議で仕方ない。
事務所を出る前、社長が俺を社長室に呼び出した。
「あれからもう…3年か…。ジュイ、実はな…あの事件の日…ミラは私に退職届を渡しに来たんだ。それと一緒にお前にこれを渡してくれと私に預けて帰った。ミラを失ってあの日から憔悴しきるお前をみてこれを渡してしまうともしかしたら、ミラの後を追ってしまうのではないかと思ってずっと渡せずにいた。でも、もう今のお前なら大丈夫だよな?これがお前へのミラからの最期の言葉だ。しっかり受け止めてやれ。渡すのが遅くなって…悪かったな……。」
そう言われた俺は3年越しに社長から桃色の便箋を受け取った。
俺はどうしてもその手紙をその場で開ける事が出来ず、そっと胸ポケットにしまった。
J「ありがとうございます…。じゃ…今からちょっと…行ってきます。」
「あぁ…気をつけてな…」
俺は事務所を出て子供の好きそうなお菓子の入ったビニール袋をぶら下げて、空を見上げながらゆっくりと歩く。
あの日からどれだけ震える夜を過ごしたんだろ…
ミラに逢いたくて逢いたくて…
言葉では忘れるって言っても…
実は俺はまだミラを送り出せないんだ…
それでもまた、朝は訪れて…1日が始まる…
ミラのいない1日が。
こんなとこに花屋できたんだな?歩きながらそう見上げるとそこには真新しい花屋が建っていた。
花を買おうと中を覗くとカラフルなお花の中に後ろ姿の女性が立っていた。
J「すいません…。」
「いらっしゃいませ。」
周りを見渡せば可愛く俺に微笑みかけるようなピンクの花を見つけた。
確かこの花…あの時の木と同じ花だ…。
J「あの…この花って…桜ですか?」
「え?あぁ…これは…桃の花です。」
J「桃…?」
「はい…桃の花の花言葉知ってますか?」
J「いや…知らないです…」
「あなたの虜……ですよ。」
J「ふふふっ…あなたの虜…か…可愛い。」
ふと、横を見ると青紫色した花があった。
J「この花は?」
「紫苑(シオン)…花言葉は…あなたを忘れない…です。」
J「あなたを忘れない…か…じゃ、この花をください…。」
そして、俺は紫苑の花束とお菓子をぶらぶらと揺らしながらミラに会いに行った。
会いた〜い〜♪会いた〜い〜♪
ミラの大好きだったその歌を口ずさめば、ミラが俺の隣で笑っているみたいで今でも鮮明にミラの温もりと香りを思い出す。
J「…ミラ…久しぶりだな…そっちで元気にしてる?俺…もうアラサーになったよ…今なら…ミラのことちゃんと守れる自信…あるんだけどな…なぁ……ミラ…会いたいよ………」
花とお菓子を供えて手を合わせると俺は青空を見上げた。
すると、そこには優しく微笑むミラの姿が目に浮かぶような気がする。
そして、俺は胸にしまった三年前の手紙をゆっくりと開けた。
私の可愛い可愛い末っ子 ジュイへ…
ジュイ元気にしてる?ちゃんとご飯食べてる?
みんなに心配かけちゃダメだよ。
ジュイはもう私がいなくても大丈夫…。
もっと素敵な男になって世界中を魅了するんだよ。
私はここを離れるけど、違う場所からジュイのこと見守ってるからね。
最後に…ジュイに「ねぇさん」そう呼んでほしかったな。
今までもこれからも…
私にとって可愛い末っ子はジュイだけ。
どうか、ジュイの歩む人生が
幸せ溢れる人生でありますように…
会いたい…そう歌うあなたの声がこの世で1番大好きでした。
ミラより
そして、封筒の中にはプリザーブドフラワーのストラップが一緒に入っていた。
これって…桃の花じゃん…
覚えたばかりのその花のストラップを手に取ると、俺の頭の中が急にぼんやりとしていき思わず俺は俯き瞳を閉じる。
あれ…そういえば俺…あの人のこと
今まで何て呼んでたっけ……?
ミラさん?ミラねぇさん?いや…ねぇさん…?
少しぼんやりとした頭を軽く振り、俺はまた、青空を見上げて目を細める。
J「…ねぇさん……あなたを忘れるなんて俺には出来ないよ。でも俺なりの幸せ見つけてみようかなってやっと思えるようになってきたんだ。だからって天国でヤキモチ妬くんじゃねぇぞ?……ねぇさん……俺は…あなたと出逢った時から…あなたの虜でした……」
*「ジュイ…もう…十分だよ。3年も私を忘れずに想ってくれてありがとう…もう…自分の幸せを見つけて幸せになってね………」
雲ひとつない空から…
大好きなねぇさんの声が…
*「私は…今も……あなたの虜です…。」
そう聞こえたような気がしたんだ…。
end
あなたの虜 樺純 @kasumi_sou_happiness
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます