第45話
ミラサイド
ジュイの温もりに包まれたまま私は暗闇の中へ落ちていった。
最後に見た悲しそうなジュイの顔が私の脳裏に焼き付いて離れない。
眩しい光に照らされ眉をひそめながら目を開けると…そこには1人の女性が私に背を向けて立っていた。
*「あの…」
その人を呼び掛けながら周りを見渡すと…一面真っ白な世界でふわふわとカラダが浮いている。
「目覚めたのね?」
そう言って振り返ったのはあのBARにいたママだった。
*「え…なんであのBARのママがここに?」
ゆっくりと視線を落とすとママの手には赤ん坊が抱きかかえられていた。
M「最後まで…よく自分の意思を貫き通したわね…しっかりと自分の想いも愛する人に伝えて。この子は…私からのプレゼント。あなたと愛する人の愛の結晶よ。この子があなたのそばにいる事を望んだ…。可愛い男の子よ…」
そう言って私の腕にゆっくりと抱かれた赤ん坊はジュイとそっくりな顔をして笑っている。
そして、ふと足に目をやるとまだサイズが少し大きい黄色のクツをはいていて…自然と涙が溢れて頬にこぼれる。
*「私…死んだんですね…」
M「この運命はあなたがこの世に生を受けた時から決まっていた。あのBARは心残りなくこの世を去れるように死の迫った人間だけが訪れるBARよ。」
*「そうだったんですね…でもなんで2回も私はあのBARに訪れたんでしょう…?」
M「彼があなたの運命を1度…変えたのよ。あなたは本当だったらあの公園で命をなくすはずだった…なのに彼があなたを救って…運命に逆らったの…つまりそれは神に逆らったということよ。」
*「ジュイが…?」
腕の中にいる赤ん坊は不思議そうな顔をして私たちの話を聞いている。
M「あの時の行動で運命は変わり神に背いた彼が…罰としてこの世を去る運命だった。…でもあなたが…その運命をまた変えたの…彼と離れても守ってあげたいって…彼の為にって…心の中で強く思ったでしょ?」
*「…はい……」
M「後悔…してる?」
*「分からない…この子を元気に産んであげなかったから…私のエゴで…この子まで巻き込んでしまったから…」
M「その黄色いクツはお葬式の時に彼がこの子にプレゼントしたものよ…彼はあなたが亡くなってからあなたの妊娠を知ったの…」
ママは大きく息を吸い込み…ふ〜っとふかふかの雲のようなモノを吹き飛ばした。
すると…薄っすらと映像が浮き上がってきて私は目を見開く。
*「ジュイ……」
そこにはゲッソリど痩せたジュイが浮かび上がった。
M「今のあなたに出来ることはなんだか分かる?」
*「え……?」
M「この子を連れて…天国に逝く事。私たちがどんなに心残りがないようにとチャンスを与えても…生きたいという気持ちが大きければ大きいほど心残りが出来てしまうものなの…彼をこの世に生かせたいなら…あなたはこの子と天国に逝きなさい。あなたがこの世に彷徨えば彷徨うほど…彼の心はあなたに引っ張られて後を追ってしまおうとする…この言葉の意味…分かるわね?」
*「…………はい…」
M「彼に伝えたいことがあるみたいね?」
この人は神様なのだろうか?私の心はこの人に全て見えている。
*「はい……」
すると、その人は私と赤ん坊をゆっくりと抱きしめて…私の頭にふ〜っと息を吹きかけた。
ゆっくりと目を開けると…そこには1本の桃の木が立っていた。
周りを見渡すと見覚えのある黒の車が止まり、中から純平が出てきた。
ジュイ…
私は震える手で赤ん坊を抱きしめながら涙が溢れ出す。
ジュイは痩せた顔をして木の下に立った。
私はゆっくりと純平に近づき…赤ん坊を抱いたままジュイを抱きしめた。
ジュイから離れて頬を撫でると…ジュイは目を閉じて涙を流していた。
*「………生きて…私のために…生きるの……」
私がジュイにそう呟くと…私と赤ん坊はスーッと桃の木の中へと吸い込まれていく。
ジュイに私の言葉が届いたのだろうか?ジュイは驚いた顔をして桃の木を見上げゆっくりと桃の木を抱きしめた。
J「そうだよな…ミラが必死で守ってくれた命だもんな……」
私はその言葉を聞いてホッと胸をなでおろし、ジュイの温もりを感じながら赤ん坊と一緒に天国へと旅立った。
つづく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます