第41話
ソラサイド
この人はなんて嘘が下手な人なんだろ…
私は微かに震えるその背中を見つめながら思った。
私が車で伝えた時…
この人ならそう言うだろうなとは予想していたけど…
ジュイは私が想像していたよりもねぇさんのことを愛していたみたいで…人目もはばからず声を出して泣いていた。
*「ソラ…送ってもらえる?」
SR「うん…」
ねぇさんと一緒に寮を出て車に乗った瞬間…
ねぇさんは堰を切ったように泣き出した。
SR「ねぇさん………」
*「ごめん……」
SR「ねぇさん…本当後悔…しない?」
*「どの選択をしても後悔はすると思う…だけど私はあの子達を…ジュイを守れるなら…自分の恋心なんて捨てても構わない…それが本心であり…女としての覚悟なの…。」
それを聞いた時…気づいた。
この人の不器用すぎる女としての生き方に…。
SR「ねぇさん…事務所…辞めたりしないよね?」
私の問いかけにねぇさんは反応しなかった…
でも、私の中でそれがねぇさんの答えなんだろなって…この時感じた。
トウジサイド
あの騒ぎのあとねぇさんは寮でも言っていたようにジュイとの関係を会社に否定したが、ジュイはねぇさんとの関係に無言を貫き否定も肯定もすることはなかった。
アーティストとマネージャーが疑わしい行動をし、世間を騒がせた事に対してのねぇさんの処分は2カ月の謹慎とブルレのマネジャーをクビになり、アルバイトがする業務の事務処理へと移動が決定された。
俺たちはその処分にどうする事も出来ず会社から支持に従い今、目の前にある仕事をただこなしていく事しか出来なかった。
ジュイはねぇさんを自分の買ったばかりのマンションに住まわせるとあの後もずっと言い続けたけど、そんな無茶なことを事務所が許してくれるわけがなく、ねぇさんは安全のために実家へと戻っているとマネージャーのセイジさんから聞かされた。
あの騒ぎから1カ月後…
やっと騒ぎが落ち着き始め、ようやくオフをもらえた俺はあの場所へ向かった。
T「おばさん!こんにちは!ねぇさん…いる?」
「トウジくんよく来たわね〜いるよ。すぐ連れてくるから二階で待ってて。」
俺は久しぶりにねぇさんに会うためねぇさんの実家を訪れた。
10分ぐらい経ったのだろうか?ゆっくりと扉が開き久しぶりのねぇさんの顔が見れて俺はどこかホッとした。
*「トウジ…」
T「ねぇさん久しぶりだね?元気…ではないよね?怪我の具合はどう?」
ねぇさんを見るの顔色は悪く少し以前より痩せた印象だった。
*「そんな事ないよ。うん…順調に治ってる。」
T「そっか……………。」
デビューしてからこんなに長くねぇさんと会わなかったことがなかった俺はなぜか、久しぶりに会うねぇさんにぎこちなくなってしまい、俺の心臓が素直にドキドキとする。
*「ねぇ、トウジ…もうここには来ちゃダメ…」
ねぇさんは少し引きずった笑顔を見せながらそんな悲しい事を言う。
T「なんで?俺のお気に入りの店なのになんで来ちゃダメなの?」
*「それは…………」
T「ねぇさん聞いてたんでしょう?俺が事務所で幹部の人たちとリノンの話してるとこ…俺ねぇさんが聞いてるの気づいてたよ。」
本当は俺と距離わ取ろうとするねぇさんが寂しくて堪らないのに、俺はわざと明るい笑顔をみせて俺の言葉を下を向きながら聞くねぇさんの顔を覗き込む。
*「ごめん…」
T「盗み聞きなんて…趣味悪いよ?俺がねぇさんのこと好きだからもうここには来るなって?」
*「………私…今まで気付かなくて…トウジに酷いこといっぱい言ったよね……」
ねぇさんの声は震えていて涙を堪えてるのが分かり、俺の方まで泣きそうになるのをギュッと拳を握り堪えた。
T「うん…言ったね…ぜーんぶジュイの事ばっかりでねぇさんはいつもジュイが特別だった。俺…ねぇさんのこと好きだけど好きだからこそジュイと幸せになって欲しかった…ジュイからの連絡…無視してるんだろ?」
テーブルの上に置いてあるねぇさんの手は微かに震えていて、1か月前よりも遥かにその手首はか細くなっていた。
*「うん…もう個人的に連絡はしないよ。」
T「このままでいいの?」
*「こんなことトウジに言うことじゃないんだけど、私ね?ジュイの事すごい好きみたい…好きすぎて苦しくて恋しくて…愛しい…」
T「なら…」
*「でもね…それ以上にステージで輝くジュイが好きなの。沢山の人の声援を受けて音楽に身を委ねてるジュイが好き…。だから…ジュイの邪魔は出来ない。輝き続けて欲しいから…」
T「邪魔って…邪魔なわけないだろ!?…意味分かんねぇよ…」
*「トウジには…分からなくていいんだよ。その意味…」
T「なんだよそれ…」
*「もし、いつかまた笑って会えるなら…その時にきっと…私が言ったその意味が分かるから…。」
T「もし、その時に…ジュイの横に知らない女がいても…笑って会えるのかよ…」
*「妬いちゃうかもね…」
ねぇさんはきっと今、心の中で泣いているのに俺には笑顔をみせてわざとらしく戯けてみせる。
T「バカじゃねぇの…?」
*「ほんと…バカだよね…いっそのことこの気持ちに気づかなかった方が…楽だったのにね……」
そう話すねぇさんに微かな違和感を感じ、この時のねぇさんは俺に何かを隠しているような気がした。
しかし、涙を堪えたねぇさんのその瞳はとても苦しそうなのに、どこか強くて逞しい目にも俺は見えたんだ。
つづく
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