第42話
ミラサイド
あの騒ぎのあと私は実家に戻った。
骨折は順調に治っていったが、そのあとも体調が悪い日が続きずっと横になって過ごす日々が多くなった。
ずっと放置したままのマンションに戻らないとと思った私はまだ、明るいうちに母に1度マンションに戻ると伝えて実家をでた。
久しぶりに外の空気を吸い込むと、体力が落ちたのか胸が痛くてすぐに歩き疲れ、ベンチで休みながらマンションへと向かった。
ゆっくりとした足取りで歩きふと、視線をあげるとそこには閉店したはずのあのBARの看板が出ていた。
"Heaven"
*「え!?嘘…でしょ?」
まだ、昼間だというのに店はオープンしていて私は小走りでそのBARに入った。
すると、ママがタバコをふかしながら私を出迎えたが、私の顔を見てママは慌ててタバコの火を消した。
M「あら〜ミラじゃない?久しぶり〜!」
たった一度しか会っていないのにママは私のことを覚えていて、私はママに挨拶をすることもなく詰め寄るようにして話し出す。
*「ねぇ…ママここの店、辞めたんじゃなかったの!?」
M「ここは特別な人にしか見えないBARなんだよ。まぁ、座りなさいよ。」
私はママに言われるがまま椅子に座り問いかけた。
*「それってどう言う意味ですか?」
M「ここは誰も知らない秘密のBAR…誰しもが1度だけ訪れる秘密のBAR…ミラは2度…来れたけどね?」
*「ママ私話が全然見えないんですけど?」
M「ミラの運命を変えた男がいたからだよ…でも、どんなにもがいても運命には逆らえない…あの角砂糖と同じ…」
ママの口から角砂糖の話がでて私はずっと不思議に思っていた事をママに問いかけようとする。
*「あ、そうそう!!あの惚れ薬入りの角砂糖って……!!」
M「その様子じゃあれ使ったのね?」
そう言いながらママは私の前にオレンジジュースを出した。
*「あれって…一体…なんなの!?あれのせいで私の人生無茶苦茶に…」
M「本当にそうかしら?」
*「え…?」
M「よく考えてみなさい?あれのおかげでミラは本当に好きな人に気づけたんじゃない?ミラはあれのおかげで本当に人を愛する事を知ったんじゃない?愛する人と結ばれて…愛を交わし合った。世の中にはそれに気付かず死んでいく人なんて…山ほどいるのよ…」
ママのその言葉はやたらと重く私の心に響き思わず口籠る。
*「…そうかもしれないけど…醒めなかったの…他の人はキスしたらその魔法から醒めたのに…1人だけ…醒めなかったの…」
M「…キスであの魔法から醒めるのは…元々ミラのことを異性としてみていない男だけだよ。」
*「え…?」
M「まさか、両想いの相手にあれを飲ませるだなんてね?両想いの男にあれを飲ませたら、ミラがどんなにその人から逃れたい…もう好きじゃないと思っても、彼は一生ミラのことを愛して心を傷め続けるのよ…。」
*「そ…そんな…じゃ彼は私のこと…初めっから好きだったってこと…?あれを飲む前から…?」
M「ほんと…鈍感だね?」
*「そんな……その魔法から醒める方法は…ないの?」
M「ひとつだけあるよ…」
*「なに?」
M「その相手の男に桃の花のプリザーブドフラワーを渡すの…。」
*「プリザーブドフラワー?」
M「プリザーブドフラワーを作る時、特殊な脱色液に花を浸すの…桃の花の花言葉は"あなたの虜…"桃の花をその脱色液に漬けることであなたは虜ではなくなる…って意味よ。」
そう言ってママは引き出しの奥から小さなブリザーブドフラワーのキーホルダーを取り出し私の手の中にポトンと落とした。
*「これを渡せば…その人はこの魔法から醒めるの?」
M「そういうことね…でも、それを渡せばミラを好きだった気持ちも全て忘れてしまうことになるの……それでも本当にいいの?彼の中からミラが好きだという現実が全て消えてしまうのよ?」
*「うん……もしそれが本当なら…その方がいい…その方が…彼のためだから……」
M「ねぇ、ミラ?もう何も心配しなくていい…気にしなくていいの。あなたはただ…悔いのないように好きなように残りを…生きなさい。」
*「なにそれ…まるで私が死んじゃうみたいに…」
M「ふふふっ…ごめんごめん。もう、行きなさい。あんまり待たせると悪いから…」
*「待たせる……?あぁ…うん…お邪魔しました。」
私はママにそういうとBARを出て自分のマンションへと戻った。
久しぶりに帰ったマンションのポストはパンパンになっていて、私はそれを取り出しエレベーターで部屋のある階に上がると、私の部屋の前には俯いたジュイが座り込んでいた。
*「ジュイ…なにやってんの…」
私は慌てて駆け寄り鍵を開けて、力なく虚ろな目で私を見上げるジュイの腕を引っ張り部屋へと入った。
*「こんなトコでなにやってんのよ…」
J「毎日…ここで…ミラが帰ってくるの待ってた…」
ジュイのその目には生気がなく真っ赤に充血していて私の胸が締め付けられる。
*「私が実家に戻ってるの…知らなかったの?」
J「知ってたよ…でも…実家には行けなかった…俺のせいでこんな事になって俺のことあんなに可愛いがってくれてたおじさんとおばさんに合わす顔ないし…ミラは俺の連絡…無視するし…」
*「連絡しない方がいいと思ったからよ。その方がお互いの…………」
そう話しているとジュイは私の言葉を遮るように私を強く抱きしめた。
J「お互いのためじゃなくて…俺のためだろ…?俺が何言っても…もう…俺たち無理なんだろ?」
顔が見えなくても私にはわかる…ジュイが泣いていることに…
*「ジュイ…ごめんね…好きになって……」
私の言葉を聞いてジュイの身体は震え出す。
J「俺こそごめん…ミラのこと信じてあげれなくて…俺…ミラのこと…マジで好きだわ…」
ジュイの大きな背中を優しく撫でると、ジュイは私の頬を大きな手で撫でた。
*「ジュイ…」
J「…ミラ…最後に…お別れのキス…してもいい?」
透き通るような瞳で私をジッと見つめるジュイ…
そんなジュイの首元を自分の方へと引き寄せ…
私は背伸びをしてジュイに深くて悲しい…
最後のキスをした。
つづく
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