第38話


ミラサイド



ジュイは私のことそんな風に軽い女だと思ってたんだと知ったら胸が痛くて苦しい。


1番私のこと慕ってくれていると思っていたし、私も末っ子のジュイが1番可愛くてついつい特別扱いにしてしまっていた。


なのにジュイは私のことそんな女だとずっと思いながら側にいたんだと思うと、まるでジュイに裏切られたような気持ちだった。


ジュイはそんな女だと私を思っていたから私に関係を迫ってきたのだろうか?誰でもヤらせる女だと私はジュイにそう思われていた?


キスしてもジュイが惚れ薬の魔法から醒めなかったんじゃない…初めから私とそういうを事だけがしたかった?


そう思えば思うほど悲しくて仕事なんて手に付かなかった。



「…!ミラ!?」


*「あ…すいません…」


セ「ミラ大丈夫?ぼんやりして…?」



先輩が心配そうに私の顔を覗き込んだ。



*「だ…大丈夫です。」


セ「ならいいけど…もう、ソラの歓迎会の時間だから俺みんな連れて店に向かうけど…ミラも一緒に行く?」



一緒に行くとなると間違いなくジュイもその場にいる。


もちろん行く先は同じなのだからすぐにジュイとは顔を合わせないといけないが、今はさすがにジュイの顔をまともに見れそうにない。



*「私まだ、仕事残ってるのでこれ片付けてから向かいます。」


セ「そう?もう、外暗いから気をつけなよ?」


*「夜道歩くの慣れてるんで大丈夫ですよ。」


セ「女の子はそんな事慣れちゃダメなんだけどな〜でも、なんかあったら連絡してね?じゃ、お先に!」


そう言って先輩はみんなと一緒にソラの歓迎会をするお店へと向かった。


ソラ…そこで婚約発表するって言ってたもんな…。


ジュイと顔を合わすのは気まずいけど行かないわけにはいかない。


パソコンの画面に浮かぶ保存ボタンをクリックしてシャットダウンする。


店まで歩いて15分ほどの距離…


おそらくみんなは車で行っただろうけど私は歩いて行こうと思い、カバンを持ち玄関へ向かい事務所を出た。


あたりはもう既に真っ暗で人の気配もだいぶ少なくなっている。


少しの危機感から早歩きで歩いていると背後に気配を感じパッと勢いよく後ろを振り返ると黒い影が木に隠れた…ような気がした。


え…私…付けられてる?


そんな気がした私はおかしいと思いさらに早歩きで歩いてみると後ろの足音も早くなる。


ゆっくりと歩いてみると後ろの足音もゆっくりとなり、急に恐怖感に襲われた私は咄嗟に走り出した。


すると、後ろの足音も走り出すのが分かり次第に近づいてくる。


やだ…怖いよ…どうしよう…


怖くて後ろなんて振り返られない…そう思いながら無我夢中で走っていると。


*「キャ…!!」


足元にあった段差に躓き私は転んでしまった。


慌てて立ち上がろうとすると荒い息遣いがもうすぐそこにまで近づいてきて、私の肩を掴みコンクリートに叩きつけた。


*「やめてぇ!!」


「騒いだら…どうなるか分かってるよな?」



そう言って帽子を目深にかぶりマスクをした男は私にナイフを近づけた。


あぁ…終わった…。


ナイフに怯える私は固まると男は私の後ろから首元に手を回し引きづるようにして公園の奥へ連れて行く。


私は小さな反抗として手に力を入れて振り払おうとすると、勢いよくナイフを首に近づけられその弾みで微かに傷がついた首から血が流れた。


もう…いいや…どうせヤられるぐらいなら…思う存分抵抗してやろう。


そう思った私は震える声で叫んだ。



*「誰か助けて!!誰……ん…」



暴れ出した私をグッと羽交締めにして、口を押さえてる男がナイフを手から滑らせて地面に落としたので、私はその隙にナイフを思いっきり蹴飛ばし男のマスクを剥ぎ取った。



「お前…死にてぇのか!?」



口を押さえられて何も言えない私は男を睨みつけてた。


すると…


「何してんだテェメェ!!」


聞き慣れた声の叫び声が聞こえ男の腕を掴み私を解放させた。


*「ゴホホッ…ん…ぁ…」



私は地面に倒れ込み息が苦しくて咳き込みながら見上げるとそこにいたのはジュイだった。



*「ジュイ…?」



男に殴りかかっているジュイを慌てて止めようと立ち上がるが脇腹が痛くて立ち上がれない。


男はジュイを殴り返すとナイフを持ってその場から立ち去っていった。



J「大丈夫かよ…ミラ…」



ジュイは私の元へやってきて私の目線までしゃがみ込み、腕を持って立ち上がらせようとするが身体に激痛が走り思わず私の声が出た。



*「う…痛っ…」


J「え…どこが痛い!?足?」


*「脇腹……」


J「救急車呼ぼう…。」



そう言ったジュイに私は首を横に振る。



*「大丈夫…大丈夫だから。今、私なんかに手を貸すの嫌かもしれないけど…事務所まで…手…貸してもらえる?」


J「なに言ってんだよ…もう、喋んなよ。」



そう言ってジュイは私の腕を持ち、腰に手を回して支えながらゆっくりと歩き事務所へと連れて行ってくれた。


人影の少なくなった事務所のソファに座ればあまりの痛さから冷や汗が流れる。



J「大丈夫かよ…とりあえず見るぞ?」



ジュイの言葉に頷くとジュイは私が痛さのあまり押さえている脇腹の服をめくった。



J「はぁ…病院行かなきゃダメだ…色変わってる。」


*「うん…もう少しだけ休憩したら…1人で行くから…ジュイはみんなのトコに行って…」


J「はぁ!?こんな時にジュイを1人置いて行けるわけねぇだろ!?」



心も身体もぼろぼろのせいかジュイのその言葉が私の強がりなはずの涙腺を刺激する。


ジュイは私の膝に自分の上着をかけるとゆっくりと私の横に座り、微かに震える手で私の肩を抱き寄せた。



*「今さら優しくしないでよ…私は軽い女なんでしょ?誰にでも抱かれるような女なんでしょ?そんな女に優しくなんかしないで……」


私がジュイを拒むように言うと自分の目から涙が溢れ出し自分でも驚いた。



J「もうミラがどんな女でもいいよ…やっぱり……俺はミラを忘れられないよ…だから俺たちのこと…なかった事にはしたくない。」


*「何よそれ…都合良すぎだよ…。」


J「…ミラ…俺はもう…何番目でもいいよ?」



涙も止まらず滝のように流れ出し、激痛と戦う私に何番目でもいいなんて意味のわからない事をいうジュイに腹立ち憎くて顔も見たくないなんて思うのに、どうしても嫌いにはなれず…やっぱり好きだと思ってしまう私はもう、盲目なのかもしれない。



*「もう、ほんとバカ!!なんでジュイはそんなにバカなの!?なんでをそんな風な女と思ってるのか知らないけど!私は……!私は…」



私が興奮しながらそう話していると、最後の言葉を言い切る前にあまりの激痛で意識が遠のきそのまま気絶した。



つづく

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