第37話

ジュイサイド


俺はリノンちゃんからミラとトウジくんが抱き合う写真を見てからずっと、ミラに疑いの心を持ったまま過ごしイライラしていた。


でもやっぱりミラのヤケドが心配で、ダメだとは思いつつもミラの家へと向かった。


タクシーから降りマンションに入ろうとすると、中から潤んだ瞳に少し赤らんだ顔をしたイチさんが出てきて思わず俺の足が止まった。



I「ジュイ?どうした?」



俺を見て少し気まずそうに目をそらすイチさん。



J「…イチさんこそ…ミラの家で何してたの?」



恐る恐る俺がイチさんににそう問いかけるとイチさんは言った。



I「キス…だよ?」



少し強気で言ったイチさんは戸惑う俺を見て微かに笑った。



J「え…そ…それで…イチさんは…醒めたんですか…?」


I「醒めるもなにも…俺はなにも飲んでないから…ねぇさんには内緒な?じゃ、俺行くわ。あっ、それと…お前はあの魔法の角砂糖?飲んでるよ?俺がお前のカフェオレに入れたから間違いないよ…?お前がもし魔法から醒めてねぇさんの事いらないってなったら…すぐ俺がもらうからいつでも言って。」



飲んでないのに…キスした?


じゃ…イチさんが寮で言ってたミラが好きって言うのは魔法のせいでもなんでもなく、イチさんの本当の気持ちだったってことなのか!?



J「はぁ…!?」


I「あの人あぁ見えてモテるし最近綺麗になったよな〜。じゃ!俺は飲んでから帰るわ。」



そう言ってイチさんは俺の言葉を聞く前に手をヒラヒラさせながら消えていった。


なんだよそれ…そのイチさんの言葉を聞いてリノンちゃんの言っていたことが俺の中で確信へと変わる。


すると、俺のスマホが鳴った。


相手を見るとリノンちゃんからで俺は不思議に思いながらその電話に出ると、リノンちゃんは電話越しでも泣いているのが分かった。


J「もしもし?リノンちゃん?泣いてる?どうした?」


リ「ごめんね…突然電話なんかして…私…さっきトウジさんに振られちゃった…」


J「え…?」


リ「ずっとトウジさんの事、好きだったんだけどね…ミラさんにトウジを惑わすような事言わないでってずっと言われてて…でも、我慢出来なくてトウジさんに告白したの…そしたら…俺にはミラがいるからって言われちゃった。」


J「う…嘘だろ…トウジくんがそんな事言ったの…?」


リ「うん…でもこの事…誰にも言わないで…仕事場で働きづらくなるのだけは避けたいし…あのヤケドも私がわざとやったってミラさんがみんなに言いふらしてるみたい。だから…ミラさんにもしこの事がバレたら…私怖いの…。」


J「ミラが…怖い?」


リ「うん…メンバーの知らない所でミラさん…女性スタッフに嫌がらせしたりしてるの…だからこの事は絶対に誰にも言わないで…お願い…。誰かに話聞いて欲しくて…思い浮かんだのがジュイくんだったの…ジュイくんの事…私…信じてるから…。」


J「分かったよ…誰にも言わないから安心して。もし、ミラに何かされたら…俺に言って?」


リ「ジュイくん…ありがとう…。私…ジュイくんの事…好きになれば良かったな…。」


J「なに言ってんの。じゃ…また明日…。」


リ「ありがとう…おやすみ。」


俺たちの前はそんな素振り見せた事ないのにミラは裏ではそんなことやってたのだろうか?


しかし、この男社会でミラが男に負けず劣らずでやっていけてるわけも、モテるのに特定の彼氏を作らず今までいたことも、女性スタッフがミラに一目を置いているわけもそれなら全て納得がいく。


俺はそんな女の事を今まで好きだと思ってたのかと思うと自分の見るの目なさに嫌気がさし、混乱する頭を抱えたがら俺は寮へと帰りベッドへと潜り込んだ。


次の日


俺は精神的に追い詰められた俺はもう起きがあることだけで精一杯で完全に気が滅入っていた。


でも、そんな日でも事務所でのリハーサルがあってなんとか必死の思いでこなしていく。


ヤケドが治るまでしばらくの間、ミラが現場マネージャーから外れることになったけど、今の俺からしてみれば逆にそれで良かったのかもしれない。


今、ミラのあの顔をみたら俺はきっともっと、ミラの傷つく事しか言わないと思うから。


なのになんで俺は俺たちの知らない所で他のスタッフに嫌がらせをするようなミラのことを嫌いになれないんだろ…この気持ちもすべて魔法ならなんでキスで醒めねぇんだよ…こんな事なら一層のことミラを嫌いになれたら楽なのになんて思いながらもミラの事で頭がいっぱいな自分に苦笑いがでる。


すると、鏡に窓から覗いてるミラの姿が見え、それと同時に俺の心臓が震え出し…ミラに気づいたハヤトくんがミラに微笑みかけるとミラも嬉しそうに微笑み返し中へ入ってくる。


俺はもう、そんなミラの姿をみただけで全てが悪い方向にしか考える事しかできず、ミラが何をしてもどんな事を話そうとウラの顔がある…そんな風にしか思えなかった。


すると、ミラが俺の腕に手を伸ばし俺を心配そうに見つめるた。



*「ジュイまだ、体調悪いの?大丈夫?」



その目を見て俺は心の中で思った。


そうやって男を落とすんだな…


この綺麗な目で他の男の事もその目で見つめてるのか…と…


そう思えば思うほど俺の嫉妬心に火がついて苦しくて、なんで俺じゃダメなんだよ…と何度も頭の中で呟いた。



ミラを連れて作業室に入れば、微かに声を震わせながら話し出すミラに、どうせそれも演技でそうやって他の男も騙してんだろうと、そう思ったら俺の中の何かがプツっと切れた。



J「なかった事にしたい?」



俺じゃ満足させてあげれなかった?


トウジくんとの方が良かった?


俺の心の中は黒いもので包まれいき嫉妬心が溢れかえる。



*「違う!そうじゃなくて!」



アーモンドのような綺麗な形をしたミラの目がユラユラと揺らぎ俺は目が離せない…。



J「トウジくんともヤったの?昨日、ミラの家行ったらイチさんが出てきだけど…まさかイチさんともそういう事ヤってんの?俺が知らなかっただけで前から他のメンバー達とそういう事…ヤってたの?だから平気で…みんなとキス…出来たのかよ…?」


そんな事言うつもりなんてなかった?


いや、正直分からない。


ただ俺はミラの事が好きすぎて、自分の知っているミラと俺の知らないミラとの存在で苦しんでいるということを伝えたかっただけなのに…


なぜこんな言い方をしてしまったのだろう。


*「ジュイ……何言ってんの………。」



ミラの目には涙が滲んでいて俺の胸は締め付けられるのに、くだらない男のプライドで俺はさらに酷い言葉をミラにぶつけた。



J「俺、ミラのこと…かいかぶってたみたいだわ…俺はセフレなんて…そんな相手いらねぇから。」


*「誰がそんなこと言ったの…?」


J「そんなことどうでもいいだろ?軽々しく男と寝る女に俺は興味ねぇから…」


*「トウジが言ったの?私とヤったって?イチが言った?私と寝たって?誰がそんなこと言ったのか知らないけど…こんなに長い間一緒にいてジュイは私がそんな事する女だと思ったんだね…。やっぱり私たちあのとき…間違えたね…ジュイの言うように…なかった事にしよう。じゃね…」



こんなに長い間一緒にいて…知れば知るほどミラのこと好きになっていったよ…


こんなに長い間一緒にいて…ミラは1度でも俺の気持ちに気付いた?


こんなに長い間一緒いたからこそミラが他の男とそんな事してると思っただけで他の男がミラに触れてると思っただけで…俺は気が狂いそうなんだよ。


俺は作業室を出て行くミラの後ろ姿をただ見つめる事しか出来なかった。


つづく

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