第35話


ミラサイド


私は気づいてしまった。


イチが…角砂糖を飲んでないって事に。


ユウもハヤトも魔法が効いてるときは私のことをミラと名前で呼び捨てにしていた。


そして、魔法から醒めると…私をまた、ねぇさんといつも通りに呼ぶようになった。


しかしイチは…昔から今もずっと…私のことをねぇさんと呼び続けていて…


確か聞き間違いでなければイチはあの時こう言った。


「好きだよ?ねぇさんの事がずっと好きだった…」


私はイチの気持ちにずっと気づいてなかった。


私を心配してチキンを持って来てくれたイチはいつもとなんら変わらないように装っているイチだけど…いつもとは何かが違って感じた。


i「ねぇさんはジュイが好きなんでしょ?俺…ねぇさんのこと好きなのにそんなの辛いじゃん?だから…キスしよ?最初で最後のキスで…俺のこと…魔法から醒めさせて…?」


イチのその言葉に一瞬…心臓が止まった気がした。


イチが嘘を言っていると私が気づいたことは絶対にイチにはバレてはいけないと思ったから。


*「うん…分かった。」


そして、私はゆっくりとイチに触れるだけのキスをした。


イチごめんね…あの角砂糖を飲んでないと知りながら気づかないふりをする私を許して…そう心の中で呟きながら。


*「イチ…私のこと…どう思う?」


なんて私は残酷で酷いことをイチに問いかけているのだろうとそんな自分が怖くなった。


i「もう…好きじゃないよ…」


そう言ったイチの目には微かに涙が揺らいでいて、思わず私が泣きそうになるのをグッと堪える。


ダメ…私が泣いたら…ダメなんだよ。


*「よかった…イチも魔法から醒めた。」


無理やり笑顔を作りイチに向けると、イチは私から目を背けるようにして足早に帰って行った。


そして、私はひとり残された部屋で自分の無神経さとイチに対する申し訳ない気持ちに耐えかねてうずくまり膝を抱えて泣いた。





〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜




トウジサイド


収録が終わるとイチさんが慌てて荷物をまとめて楽屋を出て行った。


たぶん、ねぇさんの所にいくんだろなとあの大きな背中を見て俺はそう思ったのと同時に、すぐに行動できる仁さんが少しだけ羨ましかった。


すると、まだ楽屋にいたリノンが俺の腕に巻きついて言った。


リ「私の部屋に一緒に帰ろ?」


やだ…こんなやつと帰りたくない。


ましてやこんなやつの部屋に入りたくなんかない。


なのに俺の口は平気で嘘をつく…大好きな人を守るために。


T「うん。分かった。」


そう動いた自分の言葉に少し恐ろしくなった。


おそらく俺たちの会話が聞こえたのだろう…ソラが眉間にシワを寄せ俺たちを睨む。


そして、俺はリノンと一緒にリノンの住む家に行った。


さすが、大手週刊誌の社長令嬢なだけあって一人暮らしにしては大きすぎる綺麗なマンションに住んでいた。


リ「適当に座ってて…お腹すいたでしょ?ご飯作ろうか?」


まるで本当の恋人のようにそう問いかけてくるリノンに、それがリノンじゃなくてねぇさんだったらどんなに幸せだったんだろうと俺は想いを重ねる。


T「食欲ないからいいや…」


俺がそう言うと少しムスッとした顔をして俺の座るソファの横にリノンが座ってもたれかかってきた。


リ「じゃ…どうする?何したい?」


T「別になにも…」


リ「そう?私は気持ちいいこと…したい。」


T「はぁ?」


リノンにされるがままだった俺はリノンの言葉を聞いて咄嗟にリノンの肩を強く押し距離を取ろうとした。


リ「ねぇ…私たち付き合ってるんだからそう言う事するのは普通でしょ?私の事…トウジの此処で気持ちよくしてよ…」


そう言ってリノンは俺の敏感な部分に手を伸ばし掴もうとするので、俺は思わず後ずさりし咄嗟に腰を引いた。


T「はぁ!?なに考えてんだよ!?」


俺はリノンから離れるようにし後退りをし、ポケットの中に手を入れた。


リ「なに?出来ないの?じゃ…しょうがないね…ミラさん可哀想…あんな動画流されたら世界中から叩かれるんだろな…」


T「お前が流さなかったらいいだけじゃん…消せよあんな何の根拠もない動画…俺を脅して自分の物にしてなんの意味があるんだよ…。」


リ「トウジが私の言う通りにしてくれたら動画消してあげてもいいわ…。脅さないと私と付き合ってくれないでしょ?あんな女なんか消えたらいいのに…今日だってちょっとヤケドしたぐらいで大袈裟な…みんなに心配されて本当ウザい。あの人が消えてくれるなら私はなんだってする。」


T「それが…お前の本心なんだな…」


リ「えぇそうよ。これが私の本心…私は私が幸せだったら誰が不幸になっても構わないの。」


T「そっか…好きにしろ。俺はもう、付き合いきれねぇわ…。」


リ「!?あんたがずっと片思いしてきたあの女がどうなってもいいの!?」


T「あぁ…いいよ。俺にはこれがあるからな。」


俺はポケットの中からボイスレコーダーで録音中になっているスマホを取り出した。


リ「なにそれ…貸しなさいよ!?」


リノンはさっき吐き捨てるように言った自分の言葉が録音されていると知り、手を伸ばしてそのスマホを俺から奪おうとするが俺は立ち上がり、手をあげてリノンの届かない場所からスマホをヒラヒラとさせた。


T「お前があの動画流したら俺はこの録音されて内容を会社に伝える。俺、一応あの会社で稼ぎ頭のグループにいるんだよね。知ってた?そんな大切なグループのメンバーを脅してさ?これ警察に被害届も出せるレベルだよね?」


リ「トウジ……」


T「消せよ…今すぐあの動画消せ。」


俺が強い口調でそう言うとリノンは仕方なさそうな顔をしてスマホを手に取り動画を消し、俺は消去済みファルダーに残っているデーターもすべて目の前て消させた。


リ「私は消したんだから…あんたも消しなさいよ!!」


T「分かった。」


俺はスマホを操作し録音メモを消した。


フリをした。


T「消したよ。じゃ、俺帰るわ〜」


リ「トウジ…こんな事して…絶対許さないんだから…」


俺はリノンのその言葉を背中越しに聞いて居心地が最悪だったリノンの部屋を出た。


俺はその足で事務所に戻りリーダーであるナオくんに相談しようと作業室を訪れたら、なんとその部屋からソラが出てきた。


T「ソラがナオくんの部屋で何やってんの!?」


SR「え…っと…相談?」


明らかにソラの目が泳いでいて様子がおかしい。


すると、後ろからナオくんが出てきた。


N「ソラ?もう、事務所のみんなにも今、報告したんだから隠さなくていいよ。」


T「え…え…待って待って!?なんの話!?」


N「とりあえず、中に入れよ。」


ナオくんの声を聞いて俺は中に入りそれに続いてソラが入ってくる。


N「さっき、社長にも報告してきたんだけど…俺とソラ婚約したから。」


T「はぁ!?ソラが留学前から付き合ってた彼氏って…ナオくんの事だったの!?」


ソラに大切な彼氏がいるとは留学前から聞いていたが、まさかその相手がナオくんだとは思ってもみなかった俺は驚きを隠せない。


N「そうだよ。だからお前の流した嘘の噂も知ってる。」


T「え…っとそれは…すいません。ってか2人が婚約とかなんか衝撃なんだけど!!」


まさか、俺のくだらない嘘がナオくんにバレていたなんて気まずい俺は慌てて話を婚約の方へと切り替える。


N「ソラの歓迎会があるだろ?そこでみんなに報告する予定なんだけどな?それに合わせてファンにも婚約の報告する予定なんだ。」


T「マジか〜なんか〜うわぁ〜言葉にならね〜ビックリ〜」


N「なんだそれ。で、トウジどうしたんだ?こんな時間に事務所に戻ってきてまで俺になんか用があったんだろ?」


T「あぁ…実は…」


ナオくんの言葉によって我に返った俺は小さく咳払いをし座り直した。


SR「ナオくんは知ってるよ。さすがにリノン との事まで隠せないと思ったから一応…ナオくんに伝えたの…勝手な事してごめんね。」


ソラはそう言って俺に謝った。


T「いや…俺も1人じゃ無理だと思ったし…これ聞いてください。」


そして、俺はナオくんにさっき録音したばかりのリノンの言葉を聞いてもらった。


N「なるほど……」


ナオくんは驚く様子もなく冷静な顔をしてそれを何度も聞いていた。


T「あの時は証拠もなかったしリノンの言いなりになるしかなかったけど…証拠を持っていればリノンも強気に出られないだろうし動画もすべて消去させた…」


N「とりあえず、これ上層部に報告しておこう。もう、トウジはリノンに関わるな。何かあればすぐに俺がソラに相談しろ…分かったな?」


T「はい…じゃ、俺帰るね。」


SR「私も帰る…ナオくんまた明日ね。」


N「おぅ愛してるぞ。」


俺の前で恥ずかしげもなくイチャイチャする2人を俺はニヤニヤしながら見つめ、俺とソラはナオくんの作業室を出て会社の玄関へ向かいながら話しをした。


T「いやぁ〜ソラさん愛されてますね〜」


俺が少しふざけながらそう言うとソラは頬を膨らませて拗ねる。


SR「さん付けとか呼んだこともないくせに。」


T「ナオくんのお嫁さんになる人だから呼び捨てにはできないかなと思って。」


SR「トウジと私は数ヶ月しか誕生日変わらないでしょ!ってかさ?トウジなんでリノンに脅される前に私に彼女できたとかくだらない嘘ついたの!?」


ソラはすぐに俺の痛い所をこうやって突いてくる。


T「だってさ?トウジは顔はいいのにまだ、女知らないなんてね〜。っていつもバカにされてたから2年ぶりに会ってまたねぇさんの前でチェリーボーイ呼ばわりされたら俺カッコ悪いじゃん?」


SR「しょうもな。ってかいい加減さ?ねぇさんに私の事好きっていうのは嘘だって言いなよ?もう、リノンの事は上にも報告するんだし。」


ソラは呆れた顔をして簡単にそう言うがそんなことが俺にできたのならこんなに苦労はしていないのだ。


T「いや、さすがにもうそんな話忘れてるでしょ。」


SR「あの人そういう事だけは覚えてるから!ねぇさんが変な勘違いしてなきゃいいけど〜じゃ、私こっちだから明日ね?」


T「あいよ〜!」


変な勘違いか…


2年前に噂になった俺がソラに片思いしてるって言うのは…嘘なんだよ…?ってねぇさんに言ったところで…だから?ってなりそうだし。


かといって、本当はねぇさんが好きだ!!なんてジュイの気持ちを考えたら今の俺には絶対にねぇさんには言えない。


そう考えるとただただ気が重くなっていく一方で俺は頭を抱えながら深いため息を落とした。



つづく

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