第30話
トウジサイド
リノンが俺の作業室から出てすぐに外でリノンと誰かの話し声が聞こえてきた。
何事かと思った俺はしばらく部屋の中で様子を伺っていたが、俺はまさかと思い慌てて外に出るとそこではリノンとソラが揉めていた。
SR「トウジ…なんでリノンがトウジの作業室から出てくるの?」
ソラは作業室から出てきた俺を問い詰める。
リ「あんたに関係ないでしょ?ねぇ?」
リノはソラに見せつけるように俺の腕に自分の腕を巻きつけると、俺の肩に頭をもたれ掛からせた。
ソラはその光景をみて信じられないと言うように怒りにも見える表情をして俺を睨みつける。
SR「なにそれ…どういうことよ?」
リ「私たち付き合ってるの。ねぇ冬二?」
そう言ってリノンは俺の腕に巻きついた手をぎゅっと痛いぐらいに握り爪を食い込ませると、俺の反応を伺っている。
T「あぁ…。」
SR「はぁ!?付き合ってる!?彼女できたってリノンの事だったの!?」
俺のついた小さな嘘がタイミングよくと言うべきなのか?
悪くと言うべきなのか?
うまく話が繋がってしまい俺は過去の自分の言動を反省した。
リ「トウジそんな事言ってたの?」
T「忙しいから2人とも帰ってくれ。」
もうどうでもよくなった俺は自分が情けなくてリノンを強引に引き剥がして作業室へと入った。
なんでこんな事になってしまったのだろう…
そんな事を考えながら頭を抱えていると激しく作業室の扉が叩かれた。
そこに立っているのが誰なのか大体、想像がついている俺は自分の気持ちを深呼吸で落ち着かせゆっくりと扉を開けると、俺が開け切る前に勢いよくソラの手によって扉が開けられた。
SR「あんた一体、なに考えてんの!?」
その顔を見れば分かる。
親友であるソラがどれだけ怒りに満ち溢れているか。
T「声でけぇんだよ。とりあえず、中入れ。」
俺の後ろについて入ってくるソラは怒り狂っていて、信じられないと言いながら先ほどまでリノンが座っていたソファに今度はソラがどかっと座った。
SR「この2年で忙しすぎて頭…おかしくなったんじゃない!?」
T「うるせぇ。」
SR「本気でリノンと付き合ってんの!?」
T「あぁ…そうだよ。」
SR「なんでリノンなの!?ねぇさんの事もう本当に好きじゃないわけ!?」
T「あぁ…好きじゃねぇよ。」
好きだよ…本当はめちゃくちゃ好きなんだよ…
自分が犠牲になってもいいと思えるほど愛したのはミラ1人だけなんだ。
そんな口に出来るはずのない想いを抱えながら俺はゆっくりとイスに座った。
SR「ねぇさんのこともう、好きじゃないにしても…なんでリノンなわけ?」
T「…それは…。」
それは数年前にまで遡る。
ねぇさんへの特別な想いに気づいたのは俺が18歳の頃だった。
実の姉のように俺たちの面倒を見てくれたり、辛い時は寄り添って慰めてくれたねぇさん。
そんなねぇさんにも辛い事は沢山あったはずなのにそんな素振りひとつ見せず、いつも俺達の前では笑顔で元気いっぱいで俺たちを明るくしてくれた。
そんなねぇさんがある日
まだ、小さかった以前の事務所の非常階段で1人泣いていたんだ。
まだ子供だった俺はそんなねぇさんを見つけてもどうすれば良いか分からず、慰めることすら出来ず見て見ぬ振りをしてメンバーの元へ戻った。
それから数分後にねぇさんはいつもの笑顔で俺たちの元へ戻ってきた。
その場にいたメンバーはねぇさんがさっきまで泣いていたなんて気づかなかっただろう。
俺は1人そんなねぇさんをみてさらに心を痛めた。
そして、数日後にあのねぇさんの涙は恋人から別れを告げれたんだろなって…薬指につけていたペアリングがなくなっている事に気付いて俺は思った。
それからねぇさんには男の気配が一切なくなってより仕事に熱心になった。
ソラが入社してからねぇさんとソラは年齢は違えど仲良くなり親友となった。
そして、俺もいつの間かソラにねぇさんへの恋心を相談するようになっていた。
でも、まだなんの実績もないデビューしたてのアイドルの俺とマネージャーとの恋愛だなんて誰も認めるわけがない。
そう、分かっていた俺はいつか俺がねぇさんの誇れるアーティストになったら…誰もが認めるアーティストになったら…ねぇさんに想いを伝えようとそう俺が決意した。
そんな時、俺は新入社員のヘアメイクに「ずっと好きだった」と告白をされた。
ずっと好きだったと言われても…入社したばかりなのに俺の何を見て好きになったんだろうと不思議に思いながらも優しくその告白は受け入れられないと伝えた。
すると、その子はすぐに俺の気持ちを理解し納得してくれたけど偶然…俺が告白されている所をリノンが目撃していた。
そしてリノンは俺に告白してきたそのスタッフに嫌がらせをして事務所を辞めさせた。
それを知った俺は幹部のスタッフにそれを相談してリノンを辞めさせるように頼んだ。
がしかし…
「リノンはうちからは辞めさせられないよ。大手週刊誌の社長令嬢だ。社長直々のお願いでうちに入社したからそこと関係が切れると後々大変になる。」
T「でも!?」
「担当からは外れてもらって今度デビューが決まった子達に変更するよ。それで…トウジも様子見てくれ…。」
T「分かりました。」
そんなやり取りの末、リノンは俺たちの担当から外れたものの、大手週刊誌の社長令嬢というだけで会社の規律を乱す行動をしたにも関わらずクビになる事はなかった。
そして、勘の鋭いリノンは俺のねぇさんへの気持ちに気づき始めていた。
事あるごとにリノンは俺の気持ちを確かめようと探りを入れてきて、俺はそれをひたすら否定していたが…
まるでねぇさんに執着するかのように俺にあんな女のとこがいいの?と毎日のように連絡してきた。
そんなリノンをみて俺はまた、あのスタッフの子の時のようにリノンがねぇさんに嫌がらせをするのではないかと思いねぇさんを守る事に必死だった。
そんな時、ソラの留学が決まりしばらくの間、事務所を離れることになった。
そして、俺はソラにとあることを頼んだ。
T「ソラ頼む!俺が片想いしてるのはソラだって噂…流したい…」
SR「はぁ!?ねぇさんの事好きなくせに何言ってんの!?」
T「ねぇさんのこと守るためだと思って頼むよ…」
SR「意味わかんない!」
ソラはそう言ってものすごく怒ってたけど、当時の俺にはその方法しか見つからなくて、俺が流した噂はいつの間にかコロコロと変わっていき…
トウジがソラに片思いしてる…から最終的にはトウジがソラに振られて、ソラが気まずくなったから留学に行った。と言うことになっていた。
俺はそれをうまく利用してインタビューなどで恋愛について聞かれると、忘れられない人がいるが今は遠くにいると話していた。
だから、リノンもその噂を信じていると俺はそう思っていたがそれは俺の思い違いだった。
あいつはずっと俺がねぇさんのこと好きだと確信しながらタイミングを伺っていた。
ねぇさんに嫌がらせをしなかったのは、ただ単に俺がねぇさんへ行動を起こさなかったからだ。
SR「リノがした事…知ってるでしょ?トウジもリノンをクビにしてくれってスタッフに頼んだんじゃないの!?なのになんでリノンと付き合ってるの!!意味がわからない。」
T「俺にはこれしか方法が見つからなかったんだ…」
俺の言葉を聞いたソラは一瞬にして表情が変わった。
SR「え?」
T「見られた相手が悪かった。」
SR「なにそれどういう意味?」
T「…昨日、ねぇさんとジュイがキスして抱き合ったままホテルの部屋の中に入っていったみたいなんだ。その動画をリノンが撮影して持ってる…」
SR「え!?ねぇさんとジュイ…いつの間にそんな関係になってんの。もしかしてトウジそれでリノンに脅されてるの?動画を流出させたくなかったら付き合えって?」
T「あぁ、あいつは昔からねぇさんに執着してる。ねぇさんを消そうとしてるんだよ。」
SR「あいつホントどこまでも腐ってる。大手週刊誌の社長令嬢なんか入社させるからこんな事になるのに…」
T「とりあえず、俺はリノンの言う通りにして機嫌をとりながら様子を伺う。だからソラもねぇさんのこと…頼んだよ。」
SR「ほんとなにが好きじゃないよ。2年経ってもまだ、ねぇさんにべた惚れしてんじゃん。ねぇさんの事は私も注意して見ておくから安心して…じゃ…」
真実を知ったソラは俺の肩を力強く叩くと俺の作業室から出て行った。
つづく
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