第28話


事務所に戻った私は事務室にいるスタッフに軽く帰国の挨拶をしてからトウジの作業室へと向かった。


先に作業室に行っていたトウジは帽子とマスクを外してリラックスした様子でソファに座っていた。


*「トウジ、ヒゲ生えてる。」


T「うん。だって剃ってないもん。ねぇさんはヒゲない俺の方が好き?」


トウジはわざとらしくアゴを触りながら眉をピクっとさせて、ふざけながら私を揶揄うようにそう問いかける。


*「どっちも好きよ…」


トウジはヒゲがあろうがなかろうが私にとったら可愛い弟のような存在。


ヒゲなんて正直どうでもいいほどトウジは顔が整っていて綺麗な顔をしている。


T「嬉しいな〜ねぇさんにそんな風に思ってもらえて。」


*「ブルレのみんなは私にとって大切な弟達だもん…ヒゲが生えようがハゲようがお腹が出ようがそんなのまーったく関係ない。」


T「でも、ねぇさんにとってジュイだけは特別…だけどね?ってか?早速だけど昨日のことだけど?」


*「うん……」


真剣な顔になったトウジはジュースの蓋を開けて私に渡すと、しばらくの沈黙のあと少しため息を落としゆっくりと話し始めた。


T「別に俺はねぇさんを責めるつもりはないけど、声…俺の部屋まで丸聞こえだった。2人とも激しすぎだしガード甘すぎ。ジュイの部屋が俺とねぇさんの部屋の間だったから良かったものの…」


*「ごめん…」


T「で?なんで、2人は朝からあんなに気まずそうなの?普通なら1番ラブラブな時期だろ?」


トウジはソファに座り直し、私に隣に座るようソファの座席をトントンと叩くと私はトウジに言われた通りそこに座った。


*「……分からないの…私はジュイのこと…好きかもしれない…だけど…」


T「だけど…?」


*「ジュイは…違うのかもしれないね…?」


T「え?」


*「ジュイは魔法せいで私を好きだと思ってるだけかもしれないし…」


私の言葉を聞くとトウジは少し呆れたように言った。

 

T「今さら?」


*「そもそもマネージャーがタレントとこんな関係になるなんて良くないし、ジュイにとったら私は多くいる女のうちの1人かもしれないし…」


T「それで気まずそうにしてんの?」


*「…実は…今朝…リノンちゃんがジュイの部屋から出てくるとこ見ちゃったの………そしたらジュイは急に私を避けるようになって……私このままだとジュイを責めちゃいそうで…ジュイを自分だけのモノにしたくて夢の邪魔までしちゃいそう……」


ジュイを信じたい…そう思った私はジュイの部屋からリノンちゃんが出てきたのを見て物凄くショックだった。


朝から私を避けるような態度を取るジュイに胸が痛くて理解が出来なくて、自分の感情のままにジュイを責めてしまいそうになる自分が怖ったのだ。


T「夢の邪魔かどうかはねぇさんが決めることじゃねぇだろ?じゃ、ねぇさんは俺たちアイドルは一生恋愛するなって言いたいの?」


*「そうじゃない。そうじゃなくて…あなた達を守る側にいるはずのマネージャーが相手だなんて…1番ダメなんだよ。」


T「そんなの綺麗事だよ。マネージャーだろうがスタッフだろうが人間同士の付き合いを俺たちはしてる。その中で惹かれあったって不思議じゃない。マネージャーだからダメだなんて綺麗事言ってさ本当はジュイの事、もう誰にも触られたくないぐらい…惚れちゃったんじゃないの?リノンに嫉妬するくらいジュイが好きなんだろ!?」


普段、とても穏やかで優しいトウジが珍しくそう声を荒げ、驚いた私は思わず言葉を失った。


*「トウジ…」


私の驚いた顔に気づいたトウジはハッとしていつも通りの優しい顔に戻り、落ち着いた声で私のことを心配そうに見つめ話し出す。


T「あ…ごめん。でも、ジュイが遊びでねぇさんとそんな関係になったなんて俺は考えられないから…ねぇさんが思ってる以上にジュイはちゃんとねぇさんのこと考えてるよ?」


*「だからそれは魔法の…」


T「もう、魔法の話はいいから!一度ちゃんとジュイと向き合って話し合えって!」


私はトウジにそう言われ確かにそうだなと思った私はトウジの言葉に頷いた。


*「…そうだね…好きなのは本当のことだし…1度ちゃんとジュイと話してみるよ…」


T「分かったならこの話はおわり!とっとと帰てくださーい!」


*「ちょ…ちょっとトウジ!!」


トウジはそう言って私の背中をぐいぐいと押しながら私を作業室から追い出した。


仕方なく廊下を歩きながらマネージャー室のデスクに戻ろうとすると後ろから声をかけられた。


「ミラさん!」


ゆっくりと振り返るとそこには笑顔で手を振るリノンちゃんがいて私は固まる。


一瞬、私の頭の中にはリノンちゃんがジュイの部屋から出てきた今朝のことや睨み付けられた事がよぎり、嫌な気持ちになったが同じ会社のスタッフとして無難な対応をした。


*「リノンちゃんおつかれ様。リノンちゃん達ももう日本に帰って来てたんだね?」


リ「はい。みなさんより1本遅い便で帰ってきたんです。」


*「そうなんだ。じゃ…おつか…」


リ「さっきまでどこに行ってたんですか?」


まるで私の行動を把握したいかのようなリノンちゃん。


私の言葉を遮るように言ったその問いかけに少しカチンときたが愛想笑い見せて私は答えた。


*「え?あぁ〜トウジの作業室だよ。」


リ「トウジさんの…?やっぱり仲良しですね…羨ましい。」


*「羨ましい?でも、リノンちゃんもあの子達の担当してた時みんなと仲良かったんじゃない?例えば…ジュイとか?」


自分だって早朝からジュイのホテルの部屋に出入りするような関係なのに、なぜ私が羨ましいのだろうと思いながら、わさどジュイの名前を出してリノンちゃんの様子を伺う。


リ「どうだろ…?私はミラさんが羨ましいです…仕事も出来てスタッフから可愛がられてみんなからは信頼されて…私の憧れですよ。」


リノンちゃんはそんな見え透いた嘘のお世辞を私に言ってジュイのことをスルーした。


*「またまた〜お世辞でもありがと。じゃ…私…デスク戻ってもいいかな?」


正直もうこれ以上、今の私はリノンちゃんの顔を見たくないのでその場から離れるように話を仕向けた。


リ「あ…忙しいのにお時間取らせちゃってすいません。じゃまた!」


そう言ってリノンちゃんはわざとらしい笑顔を見せて消えて行った。


リノンちゃんは今まで通りすがってもお疲れ様ですの挨拶だけだった。


なのに最近、やたらと私に話しかけてくるようになったリノンちゃんに少しの違和感を覚えながら私はデスクに戻り、資料をまとめて仕事を終えると家へと帰った。



つづく

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