第19話


診察の結果は捻挫。


2、3日の安静で大丈夫だという事だったので私は少し安心したがユウの顔色はいつもより暗い。


Y「明日のリハはムリって事か…」


ユウが帰りのタクシーでそうつぶやき窓の外を眺める。


確かに忙しい彼らにとって2、3日休むと言う事はとても大変な事でスケジュールが詰まっていると言う事もあり、休めば休むほど色んな事に支障が出てくる。


私もそれを分かってはいるが今、無理をさせて怪我が長引くよりはしっかりと休ませて復帰する方がいいと思っているので、もどかしそうなユウの姿に何がしてあげれるのだろうかと考える。



*「無理して長引くより安静にしてすぐ治る方がいいでしょ?」


Y「まぁ、そうだけど。」


*「セイジ先輩に報告の連絡しとくからね?」


そう言って私は先輩に電話した。


*「もしもしミラです。ユウなんですが診察の結果、捻挫なので2、3日の安静で大丈夫と言うことです。」


セ「そっか…落ち込んでるでしょ?」


*「はい…明日のリハの事を気にしてます…」


セ「今は安静にして怪我を治すことを1番に考えるように伝えといて?あとは…よろしくね?」


*「はい。分かりました。」


セ「みんなには俺から伝えとくからミラもユウを寮まで送ったら直帰で大丈夫だからね?お疲れさま…」


*「はい…お疲れさまです!」


そうして私は先輩との電話を切った。


Y「セイジさん怒ってた?」


ユウが不安そうに問いかけてくる。


*「今は怪我を治すことだけ考えろって」


Y「そっか…」


強そうにみせて本当は誰よりも心が脆く繊細なユウ。


怪我で気持ちが滅入らなかったらいいなと思い、私は少しでもユウが元気出るようにとある事を提案した。


*「ねぇ…お腹すかない?なんか元気の出るご飯でも作ろっか!?」


ウチの母がいつも言っていた。


心や体が弱っている時ほど温かいご飯を食べれば少しは元気が出ると。


私もそうやって母から沢山の元気をもらったから、今度は私の細やかな手料理でユウに元気をあげたい。


Y「ミラが作ってくれるの?」


*「簡単なので良かったらね?寮になんか食材あるの?」


Y「まぁ~あるっちゃあるよ?ミラの手料理久しぶりだな…楽しみ。」


そう言って暗い顔だったユウの顔に笑顔がもどるのを見て私はホッと胸を撫で下ろした。



デビュー当時


育ち盛りで寮も今よりはるかに狭かった頃、私は彼らのメンバーの食事のお世話をする為に毎日、寮に通って寮母さんのようにご飯を作っていた。


そんな懐かしい思い出に私もつい顔が緩む。


*「やめてよテレる。じゃ、なんか作ってから帰るね。」


そんな話をしている間にタクシーは寮に着き、私はユウを支えながら寮に入り部屋の扉を開けて中に入ると…


*「相変わらずシンプルだね。」


ユウの部屋はデビュー当時から変わらずびっくりするぐらいに物がなくてシンプルだった。


Y「そう?あ…適当にキッチン使っていいから。」


ユウは自分の荷物をテーブルに置くと足を引きづりながら洗面所に向かい、私はキッチンの冷蔵庫を開けて材料を確認する。


*「う~んこれだったら…オムライスが限界かな…ユウ~!オムライスでもいい?」


私が少し大きな声で洗面所のユウに聞くと、ユウの返事が聞こえた。



忙しくて料理はご無沙汰だった私は久しぶりに誰かのために作る料理に気合を入れる。


丁寧に手を洗い、みじん切りにした野菜をフライパンに入れた。


*「ミラは相変わらず料理上手だね?」


気づくとユウは後ろにあるダイニングテーブルのイスに腰掛け、テーブルに頬杖をつきながら座っていた。


*「そんなとこに座ってないでソファに座って休んでなよ~!」


Y「いいじゃん見るぐらい。減るもんじゃあるまいし。」


ユウはニヤッと笑いまた、じ~っと見てくる。


*「そんな見られたやりづらい。」


私はそう言いながらも手を動かしオムライスの最難関とも言ってもいい最後の仕上げに取り掛かる。


Y「あぁ~腹減った~まだかよ〜!」


*「もうすぐで出来るから待って。」


私は気合で卵の中にうまくご飯を包み込みケチャップで「ユウ」っと書いて前に出した。


*「はい!お待たせ~!」


Y「めっちゃ美味そうじゃん。写真撮ってみんなに自慢しよ。」


*「そんな撮るほどのものじゃないのに〜」


なんて言いながらもいつもクールなユウが珍しく私の料理で喜んでくれてる姿をみるとが嬉しくて私はニヤニヤとしてしまう。


しかし、私はふと考えた。


確かユウは惚れ薬の魔法が効いていて…


私に今、ベタ惚れで…


って…よくよく考えたら健康体の成人男性が好きな女と部屋で2人っきりって…


なかなかのシュチュエーションだなと思いながら私はオムライスに夢中なユウを見つめる。


Y「いただきます!」


ユウはついさっきまで落ち込んでたとは思えないぐらいにモグモグとオムライスを頬張って幸せそうに微笑む。


*「味…大丈夫?」


Y「久しぶりのミラの味…めちゃくちゃうまい…。」


ユウはそう言うとまたオムライスを夢中で頬張った。



つづく

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