第20話
いつものユウなら私の手料理を食べてもきっと「ん。」のひと言で終わりなのに、あの惚れ薬の魔法はものすごい効き目なんだな…と私はユウを見つめながら感心していた。
*「あ…ユウ、ここにケチャップ付いてるよ?」
私が自分のほっぺを突っつきながらユウの頬に付いてしまったケチャップを取るように言うと、ユウは私の顔をじっと不思議そうに見つめる。
*「なに?」
Y「ん?ミラが…とって?」
ユウはそう言って私を少し揶揄うように笑いながら自分の頬を私の方に向けて迫ってきた。
私はそんなユウに戸惑いながらユウの肩をぐいぐいと押す。
*「もう~自分で拭きなよ〜!?」
私がそう言って誤魔し、テーブルの上にあるティッシュの箱に手を伸ばそうと中腰になると、ユウに伸ばしたその手をグイっと引き寄せられバランスの崩した私の唇にユウの唇が微かにチュッとあたった。
*「えっ…今のなに…」
咄嗟にそう動いた自分の唇からほのかにケチャップの香りがして、本当にユウとキスしてしまったんだと自覚した私は頭が真っ白でパニックになり呆然とする。
すると、ユウの大きな声で我に帰った。
Y「うん?え!?えぉぇぇえぇぇぇえ!?こ…こっちが聞きてぇんだけど!?ねぇさん…今…俺に何したんだよ!?」
なぜか今まで私に甘い視線を向けていたはずのユウの瞳は一瞬にしてガラッと変わり、私のことを疑うような顔で見つめると飛び上がるようにして私から距離を置いた。
*「えっ?ユウ?」
そんなユウの姿を見た私がユウに近づこうと手を伸ばすと、ユウは必死な顔をして手を伸ばして拒み、私が近づかないように目で訴えかけてくる。
Y「それ以上俺に近づくな!今…ねぇさん…俺に…キ…キスしただろ!?」
え…まさかの…濡れ衣…
あれはどう考えてもシチュエーション的にも私からではなくユウから私にキスをしてきたはず。
なのに何故かユウの中では私からキスをしてきたと脳内変換され、私の頭の中はさらにパニックになっている。
私は少し深呼吸をして濡れ衣を晴らそうとユウに一歩、近づいた瞬間…
私の背後から背筋の凍るような声が聞こえてきて私は恐る恐る振り返った。
J「ミラ、どういうことだよ…ユウさんにキス…したって…」
そこにはメンバー全員が揃って帰宅していて、先頭には鬼のような顔をしたジュイが私をじっと見つめて仁王だちしそう問いかけた。
しかし、その状況にパニックになっている私の頭の中からはもう、何も思い浮かばない。
J「…聞こえてるよな?ミラ…本当にユウさんとキスしたのかよ?」
緊張から声すら出てこず、何も答えられずにいる私にそうプレッシャーをかけてくるジュイに私は微かに唇を震わせながら言った。
*「え…いや…ちょっとこう手が滑って…事故よ事故!!」
ようやく絞り出すようにして出てきた言葉がこれだった。
いや、待て待て…なんで私は今、こんな後ろめたい気持ちになってるんだ?
確かにキスをしてしまったのは悪いかもしれない。
けれど決して私からユウをたぶらかしてキスした訳でもなけりゃ…
脅してした訳でもなく。
あくまでもユウの方から私にキスしてきたんだからそれを素直にメンバー達に伝えれば良いだけの話。
まるで浮気現場を見られて、問い詰められて焦ってるみたいな雰囲気になってしまっている事に私は納得がいかない。
自分しっかりしろ…
平常心を保て…平常心を保つんだ!!
そう私は自分自身に言い聞かせる。
*「わわわ…私からしたんじゃなくて…!!ユウが…!!」
J「なんでミラは俺の言うことが聞けないの?勝手な事するなってあんなに言ったよね?皆はそんなに俺を怒らせたいの?」
ジュイは私の言葉を遮るように言葉を立て続けに並べ、私はなぜかジュイの目をみると何も言えなくなってしまった。
*「……ごめん…。」
ジュイに責められて私の口から出たその言葉にジュイは小さくため息をつくと、メンバーたちは気まずそうに視線を逸らした。
J「謝っても許さないよ。こっち来て。」
ジュイはそう言って私の手首を掴み引っ張っていくと自分の部屋へと私を押し込んだ。
つづく
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